こども芸術学科

丈夫な根っこを育てて大きく育て−今村学園高槻幼稚園プロジェクト

長い歴史のある今村学園高槻幼稚園が2015年度4月から認定こども園「いまむらこどもえん」に移行するにあたって、旧校舎を全て壊して新しい園舎に建替えられました。その新園舎に卒業する年長さんと共に高槻幼稚園の記念になる壁面レリーフ作品の制作と新園舎のサインデザインを昨年の6月からほぼ1年間のプロジェクトを行なってきました。

 

突然ですが、みなさんは幼稚園や保育園で過ごした日々を懐かしく思い出すことはありますか。

私は自宅から歩いて直ぐの保育園に通っていたので、今でも保育園の前をよく通ります。

今では園舎も新しくなって昔の建物の面影はありませんが通るたびに断片的ですが、懐かしい記憶が蘇ってきます。部屋の前にりっぱな藤棚があったなぁ、藤棚の下にはお砂場があってよく遊んでいたなぁなどと。そして垂れ下がる藤の花の美しかったこと。花が咲き済んだ後に出来るお豆のような実もおままごとの材料にして遊んでいたこと、その絵を丁寧に描いたことなどが、ぱーっと浮かんできます。

幼児期の思い出はなぜかいつも場所から思い出します。

その場所をきっかけにこんなことあんなことをしたな、と思い出が広がっていくように思います。

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こども芸術学科には学外からもワークショップや子どもと関わるお手伝いの依頼はよくありますが、子どもたちが日々過ごす施設環境について実践で学べる機会ははじめてです。

Cゼミ(担当教員:梅田、平野)の3年次生11名と相談してお引き受けすることにしました。

はじめサイン計画と聞いても何をするのか実感がなかったようです。

みんなの頭の上には?マークや!マークがついていたような気がします。

園の沿革から高槻という土地について調べたり、建築図面を眺めたりと普段のこども芸術学科の学びとは要領が違うことに戸惑いもあったようです。

でも、Cゼミの3年次生はこのハードルの高い仕事をみごとにこなしました。

 

すこし振り返ってみます。

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今村学園高槻幼稚園の先生方に記念レリーフデザインをプレゼンしました。

記念の壁面レリーフ作品をつくるにあたって、二度のワークショップを計画しました。

6月には子どもたちと仲良くなるための「ぐるぐるみずうみ」というワークショップをしました。

今村学園高槻幼稚園の先生方に来ていただいて、記念レリーフのアイデアをプレゼンして決まった案をもとにワークショップに組み立てました。そして二度目は11月に記念の壁面レリーフのための材料づくりのワークショップ「大きく育て、集まれの木」を計画しました。

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最終的には上段の右上の案が採用になった案です。さあ、これからが大変でした。

木の素材選び。全体の木のイメージを想定した色の決定。そして木っ端の切り出しと磨き作業。

特に木っ端をたくさん自由な形に切り、子どもたちがケガをしないように磨くという気の遠くなる

ような作業をこなさなければなりませんでした。

きっと頑張れたのは子どもたちの大切な思い出をつくるためという使命感だったかもしれませんね。

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2014年11月に今村学園高槻幼稚園で2回目のワークショップを年長さんたちと行ないました。

子どもたちと木っ端で見たてあそびをしました。

大きな木に集まってくる、いろいろな動物をイメージしてあそびました。

この動物たちが園の記念レリーフの材料になって設置される壁面の大きな木に集まってきます。

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子どもたちが木っ端の形を見ていろいろな生き物をつくってくれました。

そして、学生たちが下の左のえんじ色、むらさき色、こん色に塗ったものを予め用意しました。

この色は取り壊された旧園舎の思い出の色を再現したものです。

子どもたちに「この色はなんでしょう」と聞くと「前の幼稚園のドアの色!」と

声を揃えて答えてくれました。

毎日生活していた場所の記憶は知らず知らずに残っているものなんですね。

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3月26日に新しくなった新園舎にモニュメントの壁面作品の取り付けに行ってきました。

工事が遅れて建築審査が行なわれていないということで、

誘導サインやクラス表示は取り付けられませんでしたが記念の壁面レリーフは

無事に取り付け完了しました。

翌日は卒業式を終えたばかりの子どもたちが帰ってきて、除幕式をするそうです。

子どもたちの元気な声やうれしそうな笑顔が目に浮かびます。

 

今村学園高槻幼稚園は4月から認定こども園「いまむらこどもえん」として子どもたちを迎えます。

園が大切にされている「根をそだてる」という考え方は

大きく、強く成長するするための根っこを子どもたちにも育んでほしいという願いです。

その園の願いを込めて、新園舎の一本目の大きな木を完成しました。

大地にしっかり根を下し、大きく育つ大樹です。

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誘導表示とクラス表示

ピクトグラムとクラス表示のデザインはサインデザインを経験したことにない学生にとっては、

とてもハードルの高い仕事です。

引き受けたものの園の要望に答えられるだろうか、不安を抱えながらはじめした。

しかし、私の不安は直ぐに消えてなくなりました。

学生たちの吸収力とモチベーションの高さに感心しました。

「サインってなに」「クラス名はことばの響きが大切」「ピクトグラムは何が重要?」

「子どもたちにとって分かりやすいサインとは」「トイレのマークのジェンダーの問題」

「大きさは、高さは?」と次々と問題を出しては話し合っている姿は真剣そのものです。

これは大丈夫!、と確信しました。学生たちの力を信じました。

園から提案のクラス名もありましたが、子どもたちの姿や園の理念に添った名前を

私たちから新たに提案させてほしいとお願いしました。

また自分たちでハードルを上げてしまいましたね。

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丈夫な根っこを育てながら少しずつ確実に育ってほしいというそんな思いを込めて、

いろいろな案が出ましたがコンセプトは今村学園高槻幼稚園の「木」になりました。

それぞれの木の特性と子どもたちの成長過程を結びつけました。

このように育ってほしいという思いを込めて、下記のような年齢ごとに木の特性と結びつけました。

 

年少児クラス:多く枝分かれする木/様々な関心をいろいろな方向に伸ばしてほしい。

年中児クラス:萌芽力のある木/遊びや友だちへのこだわりが強く、ぶつかることも多い年中児、

対立や仲直りをする経験を繰り返し乗り越えて、強い心を育ててほしい。

年長児クラス:実がたくさんある木/たくさん仲間をつくってほしい。

記念レリーフのコンセプト同様、園での経験を栄養分に一人ひとりの素敵な実を稔

らせてほしい。(右のような仕様になっています。)

高槻幼稚園-8  くるみ

 

記念レリーフは4月からの認定こども園「いまむらこどもえん」の1本目の大きな木です。

乳児クラス:子どもたちとつくった記念の木を中心にして自然のサイクルをテーマにしました。

「だいち」「たいよう」「ひかり」「しずく」「わかば」です。

線でグラフィカルなデザインに仕上げました。

だいち  たいようひかり   しずくわかば  高槻幼稚園-15

 

ピクトグラムの一部を紹介します。

トイレはジェンダーの問題で悩みました。

女性はビーナス、男性はモリエールをデザインして提案しました。

けれど、ビーナスは腕がないということで、最終的にはモナリザになりました。

ピクトグラムを考える上でも本当にたくさんの視点で問を見つけ、

発想しなければならないことを学びました。

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学生たちは長いプロジェクトの間、個人の思いを形にする作品制作とは違う制約のなかでの

難しさを学びました。意見がまとまらないことへの焦りやプレッシャーで逃げ出したい時も、

提案が通らないことでモチベーションが下がってしまったことも、他のゼミで友だちが自分

の思いを作品にしている姿を見て羨ましいと思ったこともあったことでしょう。

 

でも、今では実際に子どもたちが生活する場のデザインを学生時代に貴重な経験ができたと

振り返っています。また、一人では決して味わうことのできない達成感や喜びも味わうことが

できたとも語ってくれました。

指導担当としてはそのひと言で「ほっ!」としています。

それにとても素敵な仕事ができたことに誇らしさを感じています。

頑張りましたね。そして、ありがとう。お疲れさまでした。

 

今回のプロジェクトで子どもたちに託した思いと同じように、

学生のみんなも社会へ出る前にいろいろなことに挑戦し、

成功も失敗もたくさんして丈夫な根っこを育ててほしいと思います。

 

(梅田美代子:教員)

 

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