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芸術研究の世界#4 「 花咲ける『地方色』」

2021年9月2日

アクティビティ

 9月1日(水)18:30より、文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界#4」をzoomにて開催いたしました。

 

芸術研究の世界#4「花咲ける『地方色』」

講演者:上村博(京都芸術大学芸術学部 教授) 

日時:2021年9月1日(水)18:30-20:00

参加者:73名(京都芸術大学教職員・学生)

 

【講演概要】 

今や地方芸術祭は花盛りです。各地で土地の色合いを反映した作品が創作されています。しかし実のところ、芸術に対して土地や場所の固有性が強調されるのは近代以降頻繁に見られます。

本講演では、芸術と土地を結びつける言説史をたどり、その背後にあるものは何なのかを、「1.地方色に求められているもの」「2. 地方色が期待される三つの要因」「3. 代償行為としての芸術」という話題の順に沿って考えたいと思います。

 

【講師略歴】

上村博(うえむら・ひろし)

1991年京都大学大学院文学研究科博士後期課程を中退。同大学助手、パリ第4大学研究員を経て1995年より本学。以来、主に社会人教育に携わる。

著書に『身体と芸術』(1998年)、共編著に『芸術環境を育てるために』(2011年)、共著に『日常性の環境美学』(西村清和編、2012年)、訳書に『美学への手引き』(C.タロン=ユゴン著、2015年)など。

 

 

【参加者感想(一部抜粋)】 

*改めて歴史を学ぶことがいかに重要か、そしてその歴史もまた作られたものであるかもしれないと疑い、自分自身の心身で確かめようとすることが大切であるということを学ぶことができたように感じます。

 

*ノスタルジーのお話を聞いていた時に、過去に想いを馳せることは、今この瞬間も遠い未来でノスタルジーになるのかとふと思いました。今を必死で生きれば感じられるような気がしました。

 

*ローカルカラー、オリエンタリズム、ナショナリズム、ノスタルジーとそれぞれの意味するものを知ることができました。特にノスタルジーはもとはスイスの風土病のことであったとは興味深かったです。

 

*先生のお話は頭に様々な風景が浮かんでくるような語り方でしたので、あっという間に時間が過ぎました。実体験やその土地に触れた経験が作品に力を宿すという事例を先生から知り得たことが一番の収穫でした。やはり書物など文字のみで知るのと話者の熱弁を通して聞くのとでは受け取る情報がこうも違うのかと改めて思い知らされました。この経験も旅の経験と重なるのかもしれません。

 

*「作品がオリジナルのところにあるべき(見るべき)という事」は、たびたび考える事です。しかし、全体を通して先生がおっしゃっていたように、それが、「本来の意図でない」としても、つまり、この場合作品が作られた場所になくても、個人の作品に対峙する経験としては嘘では無いというか、それはそれで本当の美的体験だと考えた次第です。一方で、美術館で作品を見ることに慣れている現代の私たちとしては、やはり、オリジナルの状況に思いを馳せることもまた違った作品との体験をもたらすものだとも思いました。

 

*私自身は都会から見ればいわゆる「地方」出身者ですので、最近流行りの日本の芸術祭がなぜあんなローカルな場所で多くおこなわれているのかあまり深く考えたことはなかったのですが、本日の講義を拝聴し、現代の日本に求められている地方色への期待という点でなるほどと感じました。今後は単なる観光地としての芸術祭ではなく、自分があたかもその地方の一員であるかのような、体験型の(ストーリーや文脈のある)芸術祭や地方での芸術活動というものがSNSと連動しつつ主流になっていくのかなと想像したりしました。

 

*興味深いお話しありがとうございました。「同じ場所に置かれ続けると作品に根が生える」。新しいことも続けば伝統になるということにつながるのかなと思いました。

 

 

【質問と回答】(セミナー後のアンケートで寄せられた質問に 回答していただきました)

*地方色は、とくに打ち出そうとしなくても滲み出てしまうものだと思いますか
 
―はい、そう思います。たとば、その土地で手に入る建材が自然と個性的な景観を作るようなこと(たとえば石州瓦の家並み)はよくあります。よくある、という以上に、かつてはそれが普通だったと思います。世界的な物流や人流が可能になってから、かえって地方色を意図的に作り出すことが盛んになったのだと思います。
 
 
*昨今の状況で地方に行くことが難しくなっているかと思います。また、今の若い世代(10代、20代)は産まれたときからインターネットが当たり前の世界です。今後、ネット上にも「場所性」が見出される可能性はあるでしょうか?たとえば、毎年◯月◯日を△△芸術の日、などとして作品をアップする、など。本日の講義では、草間彌生のかぼちゃのように、必ずしも土地の背景がなくてもそこに作品を置き続ければ場所性が根づく、というお話がありました。なので、例えばアイコンやシンボルとなる作品を一年のうち一定期間だけネット上にアップし続ける、アクセスした人で一斉に同じ行動をする、などのことで、場所性が産まれないでしょうか。しかし、質疑応答でもあったように、やはり場所性は身体性を伴うとお考えでしょうか。
 
-ネット上の「サイト」がまさに「場所」という意味であるように、ネット上にある種の場所性が成立することはそのとおりだと思います。場所は何も地面がないと生まれないわけではなく、むしろ複数の人間が共通の話題(「トピック」という言葉はギリシャ語の「トポス=場所」に由来します)に関わり続けることによって生み出されます。したがって、ネット上の場所も、ただ足を運ぶという意味での身体性というよりも、他者と関心を共にするものに対して眼差しを向ける、耳を傾ける、発話する、といった身振りとして、身体性を伴うと思います。
 
 
*悪い方向に比較されがちな首都東京ですが、(逆にと言うべきかわかりませんが)逆に、東京の地方色とは、何であると考えられますか。政治と移住者によって作られた江戸時代の文化が起源であるのでしょうか。
 
-「地方」という語は「天円地方」に由来しますので、本来は天子様のいらっしゃるところは地方ではないのですが、京都人の一部からすると、天皇陛下は東京に仮住まいされているだけで、まだ首都ではないようですし、また実際、お書きのように江戸時代以来の都市として、独特の色を持っていますね。また地方色は都市全体を括るものでもありませんので、広い東京の各地に地方色があると思います。日本でおそらく初めて地方色という語が使われたのは、森鴎外による樋口一葉評だと思いますが、そこでは一葉の小説が吉原界隈の地方色(ロカアル・コロリット)をよく描いている、というように褒めてあります。もちろん、吉原にかぎらず、江戸の近隣だった新宿や品川なども含め、東京は色とりどりですね。

 

ご参加いただきましたみなさま、ありがとうございました。

対面での開催が難しい情勢ではありますが、今後もzoom等を活用しながらセミナーや研究会などを開催する予定です。一般公開セミナー開催の際はこのホームページにてお知らせいたしますので、ぜひ楽しみにお待ちください。

 

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【文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界」】

このセミナーの講師は、文部科学省科学研究費(通称:科研費)の研究代表者である、11名の本学教員です。科研費は、人文・社会科学から自然科学まで、あらゆる分野の優れた研究を発展させることを目的として国から支給される研究費で、厳正な審査を経て採択され、数年間、申請した研究計画に沿って研究に取り組み、その成果を公表します。オンラインセミナー「芸術研究の世界」では、本学の教員が現在取り組んでいる芸術研究について、その研究を発想した経緯や研究の面白さ、難しさなども含めて存分に語っていただきます。セミナーでの質疑を通して、参加者の皆さんとともに、芸術研究の奥行きと拡がりに触れる機会となることを願っています。

 

【今後の予定】 (タイトルは科研の採択課題です。講演内容は追ってご連絡します)

10月6日 牛田あや美 日本統治下の漫画家・北宏二/金龍煥の懸隔

11月3日 天野文雄 アジアの舞台芸術創造における国際的な「ラボラトリー機能」の実践的研究

12月1日 河上眞理  〈美術建築〉の観点から見た明治期における家屋装飾の歴史的位置づけに関する研究

1月12日 町田香  『四親王家実録』を中心とした近世四親王家の生活環境に関する復元的研究

1月19日 齋藤亜矢 描画のプロセスにおける想像と創造の関わりの検証

2月2日 増渕麻里耶 希土類元素に着目した古代鉄製品の非破壊製作地推定法の開発

3月2日 森田都紀 日本の芸能「能」の演奏技法の伝承過程に関する歴史的研究‐能管を中心に‐

※日程は講師の都合等で変更の可能性があります

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