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芸術研究の世界#3 「Open design studies」

2021年8月19日

アクティビティ

 8月18日(水)18:30より、文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界#3」をzoomにて開催いたしました。

 

芸術研究の世界#3「 Open design studies」

講演者:白石晃一(京都芸術大学芸術学部 准教授)

日時:2021年8月18日(水)18:30-20:00

参加者:46名(京都芸術大学教職員・学生)

 

【講演概要】 

近年デザインの分野において「オープンネス」という言葉を頻繁に聞くようになりました。講演者は、開かれた市民工房「ファブラボ」での実践や、科研採択研究「デジタルファブリケーション初学者に向けた設計支援マテリアルライブラリの構築」を通じ、デザインを開くことの意味と、その先にある可能性と不可能性を、Research Through Designの手法で研究を進めています。本講演では、これらの研究進捗と展望を共有いたします。

 

【講師略歴】

白石晃一 美術家(現代美術), 研究者(ヒューマンコンピュータインタラクション)

金属造形やデジタルファブリケーションの技術を使い機械やコンピューターを組み込んだ彫刻を制作、 自身でパフォーマンスを行ったり、観客参加型のイベントを仕掛け、公共空間を中心に発表を行う。

様々なフィールドにいる人たちと共にプロジェクトを展開・実践するため、デジタルファブリケーションを中心とした様々なツール・技術を使い、誰もが共創できる市民工房「ファブラボ北加賀屋」を共同設立。

 

近年の研究課題

・インターネットを利用した知識・技術伝承システムの開発

・共創活動の持続的組織構造の構築と実践

・公共空間における芸術表現を実現する方法論とその影響

 

【参加者感想(一部抜粋)】 (白石先生よりいただいたコメントも、併せて掲載しております)

*自分の研究分野が芸術(ものづくり)とこども、幼児教育への接続にあるので、「失敗」の記録に着目されている点にとても共感しました。こどもが育つプロセスで失敗が許されないような、または失敗しないような大人からの働きかけを感じます。素材を触りながら、たくさんの失敗の中から大人もこどもも学べると楽しいだろうなと想像が膨らみました。

―子供の学習というのも面白いテーマですよね。今わたしも幼児と一緒に生活しているので、重要性を強く感じるのですが、なかなか手を出しずらい部分でもあるのかなと思っています。先生が行われている取り組みも聞いてみたく、ぜひ事例共有などしていただけますと幸いです。

 

*大変ワクワクするお話をありがとうございました。同時に、少し心配にもなりました。身体性が、作る側と使う側に伴ったうえで、困難な状況にある人々にこのオープンデザインが届くと良いなと感じました。

―インクルーシブデザイン(包摂的デザイン手法)も広義のオープンデザインの一分野と思います。包摂性を考える場合、構造としてのシステム(法律やメソッドなど)を設計するということも重要なのですが、体感としては身体性や精神性をないがしろにするとうまくいかないという印象です。寄り添いすぎも、疲弊の原因になるので難しいのですが。

 

*本職がマテリアル・プロセスの研究開発ですので、大変興味深く聞かせていただきました。私は、いっけん失敗が許されないようにみえるエンジニアの中心にいて、「失敗を通じた創造」の存在を感じます。
私たちは失敗を恐れたり生産プロセスの効率化を求めるあまり、規格や前例を参照してモノをつくっています。それがまるでお互いを数値やルールによる監視をしているようで、魅力的な製品の製造を妨げているように思うのです。デザインの現場がものづくりのシステムやマインドを取り入れるのと同じように、私たちが「間違った道具の使い方はエラー」ではなく「活動的だ」と思えるマインドを取り入れ、オープンに創発するにはどうしたらよいのだろう考えてしまいます。

―同じような問題意識を持った現場の方からこのようなご意見を頂けて大変光栄です。また、現場で面白い事例などありましたらぜひ共有いただければ幸いです。

 

*クロステックデザインという学問を、今回初めて知りました。工学的なモノは無機質で冷たいイメージがありますが、芸術学の視点から介入することで、美しいモノが造られていくのではないかと想像しました。
難しそうな分野ではありますが、未来を創造している分野を知ることができ、ワクワクしました。

―クロステックはまだ学問分野としてしっかりと定義できていないのですが、引き続き考えていけたらと思っています。越境的な学際融合は徐々にではありますが実際に起きています。私自身の活動もそうなのですが、旧来の分野単体で閉じられない研究活動がどうしてもでてしまっており、結果として未分類なものになってきているのかなと。旧来の学問分野としての定義は境界を作るということと同義なので、この辺アンビバレントな気持ちでいます。何かいいアイデアあったら教えてほしいです。

 

*デジタルではないですけど伝統工芸の作家のものづくりをオープンに見られるようになれば興味が増えて後継者も増えるように思いました。

―技術継承などの問題に京都工芸繊維大が積極的に取り組んでいらっしゃいます。また技術の数値化などの研究も進めていらしたような?気がします(確からしい情報でなくすみません)。
https://repository.lib.kit.ac.jp/repo/repository/10212/2249/

 

*失敗するケースを見られるのはものすごく面白かったです。大体料理の作り方は失敗すると作る気がなくなるので、失敗例を見てそのポイントの方が成功よりも大切ですし楽しいような気がします。

―成功体験とやる気の問題は重要ですよね。しかし、レシピとは違ったけどうまい!という体験もある種の成功なのではと考えています。

 

 

【質問と回答】

*オープンデザインでは素材を営利目的には使えないということですが、グレーなもの二次利用など、そういった部分で苦労されていること、もめている事例などはあるのでしょうか?

―著作権の部分的選択(クリエイティブコモンズ)によって、商業利用可とすることもできます。これに関しては現行法ではグレーになりがちな部分を、可能な限り白黒に分けようとする取り組みだと考えています。係争の例ですが、オープンハードウェアとして開発され、世界中で使われているArduino というマイコンも商標の利用などのオープン化されなかった部分でもめて、分裂しその後和解しました。二次利用については、そこに「ちょっと待った!」を言う権利を開いているので顕在化しづらいです。もやもやする事例は聞いたことありますが、ここでの公開は控えておきます。(どこかで会った時にでも!)

 

*デジタルの人はオープンにすることに抵抗感がないようですが、アナログな工芸の分野からすると驚きです。先生も最初は抵抗感ありましたか?権利ビジネスなどで、誰が原案者か、など揉めることは少ないんでしょうか?

―権利をビジネス化しないというのがオープンデザインにおいての戦略なので、公開前に厳密な調整が必要です。アイデアだけでは、権利として主張することができないので、物質化されたものだけになりますが、現行法において共同著作なども認められており、権利保持者全員での話し合いがなされなければ、開くことは不可能です。(無理に開いてもその後クレームがつくかもしれない)また、共同研究に特化したものですが、情報共有と公開に関する事前契約に関してもフォーマットが公開されており、だれでもアクセスできるようになっています。
https://www.ycam.jp/archive/others/grpcontractform.html
個人的には、先行研究を調査していると過去の人々の発展の上に自身の研究・制作が成り立っているのをひしひしと実感します。自分のアイデアというものがどこまでがオリジナルなのかあいまいになっていく感覚があり、狭い範囲で権利を主張することに少し虚しさを感じるので、オーサーシップを一人に集中するような主張はしないことが多いです。

 

*オープンデザインを公開するときの審査機関などはあるのでしょうか?

―審査機関はありませんが、公開にあたっての権利の在り方に対しての取り組みはあり、それがクリエイティブコモンズです。

https://creativecommons.jp/licenses/

 

 

ご参加いただきましたみなさま、ありがとうございました。

対面での開催が難しい情勢ではありますが、今後もzoom等を活用しながらセミナーや研究会などを開催する予定です。一般公開セミナー開催の際はこのホームページにてお知らせいたしますので、ぜひ楽しみにお待ちください。

 

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【文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界」】

このセミナーの講師は、文部科学省科学研究費(通称:科研費)の研究代表者である、11名の本学教員です。科研費は、人文・社会科学から自然科学まで、あらゆる分野の優れた研究を発展させることを目的として国から支給される研究費で、厳正な審査を経て採択され、数年間、申請した研究計画に沿って研究に取り組み、その成果を公表します。オンラインセミナー「芸術研究の世界」では、本学の教員が現在取り組んでいる芸術研究について、その研究を発想した経緯や研究の面白さ、難しさなども含めて存分に語っていただきます。セミナーでの質疑を通して、参加者の皆さんとともに、芸術研究の奥行きと拡がりに触れる機会となることを願っています。

 

【今後の予定】 (タイトルは科研の採択課題です。講演内容は追ってご連絡します)

9月1日 上村博 芸術活動における「地方色」の受容と創出

10月6日 牛田あや美 日本統治下の漫画家・北宏二/金龍煥の懸隔

11月3日 天野文雄 アジアの舞台芸術創造における国際的な「ラボラトリー機能」の実践的研究

12月1日 河上眞理  〈美術建築〉の観点から見た明治期における家屋装飾の歴史的位置づけに関する研究

1月12日 町田香  『四親王家実録』を中心とした近世四親王家の生活環境に関する復元的研究

1月19日 齋藤亜矢 描画のプロセスにおける想像と創造の関わりの検証

2月2日 増渕麻里耶 希土類元素に着目した古代鉄製品の非破壊製作地推定法の開発

3月2日 森田都紀 日本の芸能「能」の演奏技法の伝承過程に関する歴史的研究‐能管を中心に‐

※日程は講師の都合等で変更の可能性があります

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