天使の導き
文芸コース 加藤千恵子
本作は、読者に自分自身の感覚や他者との関係性を見つめなおすきっかけを与えたいという思いで執筆した。
近年では、美術館や演奏会といった芸術鑑賞の場においても、一部の作品や演奏の写真、動画の撮影が許可されることが増えてきた。そういった場で、多くの人が撮影に夢中になる光景を見て、私はどことなく違和感を覚えていた。芸術作品は自分の目や耳を使って味わうものではないだろうかと。
そんな中で出会ったのが「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」という視覚障がい者の方の案内で、暗闇の中を探索する体験プログラムであった。
DIDを通して得た気づきをどのような形で作品に反映しようかと模索した結果、パウル・クレーの《新しい天使》という絵画とこれに言及したヴァルター・ベンヤミンの文章を軸に、物語を創作することにした。
物語のあらすじは以下の通り。
主人公の女性は、学生時代、教科書で見た天使の絵とベンヤミンの文章に衝撃を受ける。15年後、その絵の本物を見るために美術館を訪れるが、そこで目にしたのは、スマホでの撮影に夢中になる多くの人々だった。その光景に幻滅した彼女だったが、思わぬ形で絵の中の天使が自身のスマホに棲みつくことになる。そして、天使との対話や「暗闇のつどい」(DIDを想定した架空のプログラム)の体験を通して、自身の思考を深めていく。
《参考文献・URL》
ダイアログ・イン・ザ・ダーク
https://did.dialogue.or.jp/(2026/2/15閲覧)
ヴァルター・ベンヤミン 著 浅井健二郎 編訳・久保哲司 訳
『ベンヤミンコレクション① 近代の意味「歴史の概念について[歴史哲学テーゼ]」』ちくま学芸文庫、2023年 652・653頁
《新しい天使 Angelus novus》1920年、32、イスラエル美術館蔵
黒田和士『パウル・クレー作品集 詩と絵画の庭』東京美術、2025年、82・83頁
加藤千恵子
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