沖縄「組踊」、「日本文化としての家元」、「マラルメ・プロジェクトⅢ」

6月 01日, 2012年
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 6月の京都芸術劇場(春秋座)のお勧めは、なんと言っても「琉球王朝の華――組(くみ)踊(おどり)」【6月9日(土)、14時開演】でしょう。琉球国の宮廷で、18世紀初頭に作られたもので、新国王任命のために訪れる中国の冊封使(さつぽうし)をもてなすために作られた舞踊劇です。日本では能が、幕府の式学として様式化を進めている時代ですが、そのような能の様式性をヒントに、沖縄の音楽や伝説を取り入れて、独特の音楽・舞踊劇として作られました。遥かにに西ジャワのガメランの響きも思い起こされるような、そんな時空を超えた記憶の深層に響いてくる音楽だという思い出が、個人的にはあります。
 今回は、「組踊」の第一人者で人間国宝の宮城能鳳師の、高貴にして妖艶な女形芸を、同じく人間国宝である西江喜春師の歌と三味線が、記憶の深層に訴えかけるような音楽によって支えます。特に能『隅田川』に想をえた『女(おんな)物狂(ものぐるい)』は、宮城能鳳師によって舞われますが、「狂女物」としても極めて劇的な能が、どのように読み直されたかを見ることが出来、極めて興味深いものでしょう。また、『手水(てみず)の縁』は、若い男女の悲劇的な愛を描いた傑作で、「組踊」の明日を担う演者たちの、新鮮な演技が感動的だと思います。
 日本の伝統芸能を支えてきた制度に、「家元制度」があります。ともすれば、伝統的な芸術表現を、正しく伝承するという口実の元に、芸術的創造力を枯渇させる制度だとして批判されることの多いこの文化制度について、そのネガティヴな局面のみならず、ポジティヴな力も再検証しようとするのが、田口章子教授の司会で展開される「日本芸能史」関連シンポジウムです。学習院大学名誉教授諏訪春雄氏、表千家若宗匠千宗員氏、池坊次期家元池坊由紀氏、山村流六世宗家山村若氏にご参加いただく、ジャンル横断型のパネルです。
 7月のブログでもう一度詳しく書きますが、舞台芸術センター企画公演としては、今年度の最も重要な作品となる『マラルメ・プロジェクトⅢ 《イジチュール》の夜へ――「エロディアード」「半獣神」の舞台から』は、坂本龍一氏の音楽、高谷史郎氏の映像、白井剛・寺田みさこ両氏のダンスに、浅田彰氏と渡邊自身の朗読によって、音楽と映像と、詩の言語とダンスとが織りなす、多重的なパフォーマンスを目指して、既に稽古が始まっています。いたずらに難解さばかりがあげつらわれるマラルメの詩の、音声・身体的な潜在力を、春秋座の舞台に響かせようという、空前の実験も今年で3年目になり、一つの節目となることでしょう。

渡邊守章
(舞台芸術研究センター所長・演出家)