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楊峴隷書の研究と制作

― 卒業制作および課題制作を通して ―

書画コース 江口 亮子 (江口 華雲)

コース奨励賞

書作品8点を展示。卒業制作3点のほか、一字書・聯作品を制作。メイン画像作品:145×38.5㎝×4/隷書易林語四屏/原寸臨書/引用先:増補新版「楊峴の書法」高木聖雨編/二玄社発行2006.3.20

私の書画コースにおける学修の主要な柱の一つとして、隷書の字形および波磔の造形的特質について研究を行い、それらを踏まえた独自の隷書作品の制作を目標としてきた。創作課題においては、本学の授業で楊峴が清代隷書を代表する書家として紹介されており、その書法の完成度の高さから研究対象として取り上げた。学修を進める中で、漢代隷書碑の様式を基盤としながらも、波磔表現に独自性を示す楊峴の書風に強く惹かれ、本制作の主軸とするに至った。本作は、そうした研究と制作の成果としてまとめたものである。

隷書は、篆書を簡略化・直線化する過程で成立した中国の漢字書体であり、秦代において実用性を重視して発展し、漢代に全盛期を迎えた。力強く直線的な線質と装飾性を併せ持ち、「波磔」と称される横画の始筆と終筆に生まれる独特のうねりや、横長で平坦な字形を特徴とする。漢代には公式書体として広く用いられ、後の楷書成立に大きな影響を与え、現代においても紙幣や表札などに使用されている。

清代後期に活躍した書家・楊峴(1819〜1898)は、浙江省湖州府帰安県に生まれ、漢代隷書碑の様式を基盤としながら独自の書法を展開した書家である。官僚としての経歴を持ち、後に書作によって生計を立てた。門下には呉昌碩がおり、隷書の名手としてのみならず、詩文にも秀でた人物として評価されている。楊峴の隷書は、字形の方整さと洗練された線質を特徴とし、とりわけ波磔表現において顕著な独自性を示す。晩年の作品では波磔の誇張が際立ち、落款を見ずとも楊峴の書と判別できるほどの明確な個性を確立した。

本展示では、楊峴隷書の研究成果として制作した卒業制作作品を主軸とし、あわせて学修過程における課題制作として取り組んだ作品も展示している。これらを併せて示すことで、本学における学修の積み重ねと制作の展開を提示している。

本学において、2021年9月より芸術教養学科にて二年間の学修を経た後、2024年春より書画コースに在籍し、専門的な制作研究に取り組んできた。水墨画を含む書画分野の多様な課題に取り組む中で、書と絵画双方の視点から表現を考察する機会を得たことは、大きな学修成果である。通信教育という学習形態の制約の中でも、課題制作と研究に主体的に取り組む姿勢を培うことができた。今後は、これまでに得た知識と技術を基盤とし、さらなる表現の可能性を探求しながら、継続的な研鑽を重ねていきたい。

25×99㎝×2/金箔入り半紙 /老子『老子』第六十四章の一節。「千里の道も一歩から始まる」という意味をもつ語。娘夫婦のドイツから日本への自転車旅の無事の祈念と前途を祝す気持ちを込めて制作している。
17×94㎝×2/白居易「対酒」の一節。物欲や地位に囚われず、無常の中にある不変の理を受け入れる心情を表す語句を楊峴隷書の学修成果として表現した。赤紙と金箔の落款を用い、吉祥性を強調している。
書画Ⅴー2提出作品:半切×2(五言聯)/白居易の詩句を基に、龍の金文様入り半紙を使用し、文字構成と余白のバランスを意識した。穏やかな心と意志ある行動で理想や目標を実現する姿勢を表現している。
書画Ⅲー1提出作品:半切/天の意志は現実となって現れ、起こることのすべては必然であるという意味を持つ語。力強さと静けさの均衡を意識し、隷書の線質と構成を重視して制作している。
書画Ⅲー1提出作品:半切1/2/めでたいことの前兆とされる瑞雲を表す語。流れのある筆致と画面構成によって、祝意と広がりのある表現を意識して制作している。
書画Ⅳー1提出作品:一字書「竹」43×81.5㎝/隷書体/濃墨 /竹筆(自作)/近所の公園の竹で自作した竹筆を使用。八分隷を参考にしつつ、筆致の偶然性と竹そのものの生命感を生かした表現を試みた。
書画Ⅳー1提出作品:一字書「海」半切1/3(縦)/行書体/海の泡をイメージし、シャボン玉液と青色墨(瑠璃)を使用。ストローを加工した自作道具の筆致で、滲みや偶然性を楽しみながら流動的な表現を試みた。

江口 亮子 江口 華雲

書画コース

CONTACT

本学書画コースにて、隷書という書体の字形や「波磔」と呼ばれる独特の筆の動きに着目し、作品制作に取り組んできた。隷書は力強さの中に装飾性を併せ持ち、線の表現やリズムに大きな魅力を感じている。本作では、清代の書家・楊峴の隷書作品を手がかりに、字形の安定感と、のびやかで躍動感のある波磔表現を意識して制作を行った。文字の形だけでなく、一本一本の線に込めた動きや間の取り方から、隷書のもつ表現の豊かさを感じ取っていただければ幸いである。

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