空間演出デザインコース 野村 真奈美【コース奨励賞】
海女文化に潜る
今回、身近な「海女」という伝統文化に着目しました。私の出身地である三重県は日本でも最も海女の多い県です。さらに、私の母は現役の海女で曽祖母と祖母も海女でした。
そして、この伝統文化は様々な要因によって消えつつあります。最大の問題としては後継者不足の問題なのですが、地球温暖化によって海の環境が変化し、今まで磯場に生息していた生き物たちが実際に別の地域では消えています。この海の環境問題は将来的に後継者問題を上回って最大の課題となると考えています。海女の仕事を生業としている人たちがいるにも関わらず、獲物が獲れないために海女漁ができなくなって後継者の育成もできない状況になり海女という伝統文化がなくなるのではないでしょうか?
「海女の住むまち」 今回調査を行った地域は、三重県鳥羽市相差町という地域です。三重県の中でも最も海女の多い地域です。 資料調査、現地調査、聞き取り調査などを行い、昔の海女から現代の海女まで幅広く調べました。 昔から変わらないものもありますが、時代に合わせて道具なども変化しています。そして、その中でも、昔から変わらないものたちは持続可能性について考えるきっかけになるものが多いことがわかりました。 近年、「SDGs」や「持続可能性」という言葉をよく耳にします。徐々に浸透してきましたが、なぜその取り組みを行うのか、その取り組みによって何が得られるのかがあまり提示されていないように感じます。 そこで、私は持続可能性のある海女文化を知ってもらうことで、この伝統文化を守ることができるのではないかと考えました。海女の仕事ではどんな道具が使われているのか、一体どれくらいの時間海で仕事をするのかなど詳しい内容を多くの人に知ってもらい日常へと浸透させることで記憶に残り、「SDGs」や「持続可能性」という言葉を聞いてもこの取り組みがどういうことに繋がるのかということがイメージしやすくなると思います。
「海女の仕事」 これらは海女が海で獲るものです。 アワビやトコブシはカギノミという道具を使って獲ります。一方で、サザエやナマコは拾うようにして獲るので一度の潜水で両手いっぱいに海面へと上がってきます。そうなると、漁獲量はアワビなどより多くなるのでとった獲物を入れておくタンポという道具の大きさも変えます。 ワカメやヒジキなどの海藻も手作業で刈り取ります。刈り取られた海藻は、天日干しされ不純物などを丁寧に取り除いてから市場へと持っていきます。海で体力の必要な作業をした後には、気の遠くなるような作業が陸で待っています。
「海女の道具」 海女が主に使用している道具です。これら以外にも道具があるのですが、使用頻度が少ないので載せなかったものもあります。 昔から変わらない形を保っている道具や時代と共に変化した道具もあります。どの道具も大切に手直しをしながら使っています。自分で直すのが難しいウェットスーツは購入したお店で直してもらうことが多いです。海女の多い地域だからか、海女のウェットスーツを専門に作っているお店があるのでそこを利用する人が多いです。
「海女体験」 これは海女体験に行った際に見せてもらったクロアワビです。大人の手のひらサイズの大きなものでした。 三重県では10.8cm以下の大きさのアワビは獲ることが禁止されています。これは限りある資源を守っていくための取り組みです。このサイズに満たないアワビは海へと返されます。 朝8時30分ごろには船の乗り場へと行き、9時から海へと潜って1時間30分漁を行います。私は耐えられず、すぐに岸まで泳いで休憩しましたが、その間も海女たちは休むことなく漁を続けていました。 結果、私が獲れたものはトコブシ2個でした。それに対して、同じ船の海女たちタンポいっぱいにアワビやトコブシを獲っていました。同じ場所にいたのになぜなんだろうと不思議になるくらいです。 また、「磯焼け」と呼ばれる海藻が枯れてしまう被害について耳にすることがあり、注意深く海の中をみていました。私が潜っていたところにはまだそういった現象は起こっていませんでしたが、違う場所では起こっているようです。
「海女の生活」 漁が終わった後に向かう計量の様子です。この時はサザエとナマコの計量でした。 海に潜ってくるだけが仕事ではありません。このように獲ってきたものを計量に持ってきたり、朝から漁に行き昼から別の仕事をしたり、その合間には家事もこなします。海女漁を行う人たちは一日中休む暇もなく働き続けています。 休む暇もなく働く理由は人それぞれに事情があるのは当然です。しかし、志摩半島地域の海女に対して「海女だけでなく家のことや他の仕事をこなさなければならない」という昔からある社会規範があります。私はその影響が大きいのではないだろうかと思いました。
「海女と空間」 海女は体を温めるために「かまど」と呼ばれる小屋で火を焚いて体を温めます。特に冬場は海に入る前と後は必ずここで仲間たちと体を温めます。海女は個人で漁を行いますが、かまどは行事の連絡などを取り合うために構成された1つのグループのようなものです。基本的に所属しているかまどで体を温めます。町内にいくつかのかまどが点在していて、現在では海女の数も減ったのでかまどに集まる人数も減りました。 中はサウナのように熱く、煙の量が多いので目が少し痛くなります。このかまどはトタンをつぎはいで作られていますが、立派な倉庫のようなものもあればコンクリートでできたものもあります。
「海女とコミュニケーション」 かまどの中はこのようになっています。茣蓙を引いて座り、漁から帰ってくるとお昼ご飯やお菓子を食べたりしながら休憩します。 その日の漁獲量であったり、海の様子、他愛もないことなどを話します。最近では「海女小屋体験施設」と呼ばれる商業施設がありますが、これが実際に使われているかまどの様子です。火を囲んで温まり、緊急時には一致団結する仲間たちが集う場所です。
「海女文化の継承と活用の提案」 さまざまな形の調査を行い、改めてこの文化を伝えたいと思いました。 実際に伝統文化の継承についての問題は全国で起こっていますし、海女という文化も他の人たちにとっては取るに足りないものかもしれません。しかし、その地域の人たちが無意識でありながらも紡いできた文化があったことを少しでも残せたらという思いで制作に取り組みました。 私が調査した内容をzine形式の冊子「海女人」にまとめました。実際に海女を体験したことや自分なりに考察したことを載せました。 プロダクトは、海女の持続可能性を生活に取り込むことを目的としてアップサイクルプロダクトを制作しました。食べられた後は捨てられてしまうアワビやサザエの貝殻を使用した日用品をデザインしました。海女たちが自分たちの道具を作るのであれば、私たちも自分たちが使う身の回りのものを限りある資源を最後まで無駄にすることなく使うことで少しでも持続可能な生活が送れるのではないかと考えたからです。
「海女人」の発行 まずzine形式の冊子「海女人」には海女の基本的なことや実際に海に潜った際の体験記など海女が身近にいる私だからこそ調査・取材できたことが書かれています。この冊子をアーカイブとして機能させて人々にこの伝統文化の存在を知ってもらいます。それだけでなく、海女の文化は地域によって異なるので海女の文化交流の1つツールとして活用することもできます。 左上:表紙 右上:目次 左下:海女という仕事について 右下:海女文化について
アップサイクルプロダクト「志摩の貝」 海女文化を日常へと浸透させるためのアップサイクルプロダクト「志摩の貝」を制作しました。 海女文化を身近に感じてもらうために豆皿、茶匙、キーホルダー、リング、バレッタを制作しました。 特に、アワビの貝殻は衝撃に強く、簡単に壊れることはありません。長く使ってもらうのにピッタリの素材です。本来であれば、捨てられていたものを長く使えるプロダクトにすることで資源を無駄にしない意識が芽生えるのではないでしょうか?
野村 真奈美【コース奨励賞】
空間演出デザインコース
このコースのその他作品