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文芸コース 片山千緒里【優秀賞】

 ある日突然幽霊が見えて、幽霊が来るスーパーでアルバイトすることになる主人公・黄泉野七瀬。彼女の視点を通して、「見方を変えれば救いになる」という、生者と死者の感情の救済を物語にしたいと思いました。
 誰かが亡くなったとき、何かしら心残りを感じる人はいると思います。
 わたしは一昨年に大好きだった祖母を亡くしました。その際、「もっとたくさん話せば良かった」とか「もっと一緒にいればよかった」など、どうしようもない悔いを感じました。
 そこでふと、高校の頃に先生が話していたことを思い出したのです。それはアフリカのとある村の葬儀についてです。アフリカは日本と違い、お葬式の日は盛大にどんちゃん騒ぎをします。『故人はこの世から次の世に移った、だからそれをお祝いする』――アフリカにはそういった死生観が根づいているのだそうです。高校生だったわたしには衝撃的なお話でした。
 しかし、だからこそ、わたしは祖母の悲しみを乗り越えることができたのです。心残りは、時に見方を変えてみたら、解消はできなくてもいくらか心の救いになることもあるのだと。
 誰かに何かの心残りがある人がこれを読んだら、そう思えるような作品にしたいなと思い、今回執筆しました。



岡山県

笑店来福! 冥土スーパー・サカキ

【要約】
・作品のねらい
 全体を通して、生者と死者の間に巡る感情を、主人公の視点を通して展開したいと考えた。死者があの世に行く前に買い物をする「冥土スーパー・サカキ」を舞台に、主人公は見送る側として死者の思いに触れていく、全三話構成の連続短編である。第一話目のテーマは『色即是空、空即是色』、第二話目は『後悔』、第三話目は『報い』と、それぞれ異なるテーマを用意し、それに沿ってストーリー展開を行った。
 第一話目では、生きることに迷いを抱えていた主人公が、同じように迷子になって成仏できない霊を通して自分と向き合い、心の傷を克服する。第二話目で主人公は新しい環境の中で、自分の居場所を見つけ、死霊と関わる仕事にやりがいを持つ。その上で、死霊の未練とも向き合っていく。第三話目では、子どもの霊を巡って、二通りの死の報われ方を考えた。第三話では、第一話、第二話でさまざまな経験を経た主人公の心情にも焦点を当てて、生者と死者の関係性に一つの答えを出すことも試みた。

・作品の抜粋 
 これは察するに、神隠しというやつではなかろうか。
 密色の夕日が木々の合間から差し込む森の中、わたしは疲れきった頭でふとそんなことを考えた。存外、この困った状況に一番しっくりきそうな言葉だった。
というのも、わたしは名も知らぬ山の中にポツンといる。緩やかな斜面に一面広がる笹藪の中で、途方に暮れて三角座りしていた。湿った土の上に直(じか)に座っているせいでジーパンを履いたお尻が冷たい。(中略)高校を卒業し、この春から大学生になる女子が立派も何もないのだけど、一体どうしてこうなってしまったのかは、ほとほと分からないでいる。なにせこうなったきっかけというものがないのだ。
(中略)
 ――そのまま、一体どれだけ眠ったのか。ふと意識が戻ったのは、耳慣れない鈴のような音を聞いた時だ。
 シャン、シャン、と一定の間隔で聞こえたそれは、意識がハッキリしてくるにつれて錫杖の音だと分かった。そして同時に、わたしは誰かに負ぶわれていることに気づいた。
 男の広い背中だった。カッターシャツ越しでも分かる適度に筋肉がついた肩、しっかりと抱え上げている腕、安定感のある足取り。錫杖はわたしのお尻の下に回してずり落ちないように持っていた。歩くたびに弾みで遊(ゆう)輪(かん)が揺れて先ほどの音を出していたのだ。わたしは肩にかけていたボストンバックがないことに気づく。どうやら置き去りにされたらしい。
「あ、気がついた?」
 背中越しに身動きしたのが分かったのだろう。緩やかな斜面を下りながら話しかけてきた彼の声は、まだ青年だった。
「いや~大変だったね。怖かったでしょ? いきなりこっちに飛ばされちゃったから、わけ分かんなかったよね。しかもあんな大きい荷物を持ってさ。さすがに君一人背負うのが精一杯で置いてきちゃった。あ、お腹空いてない? コンビニで肉まん買ったげる。山に入ってから何も食べてないっしょ? こういう時ほど食べる肉まんってのは美味いもんよ。もうほっくほくのはっふはふで疲れた体に沁みるから! あーでも肉まんもいいけどピザまんもいいんだよなぁ。タイミング良かったらチーズのびるからね、アレ。超レアだけど」
 めっさよく喋る。
(中略)
「その……あなたの横にいる、さっきから黙って歩いているソレは……人ですか」
 彼の隣には全身真っ黒に覆われた人が立っていた。あたかも足下から延びる影がそのまま起き上がったかのような出で立ちで、ひょろりと細長く青年の背丈をゆうに超えている。顔も性別もろくに分からないし、襲ってくる気配もなければ離れる様子もなかった。とにかく見たことがない異形で気持ちが悪く、そして何より、深い地の底から這い上がってくるような恐怖が、わたしの体を締めつけていた。
 本能が警告している――ここから逃げろと。
 関わっちゃいけないものが、ここにいる。
 もしかしたら、この青年も危険かもしれない。いやもうすでに怪しいけど。
(中略)
「大丈夫、この人は何もしないよ。ただ迷っただけだ。あとで話を聞いてみる」
「……人なんですか」
「人には見えない?」
「見えないです」
「そっか」
 青年はこちらに顔を向けた。
「やっぱさっきのヒーロー云々はなし。俺、橘(たちばな)新(あら)太(た)って言うんだ。君は?」
 わたしは少し躊躇ってから、小さな声で答える。
「……黄泉(よみ)野(の)七瀬(ななせ)です」
「黄泉野……、変わった名字だね」
 彼はそう言ってニカッと笑った。
「七瀬ちゃん。大変な目に遭ったばかりで悪いんだけど、一つ言っておく。――君はこのままだと確実に呪われる」
 …………………………ほう?
「呪われるんですか」
「呪われるんです」
「誰が」
「君がだ」
 だからね、と青年こと橘新太は一つ咳払いしてわたしに言った。
「君、うちの店でアルバイトしない? 呪いを未然に防ぐ方法を教えよう」
 わたしは、彼を真っ直ぐ見つめる。
 何言ってんだコイツ。

去年、綺麗な桜並木がある場所で撮った一枚です。枝ではなく幹に咲いている桜が可愛らしくて、あとわたしの背丈的に(中学生と間違われるほどの低身長)、背伸びして撮れる一番近い花がそこしかなかったので撮りました。柔らかい日差しと小ぶりな花からふんわりとした雰囲気を感じられて、作品執筆中によく見ていました。

片山千緒里【優秀賞】

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