染織テキスタイルコース

黙々と織り込む、温かい時間 染織テキスタイルの工房を訪問 【文芸表現 学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の授業に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。
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文芸表現学科・2年生の出射優希です。
今回は美術工芸学科、染織テキスタイルコースの工房や教室に潜入して、そこで出会った1年生から4年生までの方たちから、お話をたくさんうかがいました。
湿気でしっとりした布団にうんざりしている今日この頃ですが、染織テキスタイルコースはお日様の匂いがする布団くらい温かい。その温度を感じていただければと思います!

 

●励まし合うような織り機の音

 

「4年経っても染テキでよかったと思えるって、すごいことだよね」

 

染織テキスタイルコースの4年生から実際にお聞きした言葉である。

この言葉に至るまで積み重ねられてきたもの。短い時間のなかで、そのいくつもの片鱗に触れることができた。

 

染織テキスタイルコースでは、1・2年生で織りと染めどちらもの基礎を学ぶ。あらかじめ設定された制作のテーマがあるため、制限の中で最大限表現する力が養われる。3年生のときには、企業とコラボレーションし、手ぬぐいやスツールなどを制作する。

ここで1・2年生の間に蓄積された力を発揮したうえで、4年生になると卒業制作に挑む。

 

 

最初に見せていただいたのは「織り」。

 

所狭しと並ぶ織り機の前で、黙々と糸と向き合う後ろ姿は、不思議と孤独ではない。糸を織り込んでいく音が、言葉のように弾み、追い込みの作業を励ましあうかのようにも聞こえてくる。

 

↑絵画のオマージュに、綴織(つづれおり)で取り組む様子 織り機は30年も使い続けているものもある。

 

 

 

1年生が取り組んでいた「染色」の授業では、布の完成後に浴衣にする方もいるのだそう。

まだ染めに慣れる前の、自由な色使いに目が惹かれた。自然光の下に出て、風のなかでさらに輝く姿が浮かんでくるようである。

 

 

↑染める際は写真のように小さく畳んでから板で両端を固定する。畳み方で模様も変化する。

 

↑固定に使われる板で、これもひとつの作品のようだ。

 

1枚13メートルほどという長い布を、畳むのも、干すのも、根気のいる作業なはずだ。

しかしお話を聞くと、好きなことができているから楽しいのだ、と語ってくれた。なんとも爽やかで、その気持ちを自分も忘れずにいたいとしみじみ思う。

 

 

●まずは手を動かすという環境

 

さまざまな制作の行程を見せていただくなかでは、作品やコースについて楽しそうに語ってくださる皆さんの姿が何よりも印象的だった。

4年生からお聞きした「4年経っても染テキでよかったと思えるって、すごいことだよね」という言葉には、「近すぎず遠すぎない距離感でうまくひとつになって、プラスの言葉を掛け合える人たちなんですよね」と続きがある。

 

↑卒業制作の参考作品より。「硬いものを柔らかくする」という視点から生まれたぬいぐるみ。

 

現在は卒業制作に取り掛かっている4年生の皆さん。先生からは、ずっと「頭で考えているだけでなく、手を動かしてつくってみる」ことを教えられてきたそう。

これはどんな芸術にも共通するが、受け止めてくれる人たちがいるという安心感は大きい。

 

●暮らしに近い、穏やかな海のようで

 

布は、生活の各所に散りばめられていて、テキスタイルのあるところに人の暮らしがある、と言っても過言ではない。

お話を聞かせていただいた皆さんも、自分に身近だから好きなのだとおっしゃっていた。

とくに服や寝具など、身を任せたり身を守ったりに使われる布。お互いに心を許せる相手がいるからこそ、どこか安心できるものが生まれるのかもしれない。

 

作業場や教室を巡り、お話をお聞きしているうちに自然と「えん」が生まれた。

机を囲み、椅子を並べ、内も外も関係なく、誰もが笑って語り始めるのだ。

このコースから社会へ、行く先々で「えん」が結ばれていくに違いない。

 

染織テキスタイルコースの学生や教職員の皆さんが織りなす関係性、それそのものが1枚の布となり、穏やかな海のように広がっている。

 

 

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取材記事の執筆者

文芸表現学科2年生

出射優希(いでい・ゆうき)

兵庫県立西宮北高校出身

 

1年生のとき、友人たちと共に、詩を立体的に触れることができる制作物にして展示した展覧会「ぼくのからだの中にはまだあのころの川が流れている」を開いた(バックス画材にて)。

自分のいる場所の外にいる人とつながるものづくりに、興味がある。また、「生きること」と直結したものとして「食べること」を捉え、それを言葉で表現している。

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