きみのせかい
グラフィックデザインコース 岡田 茉里乃
作品サイズ:A5正方形
本作品は、「動物の立場から災害について考えること」をテーマとした、大人向けのペット防災絵本です。災害時の避難はこれまで主に人間を中心に考えられてきましたが、現在では多くのご家庭においてペットはかけがえのない家族の一員として共に暮らしています。しかし実際の災害の場面を想像したとき、「この子を守れるだろうか」「一緒に避難できるだろうか」といった問いに対して、具体的なイメージを持つことは決して簡単ではありません。
そこで本作品では、人間がペットを守るという視点ではなく、「ペットの立場から世界を見る」という構造を取り入れました。視点を反転させることで、私たちが日常的に当たり前だと感じている住環境や社会の仕組みが、いかに人間中心に成り立っているのかを静かに見つめ直すきっかけになることを目指しています。
表現形式としては、あえて小さく薄い絵本というかたちを選びました。防災というテーマは、どうしても情報量が多くなり、教科書的・マニュアル的な印象を与えてしまいがちです。しかし本作品では、手に取りやすく、負担なく読めるサイズ感を大切にすることで、読むというよりもそっと寄り添うような体験を生み出したいと考えました。大きな啓発を行うのではなく、日常の延長線上でふと立ち止まり、自分自身の暮らしを見つめ直す時間につながることを願っています。
ビジュアル表現においては、言葉による説明を最小限に抑え、余白や視線の流れを大切にした構成としています。状況の変化や心理的な距離感は、色合いや構図、スケールの違いによって表現し、読む方が自然と情景を感じ取れるよう工夫しました。これにより、それぞれの生活や経験に重ねながら、自分自身の問題として受け止めていただける余地を残しています。
また、動物の描写については、過度に擬人化することを避けつつ、確かに感情が存在していると感じられる表現を心がけました。かわいそうという感情を一方的に引き出すのではなく、「共に生きる存在」としての距離感を大切にしています。
本作品は、ペットを飼っている方だけでなく、普段防災について深く考える機会の少ない方々にも手に取っていただきたいと考えています。災害時に何を持ち出すか、どこへ避難するかといった具体的な行動の前に、「誰と生きていきたいのか」という根源的な問いに静かに向き合うきっかけとなることを目的としています。
制作にあたっては、動物の視点に立った行動や生活動線を丁寧に想定し、ラフスケッチや構図の検証を重ねました。特に視線の高さや移動範囲といった物理的な制約を踏まえた空間表現は、本作品の重要な要素のひとつとなっています。
本作品は、防災の知識を教えることを目的としたものではありません。むしろ、災害という出来事を自分ごととして捉え直し、人と動物が共に生きる社会の中で「守る」とは何かを静かに問いかける、小さな入口となることを願っています。
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