新年度に当たって

4月 01日, 2012年
カテゴリー : プロデューサー目線 

 京都芸術劇場(春秋座・studio21)は、舞台芸術全般の実践的教育・研究の場として、大学内に設置された本格的劇場として、差し当たり日本では他に例のない組織です。その実践的運営に当たっているのが「舞台芸術研究センター」で、文科省の助成を受けて企画の立案・実現をしている「研究系」と、大学の補助でそれを行っている「社会・普及系」との二本立てで、プログラムを策定しています。ここでは主として「研究系」の目指す所を幾つか具体的に上げておきましょう。
 我々の研究的舞台上演が目指す大きな目標の一つは、「越境する伝統」という標語で要約される物です。能・狂言に始まる日本の伝統演劇の諸ジャンルに加えて、アジア諸国等の伝統芸能の優れた物を招聘して、舞台芸術に置ける「伝統」や「古典」の意味を問い直す企画は、毎年行われていますし、昨年度について言えば、観世銕之丞師一門と野村万作・萬斎師一門の『葵上』と『末広かり』が、金梅子(キム・メジャ)先生の、まさに「越境する伝統」と呼ぶにふさわしい舞台とワークショップと拮抗するという経験をする事が出来ました。 今年度は、日本列島の芸能の一極をなす「琉球組踊」を、人間国宝の宮城能鳳氏、西江喜春氏によって上演します。また、春秋座の生みの親でありながら、長い闘病生活を強いられて来た芸術監督の市川猿之助師も、6月には市川亀治郎氏に名跡を譲られる運びとなっていますから、ようやく大歌舞伎の舞台にも接する事が出来るでしょう。
 しかし、我々の活動が、評価の定まった古典芸能に限られている訳では、もちろんありません。大学の舞台芸術学科の学科長である川村毅氏は、1980年代小劇場運動の旗手でありましたし、今年も昨年に続き、イタリアの鬼才で悲劇的な死を遂げたパゾリーニの作品『騙り』に挑みます【4月28日(土) 14:00/18:00開演】。またコンテンポラリー・ダンスは、本学の教授陣に、現代を代表するダンサー=振付家を擁していますから、その一人である伊藤キム氏の構想・振付による『からだの森を行く』【5月12日(土) 14:00/19:00 13日(日) 14:00開演】という集団パフォーマンスで、2012年度の幕開けとします。
 7月には、一昨年来、本学大学院長である浅田彰氏の提案をもとに、『マラルメ・プロジェクト―21世紀のヴァーチュアル・シアターのために』という、言わば「ワーク・イン・プログレス」の方法で、19世紀末の詩人で、20世紀芸術のあらゆる分野に強度に貫かれたメッセージを発信し続けているステファヌ・マラルメの作品から舞台を作っています。坂本龍一氏の音楽、高谷史郎氏の映像、白井剛、寺田みさこ両氏のダンスに、浅田彰氏と渡邊の朗読が加わるという形で、昨年は『《イジチュール》の夜』を立ち上げました。今年は、それを更に深化させて、『エロディアード-舞台』『半獣神の午後』のダンス・ヴァージョンを加えた舞台を作る予定です【7月22日(日)】。

渡邊守章
(舞台芸術研究センター所長・演出家)