- 2021年6月18日
- 日常風景
「活けられないこと」も花の醍醐味 基礎美術コース「いけばな」の授業 【文芸表現 学科学生によるレポート】
違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の授業に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。
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こんにちは、文芸表現学科2年生の下平さゆりです。
今回は、美術工芸学科・基礎美術コース1年生「いけばな」の授業に大潜入してきました。
噂には聞いていましたが……教室が「お茶室」と知り、ひっくり返りそうでした。芸大、半端ないって。
そんな私が覗き見てきた、文芸生による「基礎美の魅力」をお伝えしていきますね。
●茶室では、時の流れがゆるやかに
いけばなの授業は、千秋堂という建物のお茶室(驚きの学内施設)で行われる、とのこと。
実は行ったことのなかった千秋堂に、今回初上陸してきました。

↑こちらが噂の千秋堂。その道のりはもう、登山です。
試練のように立ちはだかる階段を乗り越えた先の、いかにも雅(みやび)な建物。心なしか、時の流れがゆるやかに感じます。
本格的すぎるお茶室に入ってみると、そこには凛とした、思わず背筋が伸びてしまうほどの雰囲気が。
この日は、次回からの学生自身がお花を活ける実践的な授業に向けて、片桐功敦(かたぎり あつのぶ)先生によるデモンストレーションが行われていました。

↑この空間すべてから学びとろうとする学生のみなさん。真剣さが伝わります。
ここで先生が活けているお花は、それぞれ学生が選んだもの。みなさん、先生の説明に耳を傾けつつ、活けている手元を凝視しています。
私もガッツリ拝見しました。
思っていたよりサクサクっと活けられていて、繊細さと迷いのなさが共存しているのがおもしろい……!
●「お花は1、2輪あればいい」
お花を活けながら、片桐先生からはさまざまな言葉が飛び出してきます。そんな深みを感じられる、印象的な語録がこちら。
「活けられないこともある それを知ってもらいたい」
「お花を生きものとして見る お花ひとつをどう見せるか」
「お花は正しい場所に1、2輪あればいい」
どれも穏やかながら芯があって、その本質が徐々に沁みるように伝わってくる言葉です。
「お花を活けられないこともある」なんて、そんな! と驚きでしたが、「自分がイイ感じに活けてやろう!」という姿勢とは、また違うんですね。
お花は、多ければ良いわけでも、やたら飾り立てるのが良いわけでもない。あくまでも、お花本来の良さを、どう活かすのか。
いけばなは自然そのものを活かす、とてもシンプルで、究極的な表現なのかもしれません。
●「大学なの?」という静かな世界
授業中は、先生の動かすハサミの音や、鳥の鳴き声、そして小雨の音が良いBGMになっていました。
ここは本当に大学なのだろうか……?
学生のみなさんからは、あまりの集中っぷりで、私語ひとつも零(こぼ)れてきません。雰囲気が、神聖すぎる……。
しかし、その姿勢からは、どこかほっとできるような落ち着きが感じられます。
忙(せわ)しない日常から離れて、自然を感じながら、ゆったりとした時間の流れを味わえる。
あらためて日本の文化を肌で感じられるという、贅沢(ぜいたく)な授業ですね。いいなあ。
素材そのものの良さを見つめて、引き出していく。そうした表現の方法は、日本のどの伝統文化にも通じるものなのかもしれません。
シンプルだけれど、きっと一番難しい。
そんな難しさと洗練された美しさを持つ表現の世界において、「素材の良さを引き出すこと」の一端を感じ取るヒントをもらえるのが、この授業なのでしょう。
なによりも、ふと忘れがちな、美しいものをゆっくり愛でる気持ちを取り戻せるような気がします。
●新入生こそ育てる「表現の根っこ」
授業にお邪魔させていただき、私自身もつい聞き入ってしまう体験ができました。「本物」を感じられる豪華な環境が、ここにはあります。
これから表現の世界に踏み込んでいく1年生にとって、いけばなは、とても意味のある授業なのだろうと思います。
どのように受け止め、どのように作品へ昇華させていくのか。「表現」のはじまり、根っこは、確かにここに存在しています。
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