キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズ Vol.34 大瀬妃羅・崎佑輔と卒制作品「月星団地」について語るの巻 Part2

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※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

今回のゼミ通ヒーローズは、ゲームゼミ十二期生で現4年生の崎佑輔さんと大瀬妃羅さんとで、卒業制作作品「月星団地」の制作を通して、アドベンチャーゲームについて語りたいと思います。

 

卒業制作展授賞式での大瀬妃羅さん(左)と崎佑輔さん(右)

 

 

村上

崎はコテコテのゲーマーという印象があるんだけど、大瀬はどうなの?フェティシズムでもいいし、マニアックな拘りのポイントって何かある?

 

大瀬妃羅(以下大瀬)

別にゲーマーというわけではないです。やっぱりアニメーションでしょうね。崎君にわがままを言って、スケジュールが押してるのにどんどん絵のパターンを描き足していって、どんどん細かくしていきました。

 

村上

この緻密な動きやキャラクターの芝居を見てると、アニメーションゼミで培ったスキルの高さを感じるね。

ちなみこれらは崎の方でプログラムでの動作を加えたんじゃなくて、全部大瀬の手描きアニメーションを丸ごと読み込んでパターン再生してるんだよね。

 

崎佑輔(以下崎)

そうですね。えげつない枚数です。犬が倒れてる絵とか出てくるんですけど、普通なら一枚描いて置いとけば済むところ、3パターン用意してピクピク動いたりするんですよね。

 

大瀬

作画枚数までは数えたことはないんですけど、キャラクターのアニメーションパターンだけで100枚以上あります。あんまり多くはないのかも知れないですけど。

 

いやいやいや(笑)。

 

村上

そりゃまあアニメーションゼミの基準で考えたら少ないのかも知れないけど、この手のアドベンチャーゲームのキャラクターの動きで100枚以上というのはなかなかのもんだと思うよ。Sprite StudioとかLive2Dで動かすことが主流になってる今、レイヤーを分割したキャラクター素材をツール上で変形させたり回転させていくのは多いけど、実際に全部パターンでアニメーションを組むのはコスト的にも大変だからね。

 

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アニメーションパターンの作成画面

村上

企画が固まったのは中間合評の直前くらい?仕様が二転三転してなかなか実態が見えてこなくて、最終合評の直前になって一気にデータが実装され始めた印象だったけど。

 

ある程度の背景画のアセットは揃っていたので、それを使って僕の方で実験を繰り返しつつ、大瀬にはストーリーに合う絵を発注しつつという感じでした。

 

大瀬

中間合評までは全体のストーリーや基本システムを詰めることだけで一杯一杯で、後半の作業はそのシステムの上で動作するストーリーを詰める作業に専念しました。

結局ストーリーが完成したのは11月に入ってからでしたね…。

 

村上

11月の半ばくらいに初めてシナリオ受け取ったよ(笑)。最終合評まで残り一か月やないか!って怒りながら。しかも時系列になってなくて、分岐の展開も混在していて何をどう読めば良いのやら…(苦笑)。

 

大瀬

私がゲームのストーリーを作るのが初めてだったこともあって、どうやってストーリーを着地させるかで悩んでたらいつの間にか時間が過ぎていってました…。崎君からのアドバイスを受けながら、どうやったら分かりやすくできるかとか、盛り上げることができるかということを試行錯誤してましたね。

 

主人公と親友の二人のキャラクターがいるんですけど、そこは僕の大好きな「デビルマン」の影響なんです。男二人と女一人の組み合わせで、男の方が仲間面してるんやけど実はヤバいやつで。超ざっくり言うとそういう設定じゃないですか。その構成を取り入れたんですけど、一日ごとに男の言動が狂い始めて不穏な雰囲気になるし、時間の経過も伝わりやすいし、最後に狂った方の男友達を選ぶのか、団地で出会った女の子を選ぶのかで迷う、みたいな展開も盛り上がるのではないかと。そういう展開案を大瀬に提案したんですよね。

それが下敷きにはあるんですけど、今となってはあれを言ったこと自体が混乱を招いてしまったんじゃないかなと反省してます。

 

村上

元々は単独の主人公だけでゲームが進行するプロットになっていて、途中から主要メンバーをもう一人増やすことになったと。二人の掛け合いによって状況がもっと分かりやすくなる、という目論見だね。

 

そういうことです。相棒キャラだと思ってた奴がどんどんおかしくなっていくのを見せることで、「この世界ヤバくね?」って思わせたかったんです。信頼していた奴が狂っていくのって怖いじゃないですか。

 

村上

その変更は凄く良かったと思うよ。状況は分かりやすくなるし恐怖感は増すし。急な変更とはいえ、苦労しただけの効果はあったんじゃないかな。

二人にとってアドベンチャーゲームの魅力って何?

 

物凄く消極的な理由なんですけど、僕はアクションゲームが大好きでありながらアクションゲームがめちゃくちゃ下手くそなので、アクションが下手という劣等感を味わうことなく楽しめるからアドベンチャーゲームに魅力を感じます。

あとは、アニメや映画の先を行くものだと思うので、そこにも魅力を感じますね。僕は漫画や映画も好きなんですけど、ストーリーを見せて尚且つその中に入り込むという点が面白いです。

 

大瀬

私がゲームゼミに移って来た理由は二つあって、まず一つは、ゲームそのものが能動的な媒体なので、ユーザーが物語に干渉できるんですよね。映画やアニメーションは「完成されたキャラクターの動きを観るもの」という点で受動的なメディアだと思うんですけど、ゲームの場合、プレイヤーが動かないとストーリーが進行しない点が良いところだと思っています。

 

「月星団地」は、ゲーム的なゲームというよりは映画的なゲームなんだなって思いますね。

時間っていう不可逆なものに乗っかっていればラクなんですけど、遊ぶ人にとってみればその不可逆な時間に縛られるというのはゲーム的なゲームが好きな人からするとストレスになるのかも知れないですけど。

 

村上

何を言ってるのか意味がわからん。

 

時間は戻せないっていう一方通行のものっていう意味ですね。

 

村上

要は、一般的なアドベンチャーゲームだと、ボタンをスキップしない限り時間は進まないのに対して、実はマンガも「ページをめくらないとストーリーが進まない」とも言えるわけだよね。読者のアクションがあって初めて物語が動くという。

それに対して映画の場合はシートに座って鑑賞するっていう一方通行のインターフェースになってる。今回は従来のアドベンチャーゲームのあり方と映画の中間に位置づけられるのかなって思うね。本来はボタンを押さない限り進まないはずなのに、何もせずその場に佇んでいても物語は進んでいくっていう。受動なのか能動なのかの境界線が曖昧になってるアドベンチャーゲームっていう感じがする。

 

大瀬

そうですね。元々私は能動的なゲームを作ろうとしてもがいていたときに、崎君は逆に受動的なゲームという形を提示することで私をサポートしてくれてたのかなって思いますね。それで今回こういう不思議な作品ができたんだと思います。

 

村上

最終合評のときにそうやってプレゼンしたらまた印象が変わったかも知れないなぁ。

というより、これは結果論なのかな?

 

そうですね。作ってるときはもう我武者羅やったんで、完全に結果論なんだと思います。

 

村上

最初は「佇まいの恐ろしさをどう表現するか」に絞り込んで拘ってたけど、作り手の二人がそれぞれゲームに対する考え方が違っていて、その結果で新しい価値観が生まれたとも考えられる。手探りだったからこそできたゲームという捉え方もできるよね。そうまとめると綺麗だな(笑)

 

大瀬

それでお願いします(笑)

 

村上

来場者の反応はどうだった?

 

これはプロデュースゼミで培ったといえるのかどうか分からないですけど、作る前からみんなとは違うポイントを模索していて、その結果ルックとしてゲームっぽいゲームって今年度ほぼなかったと思うんですけど、だからこそ一つくらいコテコテのゲーム画面を見せたら注目されやすいんじゃないかなって、そこはある程度目論んでいた部分でもあります。

 

村上

今回のゲームでいうと、余計なUIが表示されてないので、そういう点でも映画に近いのかなって思ってるんだけど、UIがないことで没入感が高まったというか。このゲームで体力ゲージが表示されてたらその時点でホラーにはならないと思うし。

 

大瀬

画面に出てくるUIについても、崎君からは出来るだけ入れたくないって言われていて、その辺りは結構話し合いましたね。

 

村上

崎が言うゲームらしいルックっていうのはサイドビューのことを指してると思うんだけど、UIを削ることによってゲームとしての面白さにのめり込むようにデザインしたっていう試みなんだね。

 

去年作ったゲームでは、お客さんのことを考えずに自分のやりたいことを全部優先したんです。そうしたら、UIがたくさん表示されてるゲームってゲームっぽいなって思って、画面に配置したらもうスゲー見にくくなっちゃって。

 

村上

それはUIデザインのスキルの問題ではないのか…(笑)

 

でも、それが一つ反省点だったので。まあ、反省点はそれ以外にもたくさんあるんですけど…。本当にお客さんが求めてるっていうか、ゲームの売りはどこなのかって考えて、今回の作風でいうとUIはそんなにいらんだろうって判断したんですね。

 

大瀬

他に今回拘ったポイントとして、音がありますね。崎君の方で結構拘ってくれてて、物体に音を配置して、その物体と主人公キャラクターとの距離に応じて音が少しずつ変化していくようにしましたね。これによって臨場感が強調できました。

 

オブジェクトに対して音を設定する機能は元々UNITY上にあるんですけど、今回は自前で設計しました。

 

村上

臨場感を追求しようとしたら、絵のクォリティ以上に音響演出が大事になるよね。特にこういうアドベンチャーゲームだと尚更。あとはオープニングの音楽が物凄く効果的だった。

 

あれは音楽プロデュースゼミの後輩に作ってもらいました。

 

村上

あからさまなホラー演出としての怖い曲というわけではなくて、何かが捻じ曲がったような不思議さというか不気味さというか、不穏な雰囲気がずっと漂ってる感じがして、あの楽曲は物凄く良かったね。

 

もう一曲作ってもらってるんですけど、60年代のフォークロック風で物凄く雰囲気が良いんですよね。思った以上の曲が上がって来て、発注しておきながら自分で驚いてしまいました。

 

村上

作品の空気に合わせてオーダーした通りに曲が仕上がってくるっていうのは制作のモチベーションも上がるよね。あと人材に関しては使えるものは全部使うっていう考え方は凄く大事。ぶっちゃけた話、良いアイデアなんて時間をかければ誰でも出せるけど、後輩とか他ゼミの学生に仕事を発注してそれを管理して…というやりとりこそがプランナー希望者としての最大の勉強になるからね。

 

はい、めっちゃ勉強になりました。

でも実は、最近企画書が書けなくなってきちゃったんですよね。

 

村上

…なにそれ?

 

なんというか、一回現場のプログラマーとしての苦労を味わってしまうと、今まで就活用に出してた企画書が、確かに面白いんですけどアイデアノートにしか思えてこなくなって。実際にこの部分どうやって実装すんねんって考えるようになってから、今まで気楽に面白いと思ってアイデアをどんどん盛り込んできたのが、急に現実的に考えるようになってきてしまって、

 

村上

それは今だけの話だと思うよ。例えばPlayStationの初期の頃なんて、仕様によってはキャラクター一体200ポリゴンとかで作ってたときに、目立つ髪型にしたいとかアクセサリーをくっつけたくても表示ポリゴン数的に無理ってことがあって。でもプランナーの立場からすると「*ポリゴンしか使えないからこういうデザインにしてください」ではなくて、デザイナーがどれだけ苦労するかは一旦置いておいて、やりたいイメージはしっかり伝えることが大事。表現方法はデザイナーとプログラマーで話し合って考えてね、でも良いわけだし。それを考えるのが技術屋の仕事でしょ、って。

 

ほう、なるほど。

 

村上

イメージ先行で考えると全体のレベルが上がっていくんだよ。だからまずは制約を取っ払って考えないといけないよね。だから、崎の場合、UNITYを覚えてゲームを実際に作ったばかりだから、余計に現実的に考えてしまってるだけであって、必要以上にビビってるだけだと思う。

 

めっちゃビビってます(笑)。

 

村上

プロになったら、周りも全員プロばかりだから、「これを実現しようとしたら10日かかる」とか「やれるけど、その代わりこの部分を変える必要が出てくるよ」とか、具体的に反応を示してくれるので、そのときになってスケジュールとの兼ね合いからどうしたいのかを決断するっていうので大丈夫。

 

大瀬

じゃあ、私も〆の言葉を。今回私も崎君もお互いがやりたいことをやれたと思ってます。色々実験的な要素も盛り込ませてもらって、とにかく学ぶことの多い制作でした。というより、制作しながら学んでいけた感じですね。そういう意味では未完成なんでしょうけど。

 

村上

それでOK。企画書書いて、仕様書書いて、基本システムの上にデータを乗せてスケジュール通りに完成…でも良いんだけど、機械作業みたいでつまらない。大瀬の場合アニメゼミ出身だからよく分かると思うけど、宮崎駿監督だってアニメを作ってる途中は自分のテーマを模索してて、完成した作品を見て「自分は一体何を作ったんだろう」って考えるって言うしね。そんな感じで、常に何かを追求し続けることが大事で、完成して初めて何かに気付いて経験値ゲット。そして次の作品では何を追求しようかって考えて、経験値をためてレベルアップ、で良いんだよ。探求を止めるとクリエーターとしてはオシマイなので。

さて、卒業制作展も終わって、コロナの関係で打ち上げもできずに次に会うのは卒業式になると思うけど、プロとしてやっていくために今回学んだことをぜひ活かしていって下さい。

 

大瀬

はい、ありがとうございました。

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