
竹久夢二(1884-1934)の代表作《黒船屋》は一昨年、制作から百年を迎えた。
夢二は大正時代を代表する美人画家として有名である。
しかし美人画にとどまらず多彩な作品群からは、
ロマン溢れる抒情的な世界を感じることができる。
代表作《黒船屋》の女性は夢二の描く女性の前後の作風と比較すると、
どっしりとした力強い印象を受ける。
それは人生の中で最も充実した京都での日々を最愛の女性彦乃と紡いだ事実が
夢二の心を大いに豊かにしたのであろう。
作品が描かれたのは、彦乃が結核に罹患したことにより、
二人の仲を彦乃の父によって引き裂かれた直後であった。
そんな中だからこそ逢いたくても逢えない彦乃への想いを描こうと構想を練り、
二人の恋の物語を封じ込めたいと「黒船屋」という箱に、女性と黒猫を座らせ、
秘めたる想いを描くための構成を考え、一気に描写したのではないかと考える。
構想と構成と描写の一連の流れから完成した《黒船屋》は、
二人の恋の物語をドラマティックに観ているような気さえしてくる。
詩人になりたかった夢二。
夢二は《黒船屋》を描くことにおいても、彦乃との恋の思い出を優美に奏でたかったに違いない。