社会的ナラティブの転換とエンパワメントを引き出す写真表現活動の方法論
(大学院)写真・映像領域 大薮 順子
作品は、筆者の主催・写真表現指導に基づく制作実践の成果物例で制作者は各参加者である。本論文では第2章のインターナショナルユースと第3章の性暴力被害者による長期写真表現活動からの参照作品である。
本研究は、写真表現活動を通して、犯罪被害者等トラウマを抱えた人や社会的マイノリティとして「声なき声」と無力さを強調されている人々が、自分自身と向き合い、内なるナラティブを変容させることでエンパワメントを感じ、可視化された作品の展覧会により社会的ナラティブの転換にも影響を及ぼすことを探究した実践的研究である。従来のフォトボイス研究(Wang & Burris, 1997)が示す「可視化による内的変化」や「社会的発言権の獲得」を踏まえつつも、本研究は短期的な実験にとどまらず、当事者自身が長期的に主体的表現を続けるプロセスを質的に検証した点に独自性を持つ。方法として、筆者が主催した二つの写真プロジェクト――①外国にルーツのある中高生による「横浜インターナショナルユースフォトプロジェクト」(2016‒2023)、②犯罪被害者による「STAND Still―性暴力サバイバービジュアルボイス」(2019‒)――を分析対象とした。各プロジェクトでは、参加者が撮影・選択・発表を主体的に行い、自分の内面を見つめ向き合う過程を考察した。データは、作品・語り・アンケート・展覧会記録・卒業生のエッセイなどの質的資料から得て分析した。結果として、写真表現は「撮られる側」だった人が「撮る側」となることで、自己の内なるナラティブを転換する契機となることが明らかとなった。特に「自己決定権を尊重する環境」と「評価しない対話」により、参加者は自分の視点を信じ、他者に多様な見方を促す表現へとつなげていた。性暴力サバイバーの活動では、言葉にしたくない経験や普段の思いを写真で可視化することが、尊厳の回復につながった。写真表現活動は心理的治療ではなく創作的実践として、当事者自身の内なるストーリーと社会的ナラティブを変容させる可能性だけでなく、そこから生まれる作品に触れることで他者の持つ社会的ナラティブをも変容させる可能性を提示した。また、このような表現活動の実践にあたり講師となる人にとっても自己理解と倫理的距離の維持が不可欠であることを指摘し、写真表現を介した社会的エンパワメントの方法論を提案している。
第1章 横浜インターナショナルユースフォトプロジェクト 第3節 d.課題の設計 「表1 課題テーマと確認された撮影思考傾向」作品例 ©︎Picture This Japan
第1章 横浜インターナショナルユースフォトプロジェクト 第3節 d.課題の設計 「表1 課題テーマと確認された撮影思考傾向」作品例 ©︎Picture This Japan
第3章 STAND Stillー性暴力サバイバービジュアルボイスの効果と意義 第4節「長期的写真表現活動による主体性回復プロセスと作品の変化」参照作品 ©︎STAND Still
第3章 STAND Stillー性暴力サバイバービジュアルボイスの効果と意義 第4節「長期的写真表現活動による主体性回復プロセスと作品の変化」参照作品 ©︎STAND Still
フォトジャーナリスト。米シカゴ・コロンビア大学卒業後、現地新聞社専属写真家を経て2001年フリーに。フォトプロジェクト「STANDー性暴力サバイバー達」がアメリカでTVドキュメンタリーとなった後、米上院議会で証言他、全米各地で写真展と講演を展開。2002年ワシントンDCよりビジョナリーアワード受賞。同年ポインターメディア研究所特別講師。2006年より日本でも写真展と講演会を展開。2008年やよりジャーナリスト賞、2011年シカゴ母校より卒業生賞受賞等、国内外で高い評価を確立。現在は、社会で「声なき声」と無力化を押し付けられている当事者が自らカメラを持ち内側の視点で社会を切り取る活動を牽引する。著書『STAND-立ち上がる選択』、共著『マスコミセクハラ白書』、2021年写真集『KOKO横浜』、2024年写真集『その後 佇んで、見えたもの』出版。
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