こども芸術学科

こども芸術学科研修会「保育にアートは必要か?」報告

2016年3月5日先週の土曜日、京都造形芸術大学の附置機関こども芸術大学のホールにて「保育にアートは必要か?」というテーマでこども芸術学科、初の教職員研修を実施しました!養成校の先生、保育園、幼稚園の先生方など、保育関係者の方たちにたくさんご参加いただきました。学期末のお忙しい時期に本当にありがとうございました。

「保育にアートは必要か?」というテーマ「当然必要だろう」、「今更では?」などなどの声も聞えてきて、ハラハラドキドキの研修会当日を迎えました。しかし、幼稚園や保育園では当たり前のように「アート」という言葉を使っている状況にあって、「アートとは?」と直球の問いに、逆に立ち止まらせてくれる機会になったのではという言葉もいただき励まされました。

今日は当日の様子をご報告します。長文ですがお読みいただけましたら幸です。

 

最初は基調講演の田中雅道先生。

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田中先生は京都の光明幼稚園の園長、そして(公財)全日本私立幼稚園幼児教育研究機構の理事長です。現在文科省の幼稚園教育要領の改訂にも携わっておられるということで東京と京都を往復される日々だとか。

先生のお話しは多岐にわたり大変興味深いものでした。

 

例えば、先進国のPISAの例。知識のみではなく、その習得した知識をうまく「つなぎ合わせる力」が必要であるということ。

そして保育・幼児教育には知能ではなく、非認知能力が大変必要となってくるという話をハーバード大学で研究された「5歳児のごっこあそび」の論文を土台にご説明いただきました。

つまり、子どもには一問一答の問題を与えたり求めるだけではなく、それぞれの子どもの協調性や意欲、自分はここまでできるようになったということがわかる自覚、そして最後までやりきるぞという粘り強さにあるのだと。この就学前の子どもたちの学びがこれからの人生に大きく影響するということなどお話しくださいました。

また田中先生は、アートと関連づけて、ただ「自由」に表現することをメインにおくのではなく、ベースとしての「技術」は必要不可欠であり、それを「ためす時間」が大変重要であるということ。そして子どもたちの「体験」がそれぞれ内言語化され、他者に説明できるのかどうか、が重要でかつその様々な表現に大きな意味をもつのだということも付け加えられました。

これはこども芸術学科の卒業展をみてくださった皆様にもおわかりいただいたかもしれませんが、学生それぞれの作品には、なぜその作品に至ったのか、「思い」のプロセスが記されていました。幼児期にどのような環境で育ち、どのような人たちと出会い、どのような体験をしてきたかはわかりませんが、少なくとも大学4年生、社会人になる手前の時点において、多様な表現方法で他者に説明できているかな?到達できてるよね?っと思いながら、お話しをお聞きしておりました!

 

基調講演のあとは、15分ほどの休憩。

実は休憩の時間は、参加者の方たちに癒しの空間を提供ということで、こども芸術学科1回生の中島さん、道岡さん、磯部さんの3人に、グランドピアノでクラッシックを弾いてもらう!という演出を考えました。本人たちは緊張もあったのだろうと思うのですが、参加いただいた方から「うわぁ、すごい」という言葉をくださったりしたので、私もなんだかうれしくなってしまいました。中島さん、道岡さん、磯部さん、よかったね、そして、ありがとう!

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次はシンポジストの先生方による話題提供。

まず初めに、東広島にある自然豊かな環境の学校法人難波学園さざなみの森園長の難波元實先生と、こども芸術学科2期生の明神早甫先生でした。

IMG_5654IMG_5655 こども芸術学科2期生の明神早甫さんは、さざなみの森で保育士になって3年になります。その日常の保育活動の中で生まれた絵本「おばけパーティ」が出来るまでの取り組みを話してくれました。

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さざなみの森は、生きる力の「根っこ」を育てるために、「感じること」「体験すること」、つまり感性によってひらかれる保育を日々実践されておられます。ご報告の中で明神先生がこども芸術学科の学生であったころ、教員から「考える前に、手を動かしなさい」という言葉を投げかけられたとのこと。今は、彼女自身が、同じことを子どもたちに伝えているのだとか。なんだか、とっても素敵ですよね。学生時代の自分と保育士としての自分の基盤が今もなおつながっている印象ですね。

難波先生は、最後に経験の多様性、芸術に関わる造形表現・音楽表現・身体表現・・・が子どもとの対話を豊かなものにしているかどうかという視点が重要だと締くくられました。

 

2番目は、社会福祉法人東香会 しぜんの国保育園園長の齋藤絋良先生。

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前日保護者の方たちと月に1回されているフットサルで足の指を怪我されているにも関わらず、東京からお越しいただきました。先生にはご自身の園の理念と併せてsmall villageと名付けた保育環境と活動の紹介をしていただきました。子どもの感性をくすぐる人的環境・物的環境を整えておられると感じました。

保育者が得意なものから発展させていくという専門性を生かした保育実践も基盤にあるとのこと。そしてARTするとは→行動する→変容するというその思考性をどのような形で保育者が感じ理解し支援するのかというところだともおっしゃっていました。つまり多様な人たちと出逢うことで子どもが変容する過程が大切なのだとも。

 

最後は学校法人今村学園幼保連携型認定こども園 いまむらこどもえん園長の岡田美保先生。

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岡田先生には、1昨年こども芸術学科のCゼミ生(担当:梅田/平野)11名がプロジェクトで大変お世話になりました。その中で実施した年長児たちとのワークショップや新園舎のためのサイン計画(ピクトグラム)などの制作過程での、学生たちと子どもたちが関わる様子や子どもたちの姿を通して、感じられたことを中心にお話しくださいました(こども芸術学科のブログにも以前紹介されていますので是非ご覧ください)。

いまむらこどもえんは、「根っこを育てる」を理念の中心におかれ保育を展開されています。今回改めてお話しをお聴きし、このプロジェクトは、学生自身のデザインを考える基盤をつくり、チームとして行動し、言語化することも含め、表現方法を探る。そして保育現場の先生方と対話しながら相手の思いに寄り添っていくという協働と連携の土台をつくっていく地道な作業であったと思い返していました。つまり、Cゼミ生らが岡田園長やクラス担任の先生方、そして子どもたちと関わることで、彼らの「根っこ」を育ててもらったのではと思いました。

 

シンポジウムの後は参加者の皆さまよりたくさんのご感想やご質問を頂戴しましたので、一部をシンポジストの先生方、そして田中先生に投げかけお答えいただくという形で行ないました。

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今回の研修時間だけでは、本当に時間が足りませんでした。もっともっと時間を延長してでも深めたいお話ばかりで、とても残念です。こども芸術学科研修会の第2弾もやらねば!と主催者も励まされた研修会になりました。

 

最後に研修にご参加いただいた方々から,たくさんの感想を寄せていただきました。一部抜粋いたしました。

 

〇ほかの園の理念や方針、保育の進め方などあまり知る機会がないのでとても参考になりました。また雅道先生のお話しでは普段漠然とかんじていることを具体的な言葉にしていただいたような感覚です。最新の研究などのお話も頂き学びとなりました。明日に活かしたいと思います。

 

〇講演では、まさにそうだと思うことを言葉に変えてもらったような気持ちで心にしみました。同時に保育の難しさも感じました。教科書のない世界だからこそ、保育者の人間性、感性が問われる職業だと思います。今、目の前にいるこどもと関わっての声かけ、はたらきかけにマニュアルはないので自分次第。保育者自身がわくわくし、やってみたいという気持ちをもって子どもとかかわれるよう、努力したいと感じました。

 

〇保育とアートについて考える際、そのものの素材に触れたり、子どもの今の姿をとらえて育てたい力を保育の中に組み込んでいくことの大切さがわかりました。

 

〇新米の保育士で、子どもたちとの関わりに悩む日々を送っています。一人の人間として保育者として子どもたちに何を伝えていけばよいのか、これでいいのか?と正解はわからないし、果たして正解があるのかもわかりませんが…私自身が心揺さぶられることを子どもたちに返していくことで、伝えられるものがあるのかもしれないと今日思うことができました。子どもたちも、私も心をかよわせるには、やっぱり心を動かされるものの存在が必要と思いました。そのためにも、自身の心の成長も必要だと学びました。しげきを受け続けていきたいと思います。子どもたちと一緒にたくさん遊んで一緒に成長していきたいなぁ。

 

〇こども芸術学科の卒業生ですが、まだ2年目で大学で学んだことがちゃんと生かせるのか不安になる時があります。学生時代に行っていたワークショップなどとは違い、保育者として様々なことを考えながら子どもたちへ伝えたり、実践しようとしているため、思い通りにいかなかったり、子どもたちの発想を制してしまっているのではないかと葛藤することがあります。

早甫さん(シンポジスト)のように、時を生かして子どもたちと関わっていけるのはとても素晴らしいことだと思います。私もそのような、子どもと一緒に考えて楽しんでいけるような保育士になりたいと思います。今日は私にとってとても興味深い研修になりました。ありがとうございました。

 

〇基調講演を拝聴して:人として大切なことは何か(先進国であろうと後進国であろうと、狭い意味でアート向きでない人間であろうと)いと小さきもの・ことへ、心寄せる人間、自分の頭で考えることができる人間…というのが今の現在の私の回答かなと思いながら拝聴しました。シンポジウムは、真剣な試行錯誤で前進、いきいきとした園の特徴だと思いました。

 

〇子どもたちの表現によりそうこと、引き出すことを大切に日々過ごしています。アプローチの仕方は一人ひとり本当に違って楽しいとともに、難しさでもあります。時には誘導しているのではと思うの時もありますが、完成形に拘るのではなく、それまでの過程をこれからも大切にしていきたいと改めて思いました。

 

〇アートは「面白そう」「やってみたい」と心がいっぱい動いてから取り組む活動だと感じていた。今回の講演で、自分の表現方法の一つとして、感覚的に表現するのがアートだという言葉が印象的で、「アートとは何か?」という問いに対して深く掘り下げて考えるきっかけとなりました。有意義な時間をありがとうございました。

 

〇保育の質も場をかえていくことをきっかけに、より子どもたちの良い未来のために、大きく前進されている事案を伺い、そういった環境で子どもと共に保育者も多くを学ぶことができるのだと思いました。

 

〇「自由」をはき違えないことを改めて考えされられました。工夫の根っこには技術(BASE)がある。すべてを子どもに委ねる前に、保育者は1を投じないといけないと思いました。アートすることが自由な表現方法であり、それが生きていくにあたって必要である、ということに力をもらいました。

 

〇私は保育の仕事をしておりませんが、「つどいのひろば」のスタッフとして子どもの育ちについて関心がありますし、そのうえ、自分の子育て経験だけでスタッフをしているため、今日のようなお話はよい学びとなりました。まだ2歳にもならない子たちがスマホの動画を見て、喜んでいて、親もそれを簡単に与えている現状の中で、子育て中のお母さんに少しでもスマホにたよらなくてもこんな方法があるよ、こうすれば楽しいよと提案していきたいと思います。

 

〇私は保育の仕事はしていませんが、自分のやっている仕事にも共通することがたくさんありました。人と関わるとき、相手に自分の思いを伝えること、相手の話を聞くこと、お互いを知ること、寄り添うこと。そういうことを日々丁寧に積み重ねていくことが大事だと思いました。日々の小さいことに気付ける心、アンテナを持ち続けたいです。

 

〇保育者は常に教材研究をしなければならない。京都造形芸術大学から発信してほしいです。

 

ご参加いただきました皆様、本当にありがとうございました。このご縁が続きますよう、そして未来を担う子どもたちのより良い育ちを今後とも皆さんとともに真剣に考えていければと思います。また次回お会いできる日を楽しみにしています。

 

(教員:平野/梅田)

 

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