文芸表現学科

2023年度卒業制作受賞作品をご紹介します。

こんにちは、文芸表現学科です!

 

 

2024年2月3日(土)〜2月11日(日)の9日間にわたり、京都芸術大学 卒業展が開催されます。

4年生は会場設営の真っ只中。連日、朝早くから夜遅くまで作業している姿が見受けられます。

 

展示会場では、4年生ひとりひとりが書きあげた小説や映像脚本、戯曲、エッセイ、ノンフィクションなど、さまざまなジャンルの文芸作品を文庫本化し、展示・販売を行います。

そして、コロナ禍以前は卒業展の隠れ名物であった、BUNGEI BOOK CAFEが4年ぶりに復活を遂げます。本学で数多くのコーヒー好きを唸らせてきた「ヴェルディ京都芸術大学店(現・ヴェルディ北白川焙煎所)」にご協力いただき、会場でしか味わえないオリジナルブレンドコーヒーを、学生自ら一杯一杯ていねいにハンドドリップし、ご提供します。

 

会期まで残りわずかとなりますが、4年生の集大成を楽しみにお待ちくださいませ。

 


 

会期に先駆け、今年度の卒業制作作品・全39作品のなかから、大学および学科が設定している各賞を受賞した8作品をご紹介いたします。

なお、受賞作含む全作品は、オンラインストアで先行発売中です。ほかにも「INTERVIEW」ページでは、作品を書いたきっかけなどを語る著者インタビュー記事も公開。

会場に足を運ぶことができない……という方は、ぜひこちらをご活用ください。

 

▼BUNGEI BOOKSTORE▼

https://kua-bungei.stores.jp/

 

 

 

学長賞
小説『ほくほくおいも党』
著:上村裕香

カヴァーイラスト:日野千尋

装幀デザイン:嶋村百々子(情報デザイン学科3年)

 

極左政党員の父をもつ活動家二世である千秋は、父の政治活動が原因で引きこもりになった兄をネット上で追いかけるうち、活動家二世の集まるコミュニティ「ほくほくおいも党」に辿り着き、政治家の父をもつことの苦しみを直視していく。

●担当教員講評/山田隆道

すでにプロの小説家として活躍する著者が卒業制作で企てたのは、極左政党の父をもつ活動家二世の物語。選挙で負け続ける父と、引きこもりの兄に苦悩する主人公の女子高生は、家族を揺るがすスリリングな出来事を経て、やがて父と娘という普遍的な問題に向かっていく――。

 

本作を書くにあたって、著者は「ノンフィクション」の授業を履修し、実在するさまざまな活動家二世へのインタビューを重ねた。そうして獲得した素材を、これまで学んできた「フィクション」の企画・構成術で緻密に編集し、その結果、主人公のみならず他の多くの活動家二世の人生が垣間見える、多面的かつ立体的な小説を生み出した。

 

取材・編集は創作と対ではなく、内包されるものであり、企画・構成のメソッドは素材を作品化するために不可欠なものであることを、著者はその高い技術と強い魅力、すなわち作家としての「強度」によって証明したのである。

 

 

 

優秀賞
取材、調査をもとにしたノンフィクション『庭にしかできないことがあるとして、』
著:下平さゆり

カヴァー作品:楠優美(環境デザイン学科3年)

装幀デザイン:藪杏吏(情報デザイン学科3年)

 

京都で見つけた日本庭園が、かけがえのない存在に。庭を求めて始めたのは、四国・東京の庭を見に出かけた旅、庭師の方との出会い、ミニ盆栽の世話……。これは「庭にしかできないこと」を考える、庭にまつわる体験記であり、旅行記。

 

●担当教員講評/木村俊介

ほんとうに、おもしろい。一文ずつが、驚きで美しく光る。発見が連なって深まる痕跡には、散文を読み継ぎ、読み込む喜びがある。遊びと切なさ。哲学と沈黙。そして、自然に開かれ、贅沢に歩いて考える静かな冒険。出会ったさまざまなものを大事に共存させた書きぶりからは、自由さが湧きあがる。「主観と客観」や「体験者とテーマ」などの行ったり来たりから、小さな納得を重ねて見える「関係しあい、切り離せず連綿とつながるこの世界の広さと豊かさ」が素敵だ。そこには、近年のノンフィクションの進化もふまえた「書くとはどういうことなのか」という問いも楽しく宿っていると思います。おめでとう。

 

 

同窓会特別賞
取材、調査をもとにしたノンフィクション『本になる』
著:出射優希

カヴァー作品・装幀デザイン:中森美咲(情報デザイン学科4年)

 

それぞれの分野で本を「もの」として立ち上げてこられた、5名へのインタビュー集。製本会社で働く笠井瑠美子さん、印刷所で営業に携わる清水チアキさん、ブックデザインに携わる脇田あすかさん、鈴木千佳子さん、名久井直子さんが登場。

 

●担当教員講評/木村俊介

インタビューを用いたノンフィクションの傑作だ。すごく奥が深い。人と会ううれしさに気づかされ、それを噛み締められる。厳しい時代においても、大切なものを見つけて大切にしていく歳月はどう積み重ねていけるのか、も探究されている。現時点での本づくりの現場を活写した第一級の一次資料(その著者がじかに、はじめて見出した記録)でありながら、声に託して人間と愛情を誠実に描く。取材にもまとめにも手練れの厚みを感じさせつつ、「わからなさ」を新鮮に受けとめる震えが、この本の中には心臓のように生きている。「重い希望」とでもいうものが記されている複雑さが、ほんとうにかっこいいです。

 

 

 

奨励賞
小説『還』
著:浅井実優

カヴァー作品:渡辺周(美術工芸学科2年)

装幀デザイン:中村まのん真理子(情報デザイン学科3年)

明治36年、年の暮れ。東京の新聞社に勤める肇は汽車に揺られ、縁もゆかりもない土地、鳴木村へと向かっていた。日露間の緊張が高まり開戦が説かれる中、村人との交流や戦地に赴いた弟の存在によって肇の心の平穏は崩れ始める。

 

●担当教員講評/河田学・中村淳平

日露戦争の開戦前夜、新聞社に勤める肇は、鳴木村という小さな集落に滞在することになる。取材という名目だが、実質は心身の療養が目的であった。鳴木村は、人としての生を終えた者が「山の一部」として自然に還る村場所であった。父の不在、弟の戦死、母の心の病を経た肇は、この鳴木村で何を思うのか。

 

このような肇の物語が、肇の手記として、あるいは地の文で語られる。ともに精緻な文体で綴られる両者は、ときにたがいに錯綜し、読者を時間の彼方、虚実のあわいへと誘う。人が家族や社会の一員として、あるいは自然の一部として生きるとはどういうことなのか。本作が問うているのはそれである。

 

 

 

奨励賞
取材、調査をもとにしたノンフィクション『私たちはここにいる ─ALLYの私が出会ったLGBTQ+の人たち─』
著:岡知里

カヴァーイラスト:日野千尋

装幀デザイン:木村日和(情報デザイン学科3年)

 

LGBTQ+への差別的な言葉を様々な場面で目にした筆者は、LGBTQ+の味方であるALLYとして何かできることをしたいと考え、当事者の方たちにインタビューをさせていただいた。「ここにいる」ことを証明し、その声を届けるために。

 

●担当教員講評/中村純

「サバルタン(被抑圧者、社会的弱者)は語ることができるか」。ガヤトリ・C・スピヴァクが、1990年代のポスト・コロニアルフェミニズムの議論で問題提起したことである。

 

サバルタンの言葉を代弁することなどできない、本当に苦しいことは語ることはできないという、トラウマの環状島理論に通じる問題提起である。

 

セクシュアル・マイノリティを生き難くする社会に疑問を持った著者に、当事者は「本当の話」をした。誰にでも語れることではない。著者の偏見を超える知性、取材調査力、聴きうる耳の誠実さがそれを可能にした。スピヴァクの問題提起を乗り越える鍵は、アライになることだ。

 

 

 

奨励賞
小説『大阪の川にどぼんしたい』
著:野呂果乃莉

カヴァー写真:太田樹(美術工芸学科2年)

装幀デザイン:助清若奈(情報デザイン学科3年)

 

大阪に海なんかあるわけないんやから。そう考える東大阪市に住む小学三年生かずやは、大学生のすずこと一緒に、近くの川が海に繋がっているのか確かめる冒険に出かける。しかし、優しいすずこには親友しか知らない隠し事があった。

●担当教員講評/山田隆道

主人公は東大阪に住む小学3年生のかずや。大阪の中心から外れた奈良寄りの下町で育った少年は、大阪に海なんかないと思っていたのだが、ひょんなことから「近所のドブ川が大阪湾につながっている」と聞き、それを確かめるべく、家から川沿いを歩いて海を目指す旅に出る――。

 

『探偵ナイトスクープ』でそのまま使えそうな素晴らしい企画である。小さな大冒険に挑む少年の愛らしさが広い間口となり、かつ奥行きにはかつての大阪が「水都」と呼ばれ、東西南北を貫いた無数の運河によって発展を遂げた都市であるという歴史的背景が見えてくる。江戸の「八百八町」に対して「八百八橋」と称された大阪は、河川と橋の多さによって「天下の台所」に成長した。これは大阪の街を「水都」「河川」という歴史的な切り口で捉え直した、新しくも豊饒な上方小説である。

 

 

 

奨励賞
小説『異性愛者』
著:本名尚文

カヴァー作品:坂部潤(アートプロデュース学科4年)

装幀デザイン:文原暦(情報デザイン学科3年)

 

反出生主義が正義となり、異性愛が倫理上の悪となった百年後の世界に生きる少数派としての男性異性愛者・擁太の手記の形式で語られる、第一部「百年前の大罪」、第二部「強姦者の慟哭」、第三部「「生殖」に関する論文」からなる三部作。

●担当教員講評/木村俊介

好きな人も嫌いな人もいて当たり前なのが小説だが、約半年前のこの学科における全学年全員が参加しての合評会で、数が多いかはわからないながらも強烈な「これがいちばん好きです」という発言がいくつも寄せられたのは、本名くんの作品のいちばんの独特さだ。その合評会の直後から夏じゅうかけて記された本作も、賛否両論があるのはむしろ美点として、あぁ、こういうのが読みたかったんだと恍惚と不安を覚える熱い読者に恵まれるといいなと思う。四年間、紙の原稿用紙や創作ノートの上で書く時間に耽溺してきた本名くんの「けもの道」の尊さがグッと来て忘れられません。これからも頑張ってくださいね。

 

 

 

奨励賞
取材、調査をもとにしたノンフィクション『未来を創る人々―多文化交差点・鶴橋』
著:松村昂樹

カヴァー写真:NGUYEN MAILINH(美術工芸学科2年)

装幀デザイン:山下瑞葵(情報デザイン学科2年)

 

大阪・鶴橋には日本最大級のコリアタウンがある。果たして、コリアタウンはどのように形成されていったのか。そして、韓国だけでなく、多文化の街へと変わりつつある鶴橋で現在活躍されている人たちへのインタビューを綴る。

●担当教員講評/中村純

2022年~2023年の鶴橋の人々と街のルポである。現在の大阪生野区には、5人に1人以上が、在日コリアンをはじめ60か国以上にルーツを持つ外国人が暮らしている。猪飼野と呼ばれた時代から日韓併合、戦後から現在まで、朝鮮半島、済州島出身者が多く居住する鶴橋。著者は地霊を求めるように街の記憶をたどり、人々のなかにわけ入り、街の未来を創る人々の力強さとそれを支える痛みに触れる。生き生きと多国籍な街にわけいって、楽しみながら取材する著者の視点に沿って、読者は鶴橋の過去、現在、未来を旅することだろう。

 


 

 

2023年度 京都芸術大学 文芸表現学科卒業展

BUNGEI BOOK FAIR 2023

 

開催期間:2月3日(土)〜2月11日(日)

開催時間:10:00-17:00(入場受付は16:30まで)会期中無休・入場無料

開催会場:京都芸術大学 京都・瓜生山キャンパス人間館4階NA412教室

 

文芸表現学科卒業展Instagram:https://www.kyoto-art.ac.jp/sotsuten2023/

京都芸術大学 卒業展WEBサイト:https://www.kyoto-art.ac.jp/sotsuten2023/

 

▲文芸表現学科卒業展PV①

 

▲文芸表現学科卒業展PV②

 

 


 

文芸表現学科 卒業制作作品オンラインストア

『BUNGEI BOOKSTORE』

 

URL:https://kua-bungei.stores.jp/

 

運営期間:1月29日(月)13:00〜2月18日(日)12:00予定

受注締切:毎週日曜日正午(12時)

発送:発注締切から9日後の翌々週火曜日より随時発送(商品到着は水曜日以降となります)

※お支払い方法に銀行振込・コンビニ決済をご指定の場合、入金確認の時点で受注完了とさせていただきます。

 


 

 

 

高校生・受験生対象

卒業展オープンキャンパス

 

開催期間:2月10日(土)〜2月11日(日)

開催時間:10:30-16:00

※10:00より受付開始

※事前予約制

 

コース教員による「コース別見学ツアー」開催!

教員自ら展示会場にご案内し、見どころをご紹介します!

 

詳細・ご予約:https://www.kyoto-art.ac.jp/opencampus/oc02-10_02-11/

 

 

 

 

 

(スタッフ・牧野)

 

 

 

 

 

 

 

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