キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズ Vol.34 大瀬妃羅・崎佑輔と卒制作品「月星団地」について語るの巻 Part1

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※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

今回のゼミ通ヒーローズは、ゲームゼミ十二期生で現4年生の崎佑輔さんと大瀬妃羅さんとで、卒業制作作品「月星団地」の制作を通して、アドベンチャーゲームについて語りたいと思います。

 

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崎佑輔さん

村上

さて、崎は以前「ゲームジャム」の回で一度インタビューを録ったことがあったね。

ゼミ通ヒーローズvol.10「ゲームジャム座談会」の巻

https://www.kyoto-art.ac.jp/production/?p=104464

で、大瀬は今回お初なので、大瀬から自己紹介お願いね。

 

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大瀬妃羅さん

 

大瀬妃羅(以下大瀬)

はい、「月星団地」で企画とデザインとシナリオを担当しました、大瀬妃羅です。

 

崎佑輔(以下崎)

「月星団地」で大瀬がしたこと以外を全てやった崎佑輔です。主にプログラム担当です。

 

村上

これもお約束の質問として、まずはなんでこの大学に来たのか、その経緯から聞かせてくれる?

 

大瀬

私がこの大学に入ったのは、ゲームのキャラクターデザインをしたかったからなんですね。そしたらキャラクターデザイン学科っていう、やりたいことそのまんまの名前の学科があったので、ここにしようと思いました。

 

僕はその逆で、キャラクターデザイン学科に来る人の中でも珍しく全く絵を描く気ゼロで入ってきましたね。

僕は漫画が大好きなので、人生の大事な選択肢は全て漫画で決めてきたんですよ。特に島本和彦の「アオイホノオ」の影響がありまして。それこそ村上先生の母校である80年代の大阪芸大を舞台にした青春漫画なんですけど。

 

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崎佑輔さんの部屋 

 

で、この中にガイナックスで昔社長をやってた山賀博之っていう人物が登場しまして、彼がこういうセリフを言うんですね。「一生…喰いっぱぐれないような気がする!やった!」

要は、同級生だった庵野秀明と赤井孝美っていう絵のうまいヤツを見つけて、「俺には得意なものは何もない!だがこの二人さえ捕まえておけば、一生喰いっぱぐれないような気がする!」というワケですよ。

 

村上

山賀さんに憧れたのね(笑)。

 

これを見て、「これになりたい!!」って思ったんです。で、色んな大学のオープンキャンパスに行ったんですけど、その中で京都芸術大学、まあ当時京都造形芸大でしたけど、そのオープンキャンパスに来たとき、なんか、良い意味で愛がないって感じたんです。

 

村上

ん?愛がないだと…!?

 

あ、いや、なんというか、えーと、要は、キャラクターイラストっていうスキルを活かしたその先の商売のことまで考えるっていう意味で、なんか大学全体が凄くプロデューサー気質みたいな感じがしたんですね。自分たちのスキルを俯瞰的に捉える視点が大学全体に根付いてるなって思ったんですよ。その辺を含めてこの大学が気に入りましたね。

 

村上

キャラクターを作ることそのものも大事なんだけど、キャラクターを使ってどうするのかを重要視してるっていう点に注目したと。

 

そうですね、なんか、プロデューサーの先生と話した時になんかドライな語り口が逆に「ここまでドライだったら大丈夫そうだ」って思いました。技術だけを追い求めるような短絡的なものではないところが新鮮だし面白く感じたんですね。

 

村上

色んな視点があるのは間違いないね。

さて、内容の話に移ろうか。今回は崎と大瀬の二人で合作という形でゲームを作ったわけだけど、実は二人とも生粋のゲームゼミの学生ではないっていう。

 

大瀬

そうなんですよ。

 

村上

二年生の時は、大瀬はアニメーションゼミで、崎はプロデュースゼミに所属していて、ゲームゼミは中途採用(笑)。

で、アニメーションの出身だからこそ表現できたこととか、プロデュースゼミだからこその視点だとか、その辺りがどんな風に作品制作に活かせたのかをこれから色々と聞いていこうかなと。まずは作品の紹介をしてくれる?

 

今回制作したのは、2Dのホラーアドベンチャーゲームですね。緻密に描かれた団地を舞台に、そこに迷い込んだ主人公が脱出するまでのお話です。

特徴としては、リアルタイムシステムと呼んでるんですけど、時間ごとに発生するイベントだとか手に入るアイテムが変わっていくので、その状況でゲームを進めていきます。

 

大瀬

このゲームの一番の魅力は、崎君が言った通りリアルタイムの要素なんですけど、色んな出来事がどんどん発生していく中で、プレイヤーは何もしなくてもストーリーが進んでいってしまうんですね。探索しなくても自動的にエンディングに辿り着くことができます。

これも一つの特徴かなと思ってます。

 

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「月星団地」のゲーム画面

 

村上

画面構成も操作性も昔ながらのオーソドックスな仕様になってるね。

 

そうですね、所謂ベルトスクロールっぽい画面構成にしています。

ゲームの勘所の悪い人っているじゃないですか。卒制って色んな人が来場されて、コントローラーも触ったことがない人とかもいるし、そんな人がただ眺めてるだけでも絵が変わっていったり、シチュエーションが変わっていく様子を楽しめるし、ゲームーバーになってやる気がそがれるということもないように作っています。とにかく初見の人にも興味を持って触ってもらえるようなことを想定しながら作ってました。

 

村上

崎は今回プログラミング担当ということで、リアルタイムで進行するイベントの設計が大変だったかなと思うんだけど、

 

いやもうほんと、吐くほど大変でした…特にフラグ管理などが手探りの作業になって、先人のソースコードを解析してみたりして、なかなか進まなくなってしまって、単なる経験不足なんですけど、そこが大変でしたね。

あとは調べ方とかも下手だったんですよね。悩みを具現化する力が全然足りてなかったなって思いますね。検索キーワードを入れても、自分が欲しい情報に辿り着けないとか。最初のうちはそんな経験不足と実力不足で、大変なスタートとなりましたね。

 

村上

元々は単独で制作をしようとしてたよね。でもなんやかやあって大瀬と合同で制作したいと言ってきて。そのときこちらの条件として「合作でやるならそれなりのボリューム感とクォリティがなきゃ企画を認めない」と話して、そのとき上がって来た企画が単なるフラグ立てゲームだったので、「それくらいなら一人で作れるだろう」と。何か遊びとしての売りというか、新規性や独自性がないとダメだと言って一旦企画をひっくり返したよね。そこでリアルタイムでのイベント進行という案に行き着いたけど、それが死ぬほど大変だったっていうことね。

 

そういうことですね。

 

村上

大瀬の方は、シナリオとビジュアルデザイン全般を担当したということで、そこでの工夫を聞かせてくれる?

 

大瀬

私は普段ポップな色合いでのキャラクターイラストを描くのが得意なんです。二頭身にデフォルメしたり。でも今回はホラーゲームなので、全体的にリアルにするために彩度を低めに設定しましたね。

 

村上

今回のコンセプトの「怖さ」はどうやって表現した?

 

大瀬

絵に関してはできるだけ現実に近づけるようにしたのと、キャラクターの顔を描き込まずにできるだけシンプルにした点ですね。

色々想像することってホラーの根源としてあると思うんですね。周囲に何かがあるんじゃないだろうか、とか。なのでキャラクターの情報を排除することが必要だと考えました。

 

村上

背景を細部まで描き込んだことで臨場感は高まるし、キャラクターの顔がないので感情移入度が高まる、というデザインコンセプトね。

 

大瀬

その他にも、アニメーションをしっかり作り込みたいというのもあって、表情を描き込むよりも細かい動きで感情とかキャラクターを表せたらいいなと。

 

村上

そこは狙い通りに表現できてたと思うよ。

あとは、中間合評のときにも指摘されてたことだけど、「これはホラーゲームですよ」と言いつつも、当初の企画だとあからさまな恐怖描写はなくて、佇まいそのものが持つ怖さを表現できないかって話になってたね。

暗闇よりも、平日の昼間の静まり返った団地って、なんか不気味だよねって話になって、魔物や殺人鬼が出てくるわけでもないのに、ただそこにいるだけで何となく怖いっていう漠然とした恐怖をどう表現するのか。ここは結構議論になったよね。

 

ここは僕の体験談をもとに描いた部分が多くて、特に主人公の部屋なんかはモロに僕の部屋そのものなんですよ。

確かに、あからさまに恐怖描写を見せるのではなく、現実とファンタジーの中間というか、どこか曖昧で抽象的な表現を駆使しながら色んな表現に挑戦しました。なんというか、黒澤清監督の映画を参考した部分は大きいですね。

 

村上

黒澤清監督の名前はよく出てたね。何でもないただの風景であっても、どことなく不安な気持ちにさせられるような佇まいというか。『回路(2001/黒澤清監督)』のイメージなんかが目指すイメージに近かったかな。

 

はい、そんな怖い表現に付随して、大瀬の作画コストを削減する目的でも話に挙がったのが、扉をくぐる時やエレベーターに乗る場面に実写素材を加工した素材を一瞬インサートしてみました。このあたりのカメラワークや演出は、これまた黒澤清監督の演出をパク…着想を得たんですけど。

 

村上

『CURE(1997/黒澤清監督)』の中でも頻繁に使われてたね。北野武監督作品でもよく見かけるけど。

 

そうですそうです。あれ、なんか気持ち悪いなーって思って。でも作業コスト削減の目的とはいえ、思いの外効果的な演出になっていたと思います。

 

村上

ゲームって結局のところ誤魔化しの産物なので、いかにローディングの時間を感じさせないように絵を動かすか、とか、舞台演出と全く同じで、場面転換のときにいかにスムーズに書き割りのパネル等のリソースを移動させるかっていうね。

ゲームを作るときって終止黒子の気持ちでシーンの間で一生懸命小道具を入れ替えたり役者の衣装を着せ替えたりしてる。

 

ほんとそんな感じですよね。

 

村上

『バイオハザード』の中で、シーンを切り替える際に扉のアップが入るんだけど、あれなんて誤魔化し演出の最も素晴らしい例だと思ってる。実情はローディングの時間稼ぎでありながら、さあ次の部屋に移るぞっていうワクワク感と恐怖感を盛り上げる演出として成功してるよね。

そういう点で崎は普段から色んなゲームで遊んで色んな映画を観て研究してるから、そういった普段の趣味の積み重ねが全部制作に活用されてるんだと思う。

 

大瀬

そういう面では崎君にすごく助けられましたね。

 

Part2に続く

 

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