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宵のしずく

作品の背後に宿る作者の存在

イラストレーションコース 相澤 皇海

〇テーマ・コンセプト
現代のSNS環境における作品の急速な消費と生成AIの台頭は、表現の背後にある「作者」という人間固有の存在感を希薄化させている。効率的な情報の伝達や数値化可能な完成度が優先される商業的なイラストレーションにおいて、作者の身体性や作品の不完全さは排除されがちである。しかし、本来の表現とは、完成された結果のみを指すのではなく、作品を通じて作者の葛藤や曖昧な感情を分かち合う「対話」であるはずだと私は考える。本制作のテーマは、こうしたシステム化された社会の中で埋もれがちな「作者の存在」を、鑑賞者に想像させる視覚的コミュニケーションである。

〇概要
本作品は、私自身の抱える内面的な苦悩をシュルレアリスムの手法を用いて描いたイラストレーションである。
画面中央の「卵」は、脆い殻で自己防衛を図る私自身の精神、あるいは鑑賞者自身の心の投影である。あえて顔やキャラクター性を排除したモチーフにすることで、鑑賞者が自分自身を投影し、当事者意識を持って作品と対峙することを意図している。
卵を取り囲む「手」は社会からの干渉の象徴である。上部の手が赤い糸で殻を縫合する様は、一見すると「救済」や「治療」であるが、同時に社会への適合を強いる「矯正」や「拘束」を意味する。対して下部の手は、溢れ出した内面(黄身)を、社会の都合の良い形に変形させ、消費可能なコンテンツとして搾取する構造を批判的に描いた。

〇衝動と論理の矛盾
画面下部の「月」は、構成上の論理や明確な理由をあえて排除し、「描きたい」という純粋な内面的衝動に従って描いたものである。これは、言語的なプロンプトから生成されるAIや、表層的な完成度ばかりを求める成果主義へのアンチテーゼである。何の意味も持たず、誰の利益にもならない純粋な衝動を作品に刻むことで、本作を単に消費されるコンテンツから、個人の心が感じられる表現へと引き戻そうと試みた。
しかし、皮肉なことに、この衝動的に描かれた月に対し、こうして論理的な言葉を用いて説明しようとする試みそのものが、作中の「卵を縫合する手」と同様に、私の内面を他者に理解可能な形へと矯正、整形しようとする行為に他ならない。この「説明することによる自己矛盾」さえも作品の一部として内包し、論理と衝動の狭間で葛藤する一人の人間の呼吸を提示することこそが、本作品における作者の存在証明である。

相澤 皇海

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