- 2023年10月11日
- 日常風景
ゼミ通ヒーローズVol.61 浅井美空、シン・ジヨン、ムン・ユギョンと学科展作品「carrot climb(キャロットクライム)」について語るの巻
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
村上
今回は学科展用作品であるVRゲーム「carrot climb(キャロットクライム)」を紹介したいと思います。まずは制作者三人の自己紹介をお願いします。
「carrot climb」の制作チームである浅井美空さん(左)、シン・ジヨンさん(中央)、ムン・ユギョンさん(右)
シン・ジヨン(以下ジヨン)
シン・ジヨンです。私が担当したのはゲームのプランニングとチームのスケジュール調整、あとは少しだけビジュアルデザインを担当しました。
ムン・ユギョン(以下ユギョン)
ムン・ユギョンです。私は今回プログラミングとUIデザインを担当しました。
浅井美空(以下浅井)
浅井美空です。CGデザインとプランナー補佐を担当しました。
村上
では次にゲームの内容を聞かせてくれるかな。
浅井
これはアスレチックのような感覚で、ウサギの主人公がニンジンをつかんで崖を登っていって、ゴールにある大きなニンジンを取りに行くゲームです。コンセプトとしては落ちないように登っていくというドキドキ感です。
ジヨン
今回私たちはVRを生かした面白いゲームを作りたいと思っていて、試行錯誤した結果、山に登る感じが面白いと感じて今の形になりました。
村上
学科で展示してみて、来場者の反応はどうだった?
浅井
私は一人用のゲームが好きで、VRでも一人で楽しむものだと思っていたんですけど、周りのお客さんが「頑張れ!」って応援していて、その空間自体が周りとのコミュニケーションを生んでいて、一人で楽しむだけじゃなくて他の人との関わりもあって一体感が生まれてましたね。
村上
そもそもVRでゲームを作ろうと思ったきっかけは何?
ジヨン
まず単純に他の制作チームと企画が被らないようにしたかったのと、あとはチャレンジですね。私たちが勉強するための材料としても。まだVRゲーム自体それほど浸透していないので、まずは一度やってみたかったというのが大きいです。
村上
ゲームのイベントに行くとVRのゲームは結構人気はあるんだけど、実際に一般の人が自宅で遊んでるかと言われると、ハード一式を買ってまでハマってる人はまだまだ少ないよね。
今回の場合、崖を登ってる手の動きを含めてプレイしている様子を見ると結構楽しいことをやってるように見えるから、自分も遊んでみたいっていう人が多かったね。
ジヨン
プレイヤーは子供が多かったですね。お母さんが早く帰りたがってるのに子供が粘ってたのが印象的でした。
村上
今回特に拘ったポイントは?
ジヨン
動きが面白いゲームを作りたいという部分ですね。テストプレイしながら私自身が面白いなって感じていたので、作品に愛情がどんどん増していきました。
ユギョン
私は登るときに何を狙って上がる必要があるのか、プレイヤーに目的意識を持たせる演出に拘りました。ゲームは全部で3ステージとなっていて、それぞれでニンジンを配置する際に、次に手をかけるニンジンを見せておいて、早く登るためのルートを狙えるようにした点が一番の拘りでした。
浅井
展示の一日目で、子供が難しそうにしていたから二日目にはちょっと簡単なステージを作るといった形で臨機応変に手を加えられたのはすごく良かったです。あと最後のステージでニンジンを掴んで登るだけの簡単なルートと雲を渡っていくという難しいルートに分かれているんですけど、そういうふうに上級者向けのルートを選べる点にも拘りました。
村上
それは隠しステージみたいな感じ?
ジヨン
遊ぶ人のスキルに合わせて自由度を高めたかったんです。普通にプレイするとニンジンだけを掴んでいくんですけど、最後の方になってくるとニンジン以外のものも掴めてこんなルート選びもあるんだっていうのをプレイヤーが発見できるようなゲームデザインにしました。
村上
プレイヤーの動き方って作り手が想定しているものとは違っていて、どれだけデバッグをしても予想外の行動をとる人もいるよね。難度を下げたつもりなのに難しすぎて誰もクリアできなかったとか、実際に作ってみると作り手も客観性を失ってくるというか、作り手にとってちょうどいい難度で作ろうとするから、一般の人がやったらもう全然クリア出来ないなんてことはまあよくあるんだけども、それも含めてお客さんの動きを見ながら臨機応変に変えていったというところはすごく勉強になったんじゃないかな。
ジヨン
学科展の直前までめっちゃ徹夜しました。
村上
まあそうそうなるわな。
浅井
一週間くらい徹夜してましたね。
村上
それはやりすぎ。
村上
ゲームって、仕様が全部入ったら完成じゃなくて、むしろそこからが本当の開発のスタートだから、そこはキツいよね。クォリティが高いかどうかじゃなくて面白いかどうかっていう二つ目のハードルを乗り越えるのに、どれだけ作り込んでも終わらないというか、やればやるほど先が見えなくなるからもう本当にメンタルが強くないとゲームの制作なんかできないよね。なんでこんな苦しい思いをしてまでゲームを作るんだろう?
浅井
私は小学生の頃からゲーム開発に携わりたいと思っていて、その理由としてはその頃に遊んだゲームに救われたからというか、ゲームという世界の面白さを知ったことによって、生きるのが楽しくなったっていうのが切っ掛けですね。
村上
重たい(笑)
浅井
私もこんな感動を与えることができる作品を作ってみたくて、将来的にはゲーム会社で働きたいと思いました。
村上
思い出のゲームって何?
浅井
「星のカービィ」ですね。小学三年生の頃にハマって、ゲームの世界に入りたいと思いました。
ユギョン
私は幼稚園と小学校時代にポケモンにハマってゲーム業界を考えてたんですけど、中学校時代に「ソードアートオンライン」というアニメにめっちゃハマって、ゲーム開発者とかデザイナーをやってみたいなと思って、それからゲームを作ってました。
村上
その時に実際に動くゲームを作ってたの?
ユギョン
UnrealEngine4でゲームを作ってました。アルディーノとかも使って。
ジヨン
私は少しみんなと違っていて、ゲーム制作の基礎とか応用の授業を受講しながら、人と人が繋がる部分が面白いなって考えてました。人はどうやって仕事を楽しくできるのか、辛い時にどうすればもっと人生を楽しく生きられるのかって考えてました。ちょっと考え方を変えるだけで強く生きられるし、ゲームを通して人が能動的に動き出す研究をしてきたのが楽しいと思って今も勉強しています。
村上
じゃあゲームというよりもゲーミフィケーションの方が近いのかな?そもそもなんで日本で学ぼうと思ったの?
ジヨン
日本は芸術系に対しては入試のやりかたも優れていると思うんですけど、韓国は昔からみんな同じ方法で絵を描いて同じものを作ってるって思ったんです。だから自分が本当に好きなことを、命令じゃなくて自分から作る方法を研究していきたいなっていう。韓国だけではなくて、もっと広い世界を見たくて。だからいろんな海外に行ってみたいです。
村上
それで言うとユギョンも同じような感じかな。
ユギョン
アメリカと日本のどちらに行こうかと考えてここに入学したんですけど、日本を選んだ理由はポートフォリオの指導が強いからですね。構成をちゃんと見てくれるし、自分が何に拘って作ったのかをちゃんと見てくれます。
村上
実際に日本に来てみて、意識が変わったり気づいたことってある?
ジヨン
日本がゲームを作る市場が大きいのに対して、韓国はゲームをプレイする方が強いということも知りました。
村上
確かに韓国の場合はeスポーツもそうだし、光ファイバーのネットワークの配備が進むのも早かったからPC房(日本でいうところのネットカフェの前身)も普及して、一気に浸透したもんね。中国も韓国も、何かこれがやりたいと思ったらとにかく外に出ていって貪欲に吸収する傾向があるけど、日本人にはあんまりなくて、どうしても日本の中だけで収まろうとするところがある。
浅井
それはありますね。海外だと結構進んでる技術がまだ日本には来ていないっていうのもあって、娯楽全体に関しては今ちょっと遅れを取ってるように感じます。
村上
今後はどんなものを作ってみたい?
ジヨン
人間を操りたいです。
村上
に…人間を操りたい…!?
ジヨン
ゲームのレベルデザインとか、ゲーミフィケーションをもうちょっと勉強して、いろんな角度から世界とか人を見て物事を考えるような人になりたいっていうことです。偏見がない人というか。
村上
自分の価値観を押し付けるんじゃなくて、色んなものの見方があることを認めていけば争い事もなくなるのになーとか、よくそういう話をするよね。遊びの力で世界を変えようっていうのがゲームゼミの目標でもあるんだけど。
ジヨン
そうです、そういうのをやりたいんです。
村上
せっかく大学に入ったんだし、面白いとは何かっていうことをしっかり研究して、面白い社会を作ってもらいたいな。
ユギョン
私は世界的なゲーム会社を運営する社長になりたいです。外国語も色々できるし。
村上
なるほど。まあユギョンは行動力がものすごいからね。去年の脱出ゲームでもだいぶアグレッシブに動いてくれたし、その力は今後世界で必要になるのでぜひ頑張ってください。
浅井
私は、遊んだ結果として何か心に残るような作品を作りたいと思ってます。ゲームの面白さ自体もそうなんですけど、その人の人生というか世界というか、物語も含めて問いかけるような作品を作りたいですね。
村上
なるほど。まあゲーム自体がすごく没入感の高いメディアなので、そうやって能動的に人を動かす仕組みづくりを考えるのは全然可能だと思うよ。
というわけで、それぞれのビジョンが実現できるようにぜひ頑張ってください。