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文芸コース 辰田 聡

 何故私がこの小説を書きたい、と考えたのか。この小説の主人公が語る42歳の時の私自身の置かれていた環境で、仕事を指導していた教え子達のなかの数人が鬱病を患い、救えた命もありましたが、救えなかった命もありました。
 その両方のケースのいずれにも、サバイバーズギルトに苛まれていた当時に抱いた、所謂「けったいな気分」を表現したいと考えました。あの時わたしはどうしたら救えなかった命も救えたのか、考え続けた結果、人が人に何をどう働きかけても救えなくて、その人自身が原初的に持っている心の抵抗力•レジリエンスで、自分で自分を復旧•リストレーションすることでしか、自分を救えないことに気づいて貰えるように、人には必ずレジリエンスが備わっているよ、とわかって貰うその後の実践が、わたしの贖罪になったので、それを未だ見ぬ第三者の悩みを抱える読み手に、その片鱗でも伝わればと考えました。

『たけくらべ』の明治期に美登利から見た信如を、昭和中葉期に信如から見た美登利をモチーフに、黙契と母恋譚をテーマとすることを目指しました。成功したとはとても言えませんが、小説を書く端緒に着いたと思え、本学に学んだ誇りを感じます。



兵庫県

けったいな気分

辰田 聡

文芸コース

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