時を超える黒髪の美学
―平安の大垂髪と令和の姫カットにみる美意識の変容-
和の伝統文化コース 森町章子
本研究は、私自身が教育現場で抱いた小さな違和感から始まったものである。非常勤講師として高校に立つ中で、大河ドラマや『源氏物語』を知らず、歴史的背景を意識していないにも関わらず、姫カットという髪型を選択する生徒たちの姿に出会ったからである。姫カットという名称に含まれる「姫」は、平安時代の実在の姫君を直接示めすものではなく、「大切にされる存在」「特別扱いされる自分」を表す言葉として、比較的近代以降に再構築された造語的表現であることが、アンケート及び聞き取り調査から明らかになった。さらに、近年では、姫カットがアニメやゲームなど二次元の世界へと広がり、そこに描かれた理想化された女性像を参照しながら、現実の高校生が自らの髪型を選択するという、現実と二次元が相互に影響し合う文化的循環が生まれている。
本論文では、平安時代に「髪は女の命」と称された黒髪の価値観と現代の高校生が抱く黒髪への意識を比較し、大垂髪と姫カットを単なる髪型ではなく、制度や規範の中で女性が自己を表現する「身体装置」として捉え直した。アンケート調査からは、黒髪が現在においても誠実さや品位、静かな強さを象徴する存在として認識されていることが確認された。
本研究が歴史的美意識を言葉と形を変えながら現代文化に継承されている一端を示めすものとなれば幸いである。
森町章子
和の伝統文化コース
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