芸術学コース 鹿庭 江里子
本稿は、第二次世界大戦後の日本で活動した前衛芸術家・池田龍雄(1928-2020 )が描いた連作《BRAHMAN》における始源的な象徴イメージを手がかりに、その造形にかかわる思考と芸術理念を解読し、その表象行為が戦争体験で心的外傷を負った池田の内面に「自己再生」の作用として発現した可能性について考察したものである。
《BRAHMAN》は池田が15年という歳月をかけて完結させた特異な宇宙論的創世神話で、人態神を排除した作品総数約300点に及ぶ壮大な連作群である。宇宙の始源に人間身体を照応させながら、天文物理学、素粒子物理学、抽象幾何学、ヒンドゥー教哲学等の概念を融合させて描いた表象には神話的な象徴も現れている。個人的であると同時に人類的な始原のエロティシズムと自己再生の物語が息づいており、その表象のために池田が用いた方法とは、身体と宇宙の反転置換(裏返し)を可能にする〈超越的反転可能性〉を絵画において実現しようとする宇宙論的な抽象思考であった。特攻隊員として強烈な「生と死の連続性」を体験した池田の芸術的自己は、再生を池田に模索させたと考えられるのだ。それは芸術がもたらす根本的な治癒作用の一側面である。
東京都
池田龍雄の始源形象 —宇宙論的抽象思考と自己再生のシンボリズム—
鹿庭 江里子
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