
私は海景画を得意としたフランス人画家、ウジェーヌ・ブーダン( Eugène Boudin, 1824-1898)について研究しました。美術展で鑑賞した《トゥルーヴィルの海岸の皇后ウジェニー》に強く引き込まれ、砂浜に吹く潮風を感じたような体験をしたことがきっかけです。以降ブーダンに傾倒するようになり、絵画から風を感じた理由を知りたいと考えました。
著名な画家ではないため日本には彼に関する論文が存在せず、研究するうえで困難を感じましたが、彼の作品を見比べ他の画家と比較して検討しました。そしてブーダンの描く空には画面上部の角に丸みがあり、雲を放射状に配置して筆を弓形に運んでいることを発見し、この空のわずかな歪みを観者が頭の中で無意識的に修正することで絵画への没入感が生まれていると考えました。自然観察に忠実な光と大気の揺らめきで構成された弧を描く空、これがブーダン作品における空の独創性で、風を感じるような臨場感の一因であり、写実を超える現実感を与えていると結論付けました。
たくさんの方にブーダンを知っていただきたいと思い書き上げたこの卒業研究がひとりでも多くの人の目に留まれば幸いです。