文芸コース 三宅紫穂【学科賞】
作品から何を受け取るかは読者次第だとよく言われる。私もそう思う。だとすると、読者が作品から何かを受け取れるような、作品を読むことで自分の考えが促されるような、「自分だったら?」と読者が「自分」に引きつけて読めるような、そんな作品にしたいと考えた。そうやってこの作品と1年半向き合う中で、「様々なテーマを読者と一緒に考えたい」「あなたはどう思う?と投げかけたい」というのが、私の描く動機につながるものではないか、という考えに思い至ることができた。
本作品は、「すべて上手くいく」と無意識に考えている、子どもらしい素直さと自信をもった少年が主人公である。そんな少年がサーカス団と出会い、思うようにならないことや理不尽なこと、初めて自覚する自分の嫌な一面、または色んな種類のカッコ良さ、生き方に触れ、成長するさまを描いている。
本作品の登場人物は、誰もがそれぞれの「生き様」を持っている。今回の物語で少し大人になった主人公を初め、彼らは彼らなりの生き方で生き続けていくことだろう。そんな彼らそれぞれの「生き方」と、作品は終わってもこの世界は続いていく、そんな思いを込めて、ラストの場面まで描き切った次第である。
愛知県
ポルクの旅路
【要約】
1.作品のねらい
本作品のねらいは、「理不尽な目にあっても、それを受け入れて生きていかなければならない現実」がこの世にはあることを示すところにある。そして、そんな現実を「どう生きるのか」という、生き方や自分の在り方、考え方の問題について、登場人物を通し、読者に考えを促すような作品にしたいと考えた。
主人公ポルクは、まだ自分がどんな人間かという自覚が無く、この世に不条理があることも知らず、「すべて上手くいく」と子どもらしい素直さと自信をもった少年である。彼はサーカス団と出会い、思うようにならないことや理不尽なこと、初めて自覚する自分の一面、また色んな種類のカッコ良さや、憧れ、生き方に触れあいながら成長していく。この物語は、少年が新しい視点を手に入れることで内省し、大人になっていく物語である。
少年はこの旅で、視点を変え、内省することを手に入れた。自分の行動や経験を省み、取り返しのつかないことにも正面から向き合っていく姿勢を手に入れた。これからの人生も、要所要所で生き方の武器を手に入れながら、自分なりの、自分だけの答えを見つけ、自分の生き方で少年はこれからも生き続けていく。
2.作品の抜粋
冒頭~旅立ちまでの抜粋(2章、3章から抜粋)
2章
「やあやあみなさん、お立ち合い、我がサーカスの世界へようこそ。わたくし、団長のシャガーと申します」
先ほどポルクを誘ったひょろ長の大男が、ランプを手にいつの間にかステージに立っています。シャガーは続けます。
「みなさんは今日、この世のものとは思えない、夢の世界の片鱗を垣間見ることになるでしょう……、めんどくさい! つらい! 苦しい! 疲れた! 退屈! そんなすべての感情とここではおさらば。何もかも忘れて、気持ち良いときに身を任せて、さあ! 準備はいいですか? まずはこいつだ! ロックマンンンン!!!」
ポルクはハッとしました。シャガーの後ろにいつの間にか黒いローブをまとった男が立っていたからです。と、その瞬間、一瞬にして目の前が真っ赤な炎に包まれました。炎はブワッとステージいっぱいに薄く広がり、会場全体が赤く照らされます。続け様に男が胸を大きく膨らませ、と思ったらブオオオオオオッと勢いの良い雄叫びと共に力強く炎を吹き出します。会場はたちまち熱気に包まれて、頼もしいオレンジ一色となりました。炎はゴウゴウと音をたてて、この場から何もかも奪い取らんとばかりに燃え盛ります。
ポルクは炎の正面で、暑いのにも関わらず背筋がゾクゾクするのを覚えました。炎はどんどん大きくなり、ついにテントの天井にも届き、ステージからこぼれ落ちて観客に降りかかるかと思われたそのとき、秩序なく燃え盛っていた炎が竜巻のように渦を撒き始めました。(中略)男の手に触れた炎は一瞬膨らみ、光輝く黄色の煙とともにたちまち蒸発していき、あれだけ盛んであった炎はすっかり男の手に収められてしまいました。この迫力に観客は大歓声です。
3章
そして、母の後ろのベッドに横たわる人かげ。何度も見た覚えのあるその光景。しかしいつもと違うのは、母がベッドの前で泣いているということと、横たわるその人物の腕が、まるでろうそくのような硬い白色をしているということです。(中略)
目を細めて愛らしく笑い、ふっくらした唇で話し出す妹の面影はどこにもありません。
「マヤ。マヤ。母さん! これは本当にマヤなの?」
ポルクはたまらず、母に助けを求めました。ポルクの母は苦しそうにうなずきます。
「元気にしていたんだけどね。あの後やっぱり具合が悪くなって……。がんばったんだけどね」
そうして、ポルクと母は抱き合って、大きな声で泣きました。
マヤはもう、死んでいたのでした。
(中略)
「わたくしも、聞きかじった程度ですが、こんな商売をしていると、全国を旅することになるでしょう。(中略)そう、時を戻る国だ。そこの国の住人は、過去に戻る力をもっていて、過去を変えることもできるんだとか。もし、あなたが、その国の力を借りることができたら……、何か変わるかもしれませんねえ」
「ほんとう⁉︎」
ポルクは全身にまた赤いやる気が流れだした気がしました。(中略)
「やっと目に光が戻りましたねえ! さっきまでの坊ちゃんはみていられなかった。悲しんでいる人は救いたい、これ、わたくしのモットーでして。そうだ! わたくしたちサーカス団の次の目的地を、『時を戻る国』にしましょうか! そうすれば坊ちゃんのお手伝いができると思いませんか? つまり、わたくしたちと一緒に『時を戻る国』を目指して旅に出るのです」
願ってもない話に胸がドキドキします。先ほどまでポルクの中に流れていたドロドロしたものが、サラサラとした熱い力にすっかり変わって、全身をかけぬけます。
「マヤにもう一度、絶対に会ってみせる。どうしようもないことなんてないんだね!」
ポルクは嬉々として叫びました。これがどれほど素晴らしいことか、ポルクには疑いようもないことでした。
「ええ、ええ、そうですとも! ささ、坊っちゃん、もう涙は枯れましたね? いつだって、泣き終わったときが何かを始めるのには最適な時なのですよ」
友人が描いてくれた絵です。友人は、私の作品に登場するキャラクターたちが好きだと言ってくれました。私も、裏表があって、楽しくて頼もしくて、どこか切なくて、そんな自分の作品のキャラクターたちが大好きです。
三宅紫穂【学科賞】
文芸コース
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