染織テキスタイルコース

アイデアとは、日常を集めること  染テキの先生が美術展で活躍中! 【文芸表現 学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の授業に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。

 

こんにちは。文芸表現学科の出射優希です。
梅雨真っ只中、滋賀県立美術館へ、遠足みたいな気持ちで展覧会を観に行きました!美術館のある文化ゾーンは自然に溢れていて、ワクワクしつつも心の休まる場所ですね。
今回河野愛先生にお聞きした中にも、ふと目に写るものも大切にされている様子が伝わってきます。
外で活躍されている先生方が、学校に運び込む言葉を直に聞ける、熱いくらいの近さを感じていただければ嬉しいです。
今回の写真はすべて、フォトグラファーの前端紗季さんに撮影していただいています。

 

 

●「遊び」から生まれた、引力のある作品

 

滋賀県立美術館がリニューアルされて最初の展覧会、「Soft Territory   かかわりのあわい」(6/27~8/22)。

 

 

この展覧会には、本学の染織テキスタイルコース専任講師を務めている、河野愛先生、卒業生の石黒健一さんと小宮太郎さんが参加されています。

今回は河野先生に、展示から普段の制作や生活まで、たっぷりお話を聞かせていただきました。

 

目を惹くメインビジュアルとなった《こともの foreign object》を制作したのが河野先生。

 

 

遠くからでも存在感があって、フライヤーもポスターも、見かけるとつい立ち止まって、じぃっと見つめてしまうような、引力のある作品です。

 

この作品のはじまりは、感染症の流行と子どもを育てるという初めての出来事のなかで始めた、些細な遊びだったのだとか。

 

——その辺にあったおもちゃを、赤ちゃんのぽちゃぽちゃっとした体に挟んでみると、シワの間からおもちゃが出てくるような感じがあって面白かった、というのがきっかけです。そこから、貝の中から真珠を見つけるような感覚に重なっていったという感じです。

 

 

●真珠は、薄い皮膜が数千層も巻きついてできた

 

真珠というモチーフを取り入れるに至った経緯は、これまで河野先生が表現してこられたことにも関係していきます。

 

——真珠は、割と前から気になっているものでした。私の昔の作品に、瓶の内側を化学反応によって還元させて、鏡状にするというものがあるんですね。薄い皮膜というものをきっかけに、物事が変化し、記憶が変わっていくことを作品にしていました。真珠も核の上に〔薄い皮膜〕が何千層も巻きついてできているという点で、頭の片隅で気に留めていたものでした。

 

 

日常生活にアンテナを広く張り日々吸収されていく河野先生の作品作りは、「日常に散らかっているものを集めること」に近いのだそう。

感染症の蔓延によって揺れ動くことで、生活により視点が向いていったからこその発見もあったそうです。

 

 

——一番初めの頃は、赤ちゃんを抱いてベランダに出てもいいのかな、というくらい外に出ることに不安を抱いていました。そういう生活の中でも励みになったことは、たぶん今このマンションにも、自分と同じ経験をしている人がいるんだろうなとか、日本中におんなじようなことをしている人が何万人もいるんだろう、と考えることでした。

 

 

●密室での経験も、太古の昔につながっている

 

——もっと引いてひいて考えれば自分の母親だったり、太古の昔から連綿と続く、子育てというものを全員が体験していることを意識しました。自分が子育てすることで、他人の記憶を追体験して行ったんです。脈々と続いてきた記憶とか歴史という大きいものを、自分自身のプライベートな行動から、理解できたのだと思います。

 

 

 

どれだけ時代が変わっても、人間はか弱いまま生まれ、誰かの存在があって初めて命を繋ぐことができるのだな、としんとした気持ちで考えてしまいます。

作品が、無防備でありながらたっぷりのやわらかさを持っているのは、カメラを構えた河野先生の眼差しに、やわらかさがあるからなのかもしれません。

 

 

——乳児と真珠の作品を、さらに自分以外の母子を通じて展開させていこうと考えています。先程の話にあった古い瓶の作品も、鏡になるので観る人が瓶の中に映り込むんですね。あれは観る人と作品が繋がるということでもありました。
(フライヤーの真珠を指差しながら)この真珠もね、うっすら母親が映るんです。お母さんが真珠を子供に挟んで撮影するという行為を介して、母子と真珠との関係を結んでいけるといいなと思います。

 

 

河野先生の作品は、連鎖するように、観る人の中にあるものを含めながら展開されていきます。

生活からふつふつと湧いてくるものを取りこぼさない姿勢から作品が生まれていることを感じます。

 

ミュージアムショップで販売中のスカーフ 4柄各30枚ずつ これも今回の展示を彩る作品になっている

 

現在進行形で、アグレッシブに表現の活動をされている先生方の様子を、近くで見せていただけるのはとっても刺激になります。

 

会期は8月22日まで!

美術館周辺の、豊かな自然感じるのも楽しいですよ。

まだまだ続くので、行って、観て、自分も含まれてみる、のがおすすめです。

 

 

 

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取材記事の執筆者

文芸表現学科2年生

出射優希(いでい・ゆうき)

兵庫県立西宮北高校出身

 

1年生のとき、友人たちと共に、詩を立体的に触れることができる制作物にして展示した展覧会「ぼくのからだの中にはまだあのころの川が流れている」を開いた(バックス画材にて)。

自分のいる場所の外にいる人とつながるものづくりに、興味がある。また、「生きること」と直結したものとして「食べること」を捉え、それを言葉で表現している。

 

Soft Territory かかわりのあわい

 

会期 2021年6月27日(日)~8月22日(日)
※月曜日休館(祝日の場合は開館し、翌日休館)
会場 滋賀県立美術館 展示室2、展示室3、エントランス、ギャラリー他
観覧料 一般 1,200円(1,000円)、高・大生 800円(600円)、小・中生 600円(450円)
※( )内は20名以上の団体料金 ※身体障害者手帳等をお持ちの方は無料
出展作家 石黒健一、井上唯、井上裕加里、河野愛、小宮太郎、武田梨沙、西川礼華、藤永覚耶、藤野裕美子、松延総司、薬師川千晴、度會保浩

 

 

https://www.shigamuseum.jp/

 

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