- 2022年2月7日
- ニュース
2021年度卒業制作 受賞者・作品をご紹介します◎
こんにちは、文芸表現学科です!
2/5(土)より、京都芸術大学卒業制作展が始まりました。
文芸表現学科の会場には、4年生ひとりひとりが書き上げた小説やノンフィクションなど文芸作品が、文庫本になって展示・販売されています。
今回はそんな卒制作品(全38作品)の中から、大学および学科が設定している各賞を受賞した8作品をご紹介いたします◎
学長賞
小説『清めの銀橋』
著:野々口西夏
装幀デザイン:川内玲美(情報デザイン学科3年)
装幀写真:みんみん(フォトグラファー)
■作品講評/山田隆道(作家)
終盤、強烈に好きな一文がある。貧困家庭で育った女子高生が、宝塚歌劇との出会いによって急転した紆余曲折の日々について、「あの運命の日から私は悩み苦しんで、結果的に浪費癖のある風俗嬢になった」とドライに述懐するところだ。悲嘆でもなく陶酔でもなく、まるでたったそれだけのことだと自らを突き放すかのような、シビアで客観的な現実主義を貫いているのだ。
作者は煌びやかな宝塚で貧困少女が活躍するなどという定型のドラマを生み出さなかった。現実にはそんなドラマなど存在しないことをわかっているのだ。宝塚大橋から見える大劇場、その間を断絶するかのように横切る赤茶色の阪急電車。すべての現実から立ち上がってくるのは、性風俗すらも堕ちたのではなく勝ち取ったのだと言わんばかりの、自立した少女のたくましさだ。
優秀賞
小説『神戸空白域』
著:土橋知菜美
装幀デザイン:田中愛弓(情報デザイン学科3年)
装幀写真:みんみん(フォトグラファー)
■作品講評/山田隆道(作家)
2011年3月11日に発生した東日本大震災。全国の注目が東北に集まる中、16年前に阪神淡路大震災を経験した、言わば先代の被災地・神戸の人々はなにを思うのか――。
そんな社会的に意義深い題材を、綿密に調査した史実をもとにしながら、神戸に住む16歳の少女の視点を通して描いた小説。東北を襲った津波の映像を見ながら「あ~あ、阪神超えちゃったよ」と不謹慎にも呟いてしまう神戸の若者、そこに見え隠れする被災地のアイデンティティ。「復興の終止符をうつのは、新しい災害なのかもしれない」と皮肉な独白をする主人公。本作の圧倒的な強度とは、作者の類稀なる着眼点と洞察力を活かした、震災と復興にまつわる欺瞞と現実にある。最後の一文に「歴史が塗り変わっていく音」と書かれているが、確かにそれが聞こえるのだ。
同窓会特別賞
小説『揺るる森』
著:福庭千穂
装幀デザイン:横田ひなた(情報デザイン学科3年)
装幀イラスト:福庭千穂
■作品講評/江南亜美子(書評家)
『揺るる森』は、全日制高校から特別支援学校に転校した女子高校生・森山詩織を主人公に、自分というもののままならなさや内奥にきざす不安感、しだいに居場所を見出していく安堵と喜び、そして彼女を見守る周囲の大人たちの心情までを、じっくりと描いた小説である。高く評価されたその描写力は、詩織の住む自然豊かな田舎の景色をあざやかに映し出し、また、彼女自身のささやかな心の揺れを繊細に掬い上げる。大きな出来事など起きなくとも、日々は生きているだけで、特別に輝く――。ごく私的で固有の体験を普遍的な物語へと昇華させ、読者に優しい希望をもたらした点に、並ならぬ力量が認められる。
奨励賞
小説『あの頃の人々』
著:ジョンテヨン
装幀デザイン:野中沙耶(情報デザイン学科3年)
装幀写真:成瀬凛(美術工芸学科2年)
■作品講評/木村俊介(インタビュアー)
日本には、留学をしに来ている。日本語を用いて作品をつくる。ただでさえ、どう書くのか、誰にどう読んでもらうかで苦労もするし、「なにが人の心を動かすのか」の本質や多様性を、幾重にも考えさせられる環境にいたはず。そんな中でこそ、「兵役という、韓国における通過儀礼を通して出会った人たち」について書いた。「他者」との遭遇を、慣習や文化の境界を越えた「他者」に伝えようと、日本語での文章表現も含めて「他者」との出会いにまみれ、奮闘したプロセスを通して、テヨンくんは大きく成長したのだと思います。心の動いた痕跡をありありと感じさせられる作品での受賞、ほんとうにおめでとう。
奨励賞
小説『パセリ』
著:大西将揮
装幀デザイン:松田拓也(情報デザイン学科3年)
装幀写真:小野巴瑠(美術工芸学科4年)
■作品講評/河田学(文学理論研究者)
国境の警備にあたっていた主人公が敵襲を受け瀕死の重症を負う。意識を取り戻した彼の前腕部には、同じ戦闘で命を落とした双子の弟レイシのそれが移植されていた。人工知能〈エメ〉が運転する地下鉄の事故で両親を亡くして以来、機械を毛嫌いしてきた主人公は、自分の腕が機械義手にとってかわられなかったことをもしかしたら喜んだかもしれない。しかしそれは、細胞や組織から成り立つたんなる「器官」ではなかった。
意識とは何か? 心とはどこにあるのか? 本作を書くまで小説を書いたことのなかった作者をずっと捉えてきたのは、そんな問いであった。作者の処女作であり、これまでの思索の帰結がここにある。
奨励賞
エッセイ『あくまでも、ファンタジー 〜令和ヤングが読み解く80年代アイドル雑誌『平凡』『明星』〜』
著:冨塚花子
装幀デザイン:冨塚花子
装幀イラスト:冨塚花子
■作品講評/山田隆道(作家)
これからの若者がエッセイを世に発表するとしたら、本作くらい社会性のある企画と他者性のある構成でないと始まらない――そんなことを考えさせられた力作。
題材は1980年代のアイドルカルチャー。2000年1月1日生まれの筆者が80年代に発行された膨大なアイドル雑誌の中から心に響いた記事・一節・語句を取り上げては、筆者ならではの観点で、その旨味や気づきを愉快につづっていく。そこから見えてくるのは80年代の若者カルチャーやバブル期の高揚感、良くも悪くも豪快でルーズな昭和芸能界……。おじさんが書くとただのサブカル系ノスタルジーになりかねないが、筆者が現代の若者であるからこそ、そこに新たな価値が見出されている。幅広い読者層に届いてほしい、そんな令和視点の昭和アイドルエッセイである。
奨励賞
小説『死地巡礼ガールズ』
著:中嶋舞子
装幀デザイン:澤山圭佑(情報デザイン学科3年)
装幀イラスト:竹村幸司(マンガ学科3年)
■作品講評/山田隆道(作家)
どこか人を食ったようなタイトルに思わず口角が上がる。死という深刻な言葉を使いながらも、なんとなくポップで間抜けな印象を抱きながらページをめくる。
すると、推しのYoutuberの死によって後追い自殺を企てるオタク女子大生が、従妹とともに死に場所求めて全国縦断の旅をしながら、途中でご当地ラーメンを満喫したり、アニメの聖地に興奮してマシンガンオタクトークを炸裂させたり、なんともアホで滑稽なロードノベルであることがわかる。その女子大生は本気で自殺するつもりだから基本は深刻な物語なのだが、だけど四六時中いつでも深刻な人間など実はそういない、なんてことを考えさせられてしまう。現実には必ず緩急があって、その緩を編集せずに書ききったことで、本作は喜劇に成りえたのだ。
卒展期間中である2月11日(金)・12日(土)には、この8作品を含む全作品を対象とした学科イベント「卒業制作講評会」が開催されます。
4年生の作品ひとつひとつについて、学科の教員&在学生、時には特別ゲストや卒業生らも交えて講評&意見交換していく学科最大の文芸イベントです。
こちらはYoutubeで配信をいたします。どなたでもご覧いただけますので、お気軽にご参加ください!
▼日時
2/11(金)9時30分~18時10分
2/12(土)9時30分~18時10分
▼配信URL
11日:https://youtu.be/e_oyTpEOmzc
12日:https://youtu.be/v7UE6OuJ85I
2021年度 京都芸術大学 卒業展 大学院修了展
開催期間:2/5(土)〜2/13(日)
開催時間:10:00-17:00
入退場:事前予約制・入場無料
開催会場:京都芸術大学 京都・瓜生山キャンパス
(文芸表現学科:人間館4階・NA412教室)
詳細:https://www.kyoto-art.ac.jp/sotsuten2021/
来場申し込み:https://e-tix.jp/kyoto-art-sotsuten2021/
\文芸表現学科 オンラインストアも営業中/
BUNGEI BOOKSTORE
URL:https://kua-bungei.stores.jp/
運用期間:1/31(月)〜2/20(日)12:00予定
キャンパス全体が展示会場に✨卒業生の集大成約800点を一度に見学できます🎨
大学説明や個別相談など進路イベントも充実。
詳細:https://www.kyoto-art.ac.jp/opencampus/sotsuten/