不思議なご縁
春秋座では7月6日(土)、7日(日)にオペラ「蝶々夫人」を上演しますが、6日に蝶々夫人を演じる川越塔子さんは「夕鶴」(2010年)、「ラ・ボエーム」(2011年)に続いて3度目の出演になります。東大の法学部を卒業してから、武蔵野音楽大学に入り直し、オペラ歌手になった珍しい経歴を持った方です。私が初めてお会いしたのは「夕鶴」の宣伝のため京都に来ていただいた時でした。大変気さくな方で初対面でも話が弾みました。
「法学部にいた時、仲間と食事をしていると『激辛のカレーライスを注文したものの、とても食べられない代物の場合、払い戻しが効くかどうか?』と1時間以上も激論を交わすんですよ。とても、私に向いている世界とは思えませんでした」
イタリアに留学していた頃の話、好きな食べ物の話、とても面白い話ばかりでした。
「ご出身は?」と訊くと「宮崎です」とのこと。
私はふと「もしかしたら?」と思いました。30年前、私は宮崎でオペラの演出を2年続けてやったので、宮崎オペラ協会と川越さんの接点を訊く気になったのです。
「高校を卒業して東京に出てしまったので、オペラ協会とは関係ありません」
「それはそうだよな」と少しがっかりしていると、「でも、会長とは接点があります」
「えっ?見山靖代さんをご存知なんですか?」見山さんは私に演出依頼をしてくれた方で今でも親しくさせていただいていたのです。
「ええ、ご主人が高校時代の先生でした。コーラス部で大変お世話になりました」
不思議なご縁に、私はびっくりしました。もちろん、見山さんからは、川越さんのことは何も聞いていませんでした。
早速、見山さんに電話するとあちらも大喜びで「不思議なご縁ですね。必ず夫婦で見に行きます」と言ってくれました。考えてみれば私が宮嵜で演出した時、川越さんは小学校に入ったばかりでしたから、オペラとは全く関係が無かったわけです。
見山さんご夫婦は「夕鶴」に続き「ラ・ボエーム」も見に来てくださいました。
川越さんもその後、「高野聖」や「天守物語」(再演)、「セヴィリアの理髪師」などで主役を演じ、今や藤原歌劇団のドル箱となっています。
今度の「蝶々夫人」は川越さんにとっても大きな挑戦です。ご縁がさらに深まるような画期的な公演にしたいと思っています。見山さんご夫婦もまた駆けつけてくださることでしょう。皆様とも新しいご縁が出来れば幸せです。
橘 市郎
(舞台芸術研究センター プロデューサー)