キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズvol.42「熊澤優依と卒制作品『虚偽ノ神様』について語るの巻 Part1」

※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

村上

今回はゲームゼミ4年生の熊澤優依さん(京都市立銅駝美術工芸高等学校出身)の卒業制作作品『虚偽ノ神様』についてお話を伺います。まずは自己紹介からお願いします。

 

熊澤優依(以下熊澤)

『虚偽ノ神様』を制作しました、ゲームゼミの熊澤優依です。

今回はゲームの企画、シナリオ、イラストを描いて、ゲームとして実装するところまでを一人で担当しました。

ノベルゲームに近い感覚のアドベンチャーゲームを作ったんですけど、物語を読み進める途中に謎解きもあります。謎解きとしては、世界観に入り込むための鍵っていう感じになっています。

 

 

 

村上

ゲームの特徴としては?

 

熊澤

一番大切にしたものが、誰から見ても物語は一つじゃないっていう点です。今こうして先生からインタビューを受けてますけど、質問をする側とされる側とで、私の目から見た物語と先生の目から見た物語を両方楽しむことができるというイメージです。

このゲームの主人公は記憶喪失の冬瀬(ふゆせ)という名前の女の子なんですけど、冬瀬がお面をつけた少女の夢を見たことから、もしかしたらこの夢が自分の過去を思い出すきっかけになるかも知れないと思って探っていくうちに、図書館で「綺羅村(きらむら)」っていうキーワードに行き着くんですね。この村の綺羅神社に同じ形のお面があると分かって、実際に行ってみるんですけど、そこに旧友である碧依(あおい)と奏多(かなた)がいて、この二人に協力してもらいながら徐々に過去を思い出していきます。これが主なあらすじになります。

 

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熊澤

物語が二転三転して、どんどん新しいシナリオが解放されていきます。その中で、善人として描かれていた人が悪人になったり、悪人として描かれていた人が善人になったりするところが面白い点になっています。

イラストも描いたんですけど、立ち絵だけで全部で1300枚くらいありましたね。笑顔の中でも少しだけ寂しそうな笑顔もあります。物語に入り込みやすくするためにそこは細かく描き分けました。

 

村上

ジャンルとしては、サスペンスホラーという呼び方でいいのかな。

 

熊澤

そうですね。主人公は、冬瀬、碧依、奏多の三人で、最初の冬瀬のシナリオが終わると、次の主人公の物語が解放されていきます。物語の途中で「お面の欠片」があって、これを集めてお面を完成させることで新しいストーリーが展開されていきます。

 

村上

一人目の主人公である冬瀬を、二話目の主人公となる碧依の視点から見ると全く違う印象を感じるストーリーとしてゲームが展開していくってことね。

 

熊澤

そうです。小説って、基本的に主人公目線で進むじゃないですか。当然読者としても主人公に自分自身を投影しながら感情移入していきますけど、その主人公は善人として描かれることが多くて、もしそれが悪人として描かれるパターンがあったら面白いなって思って。

 

村上

ゲームならではのストーリーの楽しみ方だね。

 

熊澤

今回はノベルゲームとして進めていって、その中で他のキャラクターのことを感じてほしくて、それでお面の要素を入れました。お面を集めるとそのお面から見た世界という意図で、他の人物の目線に立って新たなストーリーが解放されるので、収集することの面白さを味わうことができます。

その際に謎解きの要素を入れてるんですけど、謎を解くことによって、その答えの中から新たな気付きを得るような展開にしています。だから謎解きギミックの中に物語の核心に迫る要素を散りばめています。これらを繰り返すことで物語の真相を把握できるように設計しています。

 

村上

プレイヤーの参加意識を高めるための仕掛けってことね。

ちなみにこのゲームの構想はかなり前からあったって言ってたよね。

 

熊澤

高校3年の時に考えてたネタですね。元々アドベンチャーゲームにハマってた時期があって、そこでアダルトチルドレンを取り上げた作品に興味が出てきて、自分でも物語を書いてみたいと思い立ってプロットだけ書いてたんです。そのときにこの大学の存在を知って、しかもゲームのことを学べる学科があると聞いてここに入りました。

入学してから、映像とかシナリオを担当してる山岡先生の授業を受けて、ずっとシナリオの添削をしてもらってました。3人の視点で描く案は当初の構想にはなくて、年を重ねるにつれてどんどんストーリーも設定も変わっていきましたね。

山岡先生にプロットを読んでもらったときに「悪役が登場するけど、この悪役には感情移入できないよね」とか「悪役が魅力的じゃないと物語として弱くなる」って指摘されて、確かに!って思ったんです。当初はモブキャラに悪役を割り振ろうとしてたんですけど、主役級の中に悪の存在がいた方が面白いと思って、話の設定に手を加えていきました。

 

 

熊澤

シナリオを書いてるときにキャラクターが勝手に動き始めるっていうか、最初の設定では単に「優しいキャラクター」だったのに、書けば書くほど深まっていって、「ただ優しいだけじゃないよ」ってなって、キャラクターが勝手にキャラクターになっていくのを実感しました。

 

村上

慣れないうちだと、ついついストーリーラインそのものを作り込もうとしてしまうよね。イベントとか事件とか、そういう「出来事」を考えていって、その上でキャラクターを動かそうとしがちなんだよね。

それが今回の作品だと、キャラクターが主導的に話を作っていくっていうか、血が通ってる感じがあって、ちゃんとキャラ立ちしてる点が生々しくて良いなって思ったよ。

 

熊澤

そう感じてもらえたら嬉しいですね。

 

村上

最初このゲームのプロットを渡されたのが3年生の後期だったけど、その段階では意味が全く分からなくて…(苦笑)。物凄く複雑に色んなキャラクターの思惑が交錯していて、しかもこの人とこの人は実は同一人物で、ある段階からこの人はこの人に成り代わってしまって…誰が何をしてる話なんだかさっぱり分からなくて、正直あらすじだけだと全然面白くなかった(笑)。

 

熊澤

勢いで書いてたんで誤字脱字も多くて(笑)。

 

村上

でも卒制が本格スタートした段階でちゃんとシナリオの形式になったものを読んでみたら、そこでやっと意味が理解できた。

ところで、アダルトチルドレンのどこに感銘を受けたの?

 

熊澤

アダルトチルドレンにも色々種類があるんですけど、ヒーローって呼ばれたりスケープゴートって呼ばれたり。そういう心の病に興味が出始めたんです。他の授業のレポートを書くときにもアダルトチルドレンを題材に書いて、そこで色々調べて知識を深めたりとか。

 

村上

卒制の研究のために他の授業の課題をあざとく全部利用してきたわけね(笑)。

 

熊澤

そうです。背景美術の授業でも、自由課題のときにはこのストーリーに関係するような世界観を描いて構想を膨らませたりとか。思い切り利用してきました。

3年生の前期もノベルゲーム作ってましたしね。

 

村上

まさに卒業制作が大学生活の集大成となった感じだね。3年生の時に作ったノベルゲームは、ストーリーもジャンルも全然違うけど、人と人の絡み方とか後味の感覚とかは今回の作風に似てたよね。

 

熊澤

そうですかね。でも確かに人間の黒い一面を描きたかったという点では似てたかもしれないです。ハッピーエンドがあまり好きじゃなくて(笑)。

 

村上

なんで?

 

熊澤

私としては、主人公をめちゃくちゃにいじめたいんです。最後は報われる展開って多いと思うんですけど、そこでVERY BAD ENDにするのが好きで、やんやかや解決はしてないけど今は幸せ、それでも過去が付いて回る、みたいな。

ちなみに今回の作品でいくと、一本目となるメインストーリーは結構ハッピーエンドで終わるんですよ。ていうか無理やりハッピーエンドで終わらせたんです。続く二話目と三話目についてはバッドエンドにしたので、執筆のモチベーションが全然違いましたね。

 

村上

メインストーリーを書くときはモチベーション低かったの?

 

熊澤

はい(笑)。個人的には冬瀬よりも碧依と奏多の二人に感情移入してしまったので…。

 

村上

書いてる途中で登場人物に感情移入してくると主人公が独り歩きを始めるよね。作者としては右の方向へ行かせたいのにキャラクターは左へ行こうとし始めるから、それを軌道修正しながら自分が思い描いた結末へ導いてあげるっていう。このやりとりができるとそれは良いシナリオの証拠なんじゃないかなって思う。完全に作者の思った通りに進むと、それは血の通っていないキャラクターってことになってしまうから。

卒業制作の展示では、一周目はハッピーエンドで楽しんでいただいて、やり込みたい人は二周目以降をプレイして熊澤優依の本性を知ってくれと(笑)。

 

熊澤

そういうことですね。

 

村上

ストーリーを作る上でのプロセスってどんな感じ?

 

熊澤

元々は物語を書くのは好きではなかったんですよ。ゲームをやって、色々生活しているうちに「これいいな」って思ったものを書き留めていく感じだったんです。それでプロットを書いて、もしうまくかけたらそのまま進めますけど、気に入らない箇所があれば何度も書き直していきます。私の場合すごく話が長くなる傾向があって、しかも書けば書くほど登場人物が独り歩きしてしまうので、軌道修正に四苦八苦するといった感じですね。

 

 

Part2に続く

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