情報デザイン学科

【🏅受賞者インタビュー!前編】情報デザイン学科3年 猪本倖汰さん、佐伯佳蓮さん、日本デザイン学会第4支部奨励賞を受賞

情報デザイン学科 3年 猪本倖汰さん(左)、 佐伯佳蓮さん(右)

この度、情報デザイン学科3年猪本倖汰さんと佐伯佳蓮さんが、「日本デザイン学会第4支部奨励賞」(※1) を受賞いたしました。
受賞者2名は、それぞれ設定したテーマに沿って先行事例や関連企業をリサーチし、社会での取り組み、実際の商品や消費者動向などからも着想を得て「デザインとは何か」を自らの内面に問い、丁寧な探求へと発展させていきました。

今回、猪本さんと佐伯さんにはデザインの研究プロセスについてお話を伺いました。本ブログでは、この学科で作品についての議論がどこまで深掘りされているのか、デザイン研究との向き合い方について、学生と教員の実際の問答をロングインタビューを前編後編に分け、たっぷりと収録いたしました。どうぞご覧ください。

(聞き手 ー教員 大久保 亞夜子)

猪本倖汰さん(前編)

「紙の静けさと、変化を読む。―紙のメディア性の拡張提案」

猪本さんは、紙をメディアとして捉え直し、紙に対する新たな視点・用途を自由に発想できる装置と制御ソフト「TEYOMU」を開発。さまざまな風合いのファンシーペーパーを取り扱う平和紙業株式会社のギャラリー「ペーパーボイス大阪」を訪れていく中で構想を膨らませたそうです。本研究では、ワークショップを通じてデザインとしての機能検証とプロトタイプの改善を重ねていった経緯を伺います。

猪本倖汰さんの「TEYOMU」。3Dプリンターを使って装置を開発。紙を支える10本のピンが上下に駆動し、紙に動きを与えるしくみ。動きによって、使い手に自由な発想とクリエイションを促す装置だ。


01

「静と動」

ー 教員大久保(以下大久保)
猪本さんこんにちは。
「紙」の意味の拡張に挑む、大変ユニークな研究ですね!テーマ選定のきっかけは何だったのでしょう?
ー 猪本さん(以下猪本)
こんにちは。ビジュアルデザインコースの猪本です。
もともと紙という素材が好きで、研究でも扱いたいと考えていたことが制作の起点です。
私は普段、映像制作も行うのですが、映像のように時間の変化を伴う表現が身近になる一方で、紙の魅力は、色や質感、厚み、手触りといった静的な物性を中心に語られることが多いと気づき、紙メディアと映像メディア、「静と動」を組み合わせる実験の構想がまとまっていきました。
ー 大久保
猪本さんのテーマの方向性が決まった頃だったかなぁ。確か、紙の折り目を工夫したり、切ったり織ったり、紙をどう動かせるかと試行錯誤していましたね。途中で「本当は紙に手を加えたくないんですよね」と苦悶していた(笑)。それで、最終的に「紙には加工を加えず、ただ動かすだけで何かに見える」といった無我の境地のような実験に至っていたことを、よく覚えています。
ー 猪本
そうですね、紙にも日焼けや退色など、時間による変化はありますが、それらは長い時間をかけて生じる不可逆的な経年変化で、映像のように変化を編集し、繰り返し再生することはできません。
そこで、紙が本来持つ物性的な魅力を残しながら、意図的に設計できる時間を加えられないか?との考えに至りましたね。


02

脳をくすぐる装置?

ー 大久保
素敵な設計思想だね!紙を動かす装置「TEYOMU」はこうして誕生したわけだ。
ー 猪本
はい。当初は、動画的な表現を紙で実現する発想から始まったのですが、制作を進める中で、単なる映像の模倣ではなく、紙だからこそ成立する表現を探る方向へ変化していきました。紙の質感を大切にし、それらを損なわない形で動きを加えることを目指していますね。
ー 大久保
しかもTEYOMUは、アウトプットを極めてシンプルにしたことで、良くも悪くも、見る者の意識を紙の起伏運動にのみ向けさせることに成功している。蠢く白い紙に、何か特別な意味を見出すよう、誘導している。意味なんて、まだ何も発生していないのに。「一体なんだこれは・・・?」って思わせちゃう。脳をくすぐる装置かも。
ー 猪本
はい。さらに、リサーチでペーパーボイス大阪を訪れた際、若い来場者が多かったことが印象的だったんです。紙は、古いメディアとして関心を失っているのではなく、今も人を惹きつける素材なのだと実感しました。この可能性を、別の方向へ広げたいと考えたことも、紙を無加工のまま装置に搭載した理由の一つになっています。


03

TEYOMUの心臓

「TEYOMU」は、セットした紙に有機的な動きを与える装置。 オリジナルで開発した専用の制御ソフトに動画を読み込ませると、明るさ(明度)のデータが数値化され、装置のピンを上下に動かす。例えば水面の波紋の動画を入力すれば、紙がまるで水のように波打つ、不思議な視覚効果・触覚効果が生じる。シームレスに動く点字のような印象。

ー 大久保
「TEYOMU」は、任意の「動画」を明度に変換してパラメータに反映させ、紙を動かしていますね。データソースを動画にした点にも、狙いがあるのかな?
ー 猪本

そうですね、動画を選んだのは、もともと動画的な表現を紙へ移すという発想から研究が始まったことに加え、多くの人にとって比較的身近で、さまざまな方法で制作できる入力形式だからです。

紙は、専門的な機材や知識がなくても、多くの人が扱える間口の広いメディアです。その特性を損なわないよう、実写映像だけでなく、アニメーションや写真のスライドショーなども使える仕組みにしました。映像制作を専門としない人でも、それぞれの得意な方法で紙の動きを設計できることを意識しています。

TEYOMUでは、動画を10の領域に分割し、それぞれの明度を10本のピンの動きに対応させています。明るい部分ほどピンが上がる仕組みを基本としつつ、反転も可能です。さらに、動画による制御に加え、各ピンを個別にキーフレームで動かしたり、カメラ映像に反応させたりすることもできます。

しかしこれは、映像を紙の形として正確に再現することが目的ではありません。映像が持つ時間や変化のニュアンス、時間の流れを、紙の起伏へ「翻訳する」ことを重視しています。


04

意味への、誘(いざな)い

ー 大久保
TEYOMU開発中も一緒に深掘りしましたが、今回も少し、踏み込んだ話をしましょう(笑)。デバイス開発中、私と話した内容を覚えていますか?「これはメディアアートのアプローチと何が違うの?」との問いに対し、猪本さんは「飽くまでもデザインの研究で、アートではありません。使ってもらうためのものなので、将来的にデバイスの主張をもっと削ぎ落として自然な動きに見せる必要がありますね、まだアートだと解釈されてしまう」と答えていましたね。
アートとデザインの境界を探る思考プロセスの対話は、とても面白かった。TEYOMUをデザインに位置付けようとする理由を、改めて教えてください。
ー 猪本
紙が動くという体験はまだ珍しく、現段階では、装置そのものを鑑賞するメディアアートとして解釈される可能性もあると考えています。一方で、私が目指しているのは、自分自身の表現として完結する作品ではありません。
今回制作したTEYOMUを他者が使い、それぞれの専門性や目的と結びつけることで、新たな意味や機能が発見され、その先に誰かのための表現や体験が生まれていく。研究の目的を、他者による利用と機能の発見に置いている点で、TEYOMUはデザインの研究として位置づけられると考えています。
ー 大久保
ははは!こうキッパリと言語化されると清々しい!デザインは、良くも悪くも生活や社会の中に意味を与える行為なので、意味への誘(いざな)いはデザインの本質を掴んでいるとも言え、この研究の最も面白い問いへと繋がった。実際、実機検証のためのワークショップを開催しましたね。結果はいかがでしたか?
ー 猪本

はい。実際に表現の可能性を検証するために、ビジュアルデザイン、イラストレーション、映像、ゲームを学ぶ4名の学生に協力していただき、TEYOMUを使ってどんなクリエイションが可能になるか、実験ワークショップを行ったところ、それぞれの領域から異なる作品が生まれました。

 

イラストレーションコースの学生が制作した金魚を描いたグラフィックでは、紙面に水の揺らぎを感じさせる動きを加えることで、静止したグラフィックに時間的な変化が生まれていました。グラフィックと紙の動きが自然に結びつき、紙の質感を残したまま時間的な表現を加えるという、TEYOMUの特徴がよく表れた作品でした。

 

TEYOMUの装置

制御ソフトの画面

ビジュアルデザインコースの学生が制作した、川の流れを記録するアプリと組み合わせた提案は、各地で収集した川の動きをアーカイブし、そのデータを紙の起伏として再生するものでした。TEYOMUが単に紙を動かす装置ではなく、場所ごとに異なる川の流れや時間を記録し、別の場所で再体験するためのメディアとして捉えられていた点が興味深かったです。

 

TEYOMUの装置

制御ソフトの画面

ゲームクリエイションコースの学生は、トントン相撲を発展させた作品を制作しました。従来のように人が直接箱をたたくのではなく、あらかじめ設計した紙の動きを再生し、その違いによって対戦させる仕組みです。偶然性のある遊びを、動きをつくって競わせるゲームへ変換した発想が面白く、紙でできた力士との素材的な親和性も感じました。

 

TEYOMUの装置

制御ソフトの画面

映像クリエイションコースの学生が制作した時間の経過を表す時計では、ゆっくり変化する映像を紙に投影し、それをカメラで読み取って紙の動きへ反映させていました。時刻を数字で示すのではなく、視覚的な変化と物理的な起伏によって、時間の流れそのものを感じさせる作品になっていました。

 

TEYOMUの装置

制御ソフトの画面
ー 大久保
ここまでバリエーションが生まれると壮観だよね!
ー 猪本
はい。同じ装置が、グラフィック表現、自然現象の記録と再生、ゲーム、時計など、使う人によってまったく異なる役割を持ったことが印象に残っています。
私が一つの用途を決めるのではなく、他者に使われることで意味や機能が発見されていくことに、TEYOMUの可能性を感じました。
ー 大久保
検証ワークショップということで、改善点も発見できた?
ー 猪本
はい、「紙が動く」という珍しさが先に立ち、現段階のTEYOMUは人々の生活に自然に馴染むものにはなりきれていません。今後は、駆動部分の小型化や静音化、動きの滑らかさ、操作性などを改善し、装置の存在感をさらに削ぎ落とす必要があります。装置そのものではなく、そこから生まれる表現が自然に受け入れられる状態への改善を目指しています。

ワークショップの様子

TEYOMUの装置

制御ソフトの画面

TEYOMUの装置

制御ソフトの画面

猪本倖汰さんの「TEYOMU」を使って、コースの異なる4名の学生を対象にワークショップを実施。動きを加えた紙にどんな利用用途が発想されるか実験を行った。またTEYOMUは文字通り視覚効果だけでなく、触覚からも映像情報を捉えられる装置を目指している。


05

想像力の拡張へ

ー 大久保
研究中、猪本さんは「私の作ったものでクリエイターを喜ばせたい」と話していましたね!最後に、制作理念について教えていただけますか?
ー 猪本

私は、制作物を完成させて提示することだけでなく、それが実際に人に使われ、どのように受け入れられ、どのような機能や価値を持つのかに関心があります。他者との関わりの中で意味が変化したり、想定していなかった使い方が生まれたりする過程に価値や面白さを感じています。

「クリエイターを喜ばせたい」というのも、単に新しい道具を提供したいという意味ではありません。紙で可能な表現が増え、それを手にした人が自分の専門領域から新しい用途を見つけ、「これなら別のこともできるかもしれない」と発想を広げていく。その可能性が広がっていくことに、私自身も大きな魅力を感じています。

また、素材や技術の可能性を発見し、具体的な表現や体験へ発展させることも、クリエイターの役割だと考えています。TEYOMUがさまざまなクリエイターを介して広告や教育、空間などへ展開され、その先で一般の生活者に届き、実際の体験の中で機能する。制作物が人との関係の中でどのような価値を持ち得るのかを確かめていくことを、私は制作において大切にしています。

猪本さん、どうもありがとうございました!

インタビュー後編へつづく

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関連情報・メディア

🎓 Youtube チャンネル

今回インタビューに応じてくれた猪本さんと佐伯さんは、同学年の有志と課外活動でも精力的に制作しています。

情報デザイン学科の学生と教員が出演するYoutube「ミルシルデザイン」(2026年8月13日公開)の制作ディレクターとしても大活躍中!

ユニークな学生作品と彼らの素顔、教員との掛け合いが見所のミルシルデザイン。こちらのチャンネルも、どうぞお楽しみください。


🌐 アワード

  • ※1: [日本デザイン学会第4支部奨励賞]
    本賞は、日本デザイン学会第4支部(近畿・中国・四国地区)が管轄する教育機関に所属し、デザイン学に関する優秀な研究活動や作品制作を行った学生を表彰する制度です。

インタビュアー
👤大久保 亞夜子 (おおくぼ・あやこ)


美術作家、キャラクターデザイナー、アートディレクター。

2004年東京藝術大学卒業、2006年同大学院修了(日比野克彦研究室)。在学中より、TV番組のマスコット、コンシューマーゲームタイトルのコンセプトメイキング、キャラクターデザイン、アートディレクション、3DCG演出、アプリケーション開発やサービス設計などに従事。2025年より京都芸術大学情報デザイン学科准教授。主な著書に「奇的」(青林工芸舎)等。日本デザイン学会、日本認知心理学会所属。

取材協力:平和紙業株式会社
取材:大久保 亞夜子
編集:木川 瑞希


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