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文哲研3days#5「エコロジーを思考するアート?」

2023年1月24日

アクティビティ

 2022年12月19日(月)、2023年1月16日(月)23日(月)の3日間、学内教職員・学生対象のオンラインセミナー文哲研3days#5「エコロジーを思考するアート?」をzoomにて開催いたしました。

 

文哲研3days#5「エコロジーを思考するアート?」

講演者:大久保美紀(パリ第8大学講師、A I-AC, TEAMeD)

司会・ディスカッサント:吉岡洋(文明哲学研究所 教授)

 

講演日時・参加者:

① 2022年12月19日(月) 18:00-19:30 「エコロジーとアート」 (参加者28名)

② 2023年1月16日(月) 18:00-19:30 「エコロジーと資本主義」 (参加者20名)

③ 2023年1月23日(月) 18:00-19:30 「科学、信仰、そしてアート」 (参加者20名)

 

*講演概要ほか詳細:https://www.kyoto-art.ac.jp/iphv/topics/5167/

 

【質問と回答】(時間内にとりあげることのできなかった質問や感想に 回答していただきました)

*ファルマコン(薬と毒)のことばを見た時に、アルコールの飲み過ぎは体に毒ですが、我慢して辛いと強く感じるなら多少は飲んでも良いですよと、医師の方が伝えていたのを思い出して興味が沸き、今回参加しました。建築でも、最初は「何これ?」って思った作品も、解説が付くと「そうなんだ」と考えさせられることが多いですね。

 

→以前、体に悪いと知ってはいるけれどもどうしても好きなもの(我慢できず食べてしまうもの)についてアンケートをして、オブラートに食用ペンで絵を描くという作品を作ったことがあります(Miki Okubo, « Auto-sacrifice? », 2019)。現代は医学的知識が普及し、過剰な健康志向のプレッシャーもあります。体に良いもの・悪いものについてメディアから大量の情報を与えられ、好きなものや習慣としているものが〈健康に悪い!〉と切り捨てられます。しかし同時に、ストレスは健康維持の上で大変悪いと言われる。健康マニアが健康の追求がオブセッションとなって健康を害してしまうケースも知られています。「ファルマコン」展の中でも、〈均衡〉をいかに考えるかは重要なテーマでした。

 
*個性についてですが、個性をその人が本来持っている性質とすると、日本人は集まると個性がなくなるということでしょうか?また、ファルマコン(毒)は薬の役割もするが、日本人は耐性が低くなっているため、または、何らかの理由で、薬の役割を果たせていない、(機能していない)ということでしょうか?
 
→物事の判断において二者択一を迫り、曖昧なものを受け入れないような二元論的なものの見方は、どちらかというと西洋的なロジックであり、近代以降世界中に普及して今日も世界を覆っている、という文脈でのお話だったかと思います。伝統的な日本的なものの考え方には西洋の二元論では説明できない、曖昧さを寛容する思想がありそうだというお話でした。とはいえ、西洋にも両犠牲を認める思想はあるし、日本にも白黒つける考え方はあります。一般的な分類の背景には情報選択があるため、本当はもっと多様で複雑な状況です。現行の社会問題では、とりわけ、二者択一を迫られてそのどちらかを選択するよう促されている状況が顕著となっています。日本社会において、ファルマコンがファルマコンの役割を果たせていないとすれば、二者択一的な脅迫に翻弄され、本来どちらでもない(どちらもある)ことまでそうするよう強いられている状況に対峙する必要があると思います。
 
*両義性について考えるには、寛容さ、心の余裕みたいなものが必要だと思いました。いろんな立場から物事を考えて、異なる立場も受容することが大切だと思いました。現代は二元論で物事を判断することが多いというのは、寛容さの欠如と関係があるのではないかなと考えてしまいました。
 
→〈寛容さ、心の余裕〉が重要なのは間違いないと思います。両義性に不寛容であるせいで心の余裕が失われる状況に追い詰められ、心の余裕のない状況での判断はまた両義性に不寛容、という悪循環に苦しんでいると見ることができると思うのですが、ではどこから変えていけるのか、難しい。おっしゃるように異なる立場や考えに耳を傾け、理解することができれば、白か黒かを決めようと思わなくなります。また、逆に、白か黒かを決めることは問題ではない、と理解することによっても目の前の物事に対する見方や認識の仕方を変えることができるのではないかと信じて展覧会を続けています
 
*気になる概念やトピックが多く、大変参考になりました!エコロジーと芸術論は、古くはカント新しくはティモシーモートンあたりかなと見当がつくのですが、それぞれの話題について学びを深めるための参考文献リストや、何らかの補助線などがあると今後の学びがより深まるので、お手間かとは思いますがぜひご検討ください!

 

→モートンも翻訳が出ていますね。

こちら、私が日本記号学会という学会内のシンポジウムで「人新世のアート」についてお話しさせていただいた際の参考文献リストとなりますが、ご関心にお応えできる文献もあると思いますので、ご覧いただければと思います。

《参考文献》

長谷川祐子(編). 『新しいエコロジーとアートーまごつき期としての人新世』. 以文社, 2022, 336p.

美術手帖編集部. 『美術手帖 2020年6月号特集新しいエコロジー』. 美術出版社, 2020,220p.

Emanuele Coccia. La vie sensible. Éditions Payots & Rivages, 2018, 176p.

Emanuele Coccia. La vie des plantes. Éditions Payots & Rivages, 2021, 192p.

Emanuele Coccia. Métamorphoses. Éditions Payots & Rivages, 2020, 235p.

Philippe Descola. Par-delà nature et culture. Gallimard, 2005,

Donna Haraway. Manifeste cyborg et autres essais : Sciences – Fictions – Féminismes. Éditions Exils, 2007, 333p.

Bruno Latour. Où atterir?. La Découverte, 2017, 160p.

Baptiste Morizot. Manières d’être vivant. Actes Sud, 2020, 336p.

Timothy Morton. All art is ecological. Penguin Classics, 2021, 112p.

Timothy Morton. La pensée écologique. ZULMA, 2019, 272p.  

Timothy Morton. Ecology without nature. Harvard University Press, 2007, 262p.

 

《論文》

Emanuele Coccia, Hors de la maison – De l’alimentation ou de la métaphysique de la réincarnation, « Multitude 72 », 2018, pp101-108.

 

《展覧会》

GLOBALE: « Reset Modernity! », https://zkm.de/en/exhibition/2016/04/globale-reset-modernity

« Critical Zone », https://critical-zones.zkm.de

« Nous les arbres » : https://www.fondationcartier.com/presse/article/nous-les-arbres

« Le grand orchestre des animaux » : https://www.fondationcartier.com/expositions/le-grand-orchestre-des-animaux

« ファルマコン :新生への捧げ物 » : http://mrexhibition.net/pharmakon/

 

《インタビュー、ウェブ連載》

Bruno Latour, “a veteran of the ‘science wars’, has a new mission”, 10 oct 2017, https://www.science.org/content/article/bruno-latour-veteran-science-wars-has-new-mission

Le Monde, « Emanuele Coccia : Nous sommes tous une seule et même vie », 05/08/2020 : https://www.lemonde.fr/idees/article/2020/08/05/emanuele-coccia-nous-sommes-tous-une-seule-et-meme-vie_6048227_3232.html

“Ecosophic Future”: https://hillslife.jp/series/ecosophic-future/dialogue-with-audrey-tang-1/

 

 

【参加者感想(一部抜粋)】 

*世界中が同じ方向に進んで行こうと仕組まれている今、エコロジー=環境だけではなく社会や人間の精神にも着目し、じわっと足を止めて考えさせられる大久保先生の展覧会企画に次回の講義も楽しみです。

*ファルマコンから考える両義性や二元論の話が興味深かったです。現代社会の中では、説明責任が求められるという点で、AかBか、二元論の世界にならざるをえないのではないのかなと考えました。

*昨今、SDGsやグローバリズムなどが取り上げられる中、資本主義について改めて考えさせられる良い機会になりました。

 

 

 

ご参加いただきましたみなさま、ありがとうございました。

対面での開催が難しい情勢ではありますが、今後もzoom等を活用しながらセミナーや研究会などを開催する予定です。一般公開セミナー開催の際はこのホームページにてお知らせいたしますので、ぜひ楽しみにお待ちください。

 

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