澤瀉屋所縁の歌舞伎と落語

9月 01日, 2014年
カテゴリー : プロデューサー目線, 過去の公演 

9月は古典芸能が2公演。まずは「松竹大歌舞伎」で、我らが芸術監督・市川猿之助さんがやってきます。猿之助さんは朗読劇や舞踊公演、伝統芸能チャリティー公演など、四代目を襲名されてからもしばしば春秋座に出演していますが、この度、四代目猿之助として本格歌舞伎の舞台に立つのは初めてなのです。大都市公演の後、地方巡演2コースを巡り、いよいよ残りの西コース縦断で、2年にわたる四代目襲名披露はいよいよ最終です。演目は猿之助十八番の「義経千本桜」。そして、もう1つ楽しみなのが市川中車さんの春秋座初登場です。2年前、新橋演舞場初舞台から持ち役となった「小栗栖の長兵衛」を演じます。この演目は初代市川猿翁、中車さんの曽祖父によって大正9年に初演された、澤瀉屋にとって所縁の深い作品です。さて今回「義経千本桜」で猿之助さんが宙乗りを行うことが決まりました。元来この演目の「川連法眼館の場」通称「四の切」では定番なのですが、この度の西コース21箇所の会館には宙乗り機構がないので、行わない演出に変えてあります。しかしながら、他所の公共ホールとは違い、当劇場は先代の猿之助(現・猿翁)さんが設計・監修した歌舞伎劇場なので、当然その機構を備えております。ましてや、当代猿之助芸術監督の小屋で定番の形で上演できないわけにはいきません。充分に機構の点検を行い、万全を期して当日に臨みます。親の温もりを感じる初音の鼓を得て、狂喜しながら古巣へ帰っていく源九郎狐が、24日、春秋座の宙を舞います。実は、猿之助さんは亀治郎時代、自身の会「瓜生山歌舞伎」での舞踊「松廼羽衣」で1度飛んでいます。ご覧になった方も多いかと思います。元来宙乗りは行われない踊りなのですが、まさに天上へ帰っていく天女を見事に宙乗り演出で見せてくれました。それが20067月。今回8年ぶりとなる記念すべき大宙乗りを大いにお楽しみ下さい。

それと今月はもう1つ、落語を行います。「桂米團治 春秋座特別公演」。落語公演としないところに実はこだわりがあります。2部構成で、1部はもちろん上方落語の真髄を口演しますが、2部はオペラと落語を合体させた「おぺらくご」を上演します。落語のみならずクラシックに造詣が深く、特にモーツァルトの生まれ変わりと自認する米團治師匠が、3時間の歌劇「フィガロの結婚」を30分に短縮し、見事にオペラを上方落語に転化させます。今回の特別バージョンでは、京フィルの編成を12名に増やし、オペラ歌手2名も参加します。これほどのこだわりに加え、実は、米團治師匠には澤瀉屋と所縁があり、本公演にも影響を及ぼしています。

先代の猿之助さんが南座で「猿之助のすべて」と題して、「義経千本桜」はもとより「ヤマトタケル」「コックドール」などの名場面を集めた画期的な公演に、なんと米團治師匠が小米朝時代の頃に司会解説役で出演しているのです。19879月、今から27年前のこと。その縁に想いを巡らし、今回、先代猿之助さんが設計し、現・四代目が芸術監督を務める春秋座で行うからには、花道、廻り舞台、大臣囲いといった歌舞伎様式にもこだわっていきます。

そもそも歌舞伎と落語は江戸時代に流行った芸能として共通点が多く、実はオペラも東西の文化こそ違えどやはり同時代に栄えた歌舞音曲です。落語×オペラ×歌舞伎様式が合体し、普段の落語会では味わえない一味も二味もちがう“米團治の世界”をとくとご覧いただきたい。

舘野 佳嗣
(舞台芸術研究センター プロデューサー)