染織テキスタイルコース

作家は世の中の隙間を見つけだす 染テキの先生が美術展で活躍中! 【文芸表現 学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の授業に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。
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こんにちは、文芸表現学科2年生の下平さゆりです。
今回はなんと、滋賀県立美術館で開催中の展覧会「Soft Territory かかわりのあわい」を見学させていただきました。
大学を飛び出し、初の遠征。ワクワクしながら向かった美術館は、なんだかひとり占めしたいほど素敵……。
これはぜひ、みなさんにも足を運んでいただきたい!そんな気持ちをこめて、ご紹介していきます。
なお、今回の写真はすべて、フォトグラファーの前端紗季さんに撮影していただきました。

 

●美術館に辿り着くまでの穏やかな自然も、助走に

 

「Soft Territory かかわりのあわい」は、その名の通り「テリトリー」がテーマ。

テリトリーとは縄張り、領域……。

その境目は人との出会い、かかわりやつながりが存在する魅力的な場所である、ということを、12名の作家さんそれぞれが作品を通して魅せてくれる素敵な展覧会です。

わたしも、「ことば」という自分のテリトリーで、その内容をちらっとお伝えできればと思います。

 

 

 

 

滋賀県立美術館はリニューアルオープンしたばかりで、エントランスに入った瞬間から、ガラス張りで光にあふれた空間が広がっていて、展示へのワクワク感が増します。

↑エントランス天井。展示作品でもある織物がさっそく出迎えてくれます。

 

 

 

こちらの美術館は、公園の中という、まわりに素敵な日本庭園や木々が生い茂る穏やかな環境の中に立地しています。

美術館にたどりつくまでの道中ですら、自然を満喫できて、「見ること」を楽しめてしまう。それはこれから触れる作品へのめりこむ、没入感を深めるための助走になっている気がします。展示はすでに始まっているんですね。

 

 

●河野愛先生は「未知なものと出会う時間」を表現

 

そして、肝心の展示。今回参加している作家陣には、染織テキスタイルコースの河野愛先生がいらっしゃいます。

 

河野先生のインスタレーション「こともの foreign object」。 こちらの作品の一部は、展覧会のメインビジュアルとしても使用されています。

 

乳児の、ぬくもりを感じられる素肌。その生身の「生」と、間に存在する真珠の無垢さ。異物として捉えたというその2つの交わりからは、純朴さと、未知のものと出会い続けてきた人々が重ねた時間の厚さを感じました。

 

 

●「自分がどう受け止めたのか」こそが発見

 

今回は、閉館後に展示を見ながら、作家陣やキュレーターのお話を直接伺える、ナイトギャラリーツアーにも参加させていただきました。作品が展示されるまでの道のりを知る、貴重な機会。ちょっとした裏話や、作家さんの雰囲気を知れるのがおもしろいです。作家さんとキュレーターの方の自然体で和やかなやりとりを見ていると、一緒にこの空間を作り上げてきた戦友といったような雰囲気があります。

どの作家さんのお話からも、穏やかさと、そこに滲む表現することへの熱意が伝わってくるようで新鮮でした。

 

 

制作したご本人からお話を聞く前と後では作品に対する見方も変わってきます。制作した意図を汲み取れてなかったな、だとか、見当はずれな感想かも、だとか、そういった不安を感じることもありました。しかし、わかろうとするのではなくて、どう感じたかが肝なのかもしれません。作品に対して正解を見つけようとしすぎてしまうより、自分の素直な感性を頼りにしてもいいのではないかと、作家さんたちの自然な姿を見ていて思いました。

 

↑美術館に併設されている遊具……と思いきや、こちらも作品でした。驚きです。

 

●静かな世界を、おのずから見出すということ

 

印象的だったのは、作品は額縁におさめられたものだけが作品ではない、ということ。

これも作品だったのか!と、無意識のうちに「作品っぽくない」と決めつけていた作品たちがいくつもありました。そうした、わたしが抱いていた固定概念を、「作品」という枠を飛び越えていって、改めてその枠があったことに気づかせてくれる作品たち。

作家さんは、そうした世の中の隙間を見つけだして、自然とわたしたちに問いかけてくるような、自分の居場所をつくるのが上手です。

わたしは、そうして見落としてきたものがきっとたくさんあったのだろうな、と思わず今までを振り返ってしまいました。

 

 

●芸術のおもしろさは「視点」なのかもしれない

 

誰かにとってのテリトリーは、各個人のスペースであったり、社会のしくみであったり、ものとものの出会いであったり。わたしには思いもよらないような、作家さんたちそれぞれが持つ「自分にとって」という「視点」こそが、表現をするうえでの最大の武器であると身に染みた、今回の展覧会。

あらゆる視点を持つ人たちが1つのテーマを通して、自分の世界の見え方を表現している。そのおもしろさに出会えました。この人にはこんなふうに世界が見えていて、わたしもそんなふうに見えたらきっともっと楽しいんだろうな、と思うような。あらゆる視点を借りて見えてきた世界の形はとても豊か。まだまだ自分のまわりには、「おもしろい」がたくさんあって、それを素直に受け止めたくなります。

 

おもしろい、の見つけ方を教えてくれるような素敵な展覧会。みなさんもぜひ、足を運んでみてください。

 

 

 

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取材記事の執筆者

文芸表現学科2年生

下平さゆり(しもだいら・さゆり)

湘南工科大学附属高校出身

 

1年生のときには、取材記事(前期)や小説・脚本(後期)のワークショップで記した原稿が、それぞれの演習を代表する作品として全学年参加で行われる合評会に選ばれた。

取材に関しては、知らない世界を通過することによってわかったことを「ぶちまけるようにして書く」性質がある。

物語に関しては、ドラマやゲームなどを通して声や演技によって具体的にかたちにされていくことも含めた、広い意味でのシナリオづくりに興味がある。コメディが好き。

 

Soft Territory かかわりのあわい

 

会期 2021年6月27日(日)~8月22日(日)
※月曜日休館(祝日の場合は開館し、翌日休館)
会場 滋賀県立美術館 展示室2、展示室3、エントランス、ギャラリー他
観覧料 一般 1,200円(1,000円)、高・大生 800円(600円)、小・中生 600円(450円)
※( )内は20名以上の団体料金 ※身体障害者手帳等をお持ちの方は無料
出展作家 石黒健一、井上唯、井上裕加里、河野愛、小宮太郎、武田梨沙、西川礼華、藤永覚耶、藤野裕美子、松延総司、薬師川千晴、度會保浩

 

 

https://www.shigamuseum.jp/

 

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