「いろは歌の肖像」
文字がまとう、美と個性のかたち
書画コース 本木 理恵
サイズ:8x11㎝(楕円額)、7.5x9cm(長方形額)、9x11.5cm(楕円額) 5x6cm(長方形額・小) 素材:フェルト地、ビーズ、メタルワイヤー、刺繍糸、金糸、絹糸、接着剤
本作品《いろは歌の肖像》は、仮名文字を「書」としてだけでなく、「美術」や「デザイン」の視点から捉え直し、文字そのものを装飾的に表現することを目指した卒業制作である。芹沢銈介の「いろは文」をはじめ、モノグラムやサイファー、英国刺繍(ゴールドワーク)、西洋カリグラフィー、イルミネーション、「デザインあ展neo」、「カルティエ展」、「マリー・アントワネット・スタイル展」などからヒントを得て、「オートクチュールのひらがな」というコンセプトで制作した。メイン画像の仮名文字の書体は江戸文字を参考にし、伝統的な美しさと流麗な曲線を取り入れた。ローマ字はゴシック調を採用し、和洋の文字が互いに響き合う構成としている。
作品では、文字にきらびやかでゴージャスな印象を持たせつつ、気品を感じられる表現を心がけ、それぞれの文字に個性が生まれるよう、異なる素材や技法を駆使している。特に英国王室サイファーやモノグラム、豪華な衣服や装飾品の装飾性、カルティエのジュエリーに見られる緻密で唯一無二の造形からは、文字を宝飾品のように輝かせる表現のヒントを得た。ルイ・ヴィトンのモノグラムも日本の家紋からヒントを得て作られたことに着目し、仮名文字やカタカナと組み合わせることで、文字自体を紋章のように装飾した。また、18世紀のファッションアイコンでもあったマダム・ポンパドゥールやマリー・アントワネットの肖像画、衣服、アクセサリー、髪型、室内装飾品などの美しい造形も参考にし、文字を装いのように見せることを意識した。
使用したゴールドワークは、金属糸を布に刺繍する歴史ある技法であり、光の反射や立体感を生かして文字の存在感を高めることができる。糸の刺し方、方向や角度によって微妙な陰影や質感をつくり出せるため、一文字ごとに異なる個性を表現することが可能である。文字を一文字ずつ額縁に収めることで、単なる文字作品ではなく、「文字の肖像画」として鑑賞できる構成としている。
卒業制作を通して、仮名文字の美しさや遊び、そして書と美術、デザインを横断する表現の可能性をあらためて実感した。今後も素材や技法の幅を広げながら、文字表現の新たな展開を探求していきたいと考えている。
本木 理恵
書画コース
女子美術大学産業デザイン科工芸(染織)卒。2009年より英国在住。現在は英国刺繍や西洋カリグラフィー、イルミネーションに親しみ、日本と西洋の文字文化を行き来しながら表現の可能性を探っている。
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