- 2022年1月14日
- 日常風景
ゼミ通ヒーローズvol.42「熊澤優依と卒制作品『虚偽ノ神様』について語るの巻 Part2
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
※卒業制作作品『虚偽ノ神様』の制作に関する記事の続き。
村上
ところでゲームシステムはどうやって考えてる?
熊澤優依(以下熊澤)
選択肢でストーリーが変化する形式があまり好きではなくて、『レイトン教授』みたいに謎解きメインで進行するものが面白いなって思いました。『レイトン教授』は謎を個別に解いていきますけど、この謎を物語の中に入れたらどうなるんだろうって思ったんです。
村上
物語の中に入れる、とは?
熊澤
物語の流れと謎解きゲームを分離させるんじゃなくて、謎を一つ解くとより主人公のことがよく分かるとか、話が前に進むとか、そういう感じで物語と謎解きが融合する形にしたかったんです。
村上
ストーリーと謎解きが足し算の関係になってるものが多いのに対して、この作品では二つの要素を掛け算として表現したかったってことね。
あと、お面を収集する要素はどうやって思いついた?
熊澤
最初は、メインストーリーをクリアすると自動的に二話目が解放される仕様にしてたんですけど、それだけだとゲームとして面白くないなって。それでお面の欠片を集めるシーンの前に、お面を割る場面を入れたんです。欠片を集める行為がそのキャラクターの心を集めていくとも解釈できるので、これを収集要素の一つにしながら、ストーリー展開に影響を与えていくっていうのが面白いなと。
村上
集めたお面を通して見た世界を、そのキャラクターの立場になって見ることができるっていうアイデアは凄く深いテーマを表していて面白いと思う。
あとは、さっき物量が多いって話したように、今回はシナリオの量が膨大だよね。
熊澤
約8万字ですね。修士課程論文の2倍の物量です(笑)。で、描いた絵が1300枚。
村上
それだけの仕事量をこなす上で、どうやってモチベーションを維持した?
熊澤
キャラクターを形にするのが難しくて…そもそも絵を描くのがあまり得意じゃないっていうのもあるんですけど、一つの絵を描くのに何度も描き直しをするので、そこで一度モチベーションが下がるんです。
でも絵を見てたら「ああ、このキャラクターが物語を引っ張っていくんだな」って感じることができるので、今度はそのモチベーションでシナリオの制作に入って、またシナリオに疲れたらキャラクターの絵を描いて…と繰り返してました。
あとはBGMを探すのが楽しいのでフリー音源の良さそうな素材を探してきて、その音楽を流しながら世界観の構想を深めていったり。
そうこうしてるうちにシナリオの量が物凄いことになっていくので、「私はこれだけの量を書いたんだぞ!」っていう優越感に浸りながらどんどん進めていきました。
要するに、絵を描く作業とシナリオを書く作業の両方のモチベーションを維持できるように行ったり来たりする形で進めていきました。
村上
常にやることが一杯あるから、飽きないってことね。
熊澤
まあ、飽きてる余裕がないですね…。
村上
今回はホラー系のストーリーなんだけど、恐怖の描写というよりも、なんか普段の何気ない会話の方に気持ち悪さを感じるというか。
熊澤
えー、そうですか!?
村上
添削してるときに何度か指摘したけど、例えばお父さんのセリフ回しが機械的で気持ち悪かったり。
熊澤
そこは意図的な演出ですね。不気味な感じを出したくて。
村上
お父さんの次に奏多のセリフも気持ち悪く感じたんだよな。
熊澤
それは友達からも指摘されました(笑)。
村上
高校二年生でこんな話し方するかなって思って。でも途中から「そういう世界観なんだな」って感じて慣れてきたんだけど、最初に読んだときは、これは表現力の問題なのか意図的な演出なのかが分からなかった。
熊澤
奏多の場合、憂いというか、ちょっと硬いセリフ回しで話していて、私としてはガンダムの中に登場するキャラクターをイメージして書いてました。もちろんビジュアルは全然違いますけど。
村上
それを聞いて納得した。ガンダムね。昭和初期の設定だったらハマりそう。
熊澤
そういう好きな作品を意識した作り方を取り入れたことも長期制作のモチベーション維持に役立ちました。
ただ就活のときは制作には全く身が入らなかったですね。振り返ってみると、先生とは制作のことよりも面接練習してもらってる時間の方が長かったような気がします。
村上
夏にゲーム会社の内定がとれたから、そこから後はもう一気に追い込み作業に入ったね。
熊澤
無理やり詰め込みましたね。でもそのとき、奏多のシナリオについては書くつもりはなかったんですよ。「乞うご期待」みたいな感じで終わらせようかと思ってたんですけど、碧依のシナリオを書き終わった途端に急に奏多の設定が変わって、これネタバレなんですけど殺人鬼になってしまって(笑)、書いてて楽しくなっちゃったんですよね。そこから急ピッチで書き始めました。そこはもう絵の仕上げ作業と並行して進めてました。
村上
制作の終盤になって急に奏多編を書きだしたもんね。確か奏多編のシナリオのチェックをしたのって、11月末くらいだったような気がする。
熊澤
そうでした。ムチャクチャでしたね(笑)。
村上
最終合評まで一カ月を切ってる状態で追加のシナリオを書き出したから、正直コレ間に合うのかなって冷や冷やしたよ。シナリオが書き終わってからそれをゲームの形にしなきゃいけないわけだし。でも、明らかに気持ちがノってるなって感じたから、ここでストップをかけるほうが酷だと思ってGOサインを出したわけだけど。
熊澤
それで一気にモチベーションが上がって最後の追い込みをやり遂げられました。メインストーリーだけだったらストレスが溜まってたと思います。
村上
今回の制作の中で一番大変だったことって何?
熊澤
ほぼ全部ですかね。一人で全部やるっていうのも含めて。一番大変だったのはメインストーリーを書くところですね。高校生の時から考えてた話で拘りが強かっただけに、書いても書いても「何かが違うなー」って思って。
村上
碧依と奏多のエピソードが一気に進んだのは、そのメインストーリーのストレスから解放されたからなのかな。
熊澤
それはあると思います。これもネタバレなんですけど、そのときまでは、碧依を殺人鬼にする設定だったんですよ。でも書いてるうちに「碧依はそんなことする子じゃない」って気持ちになってしまって、急遽「殺人まがい」みたいな扱いになっていきました。その話を書き進めた勢いで奏多のエピソードも書くことになって、そのときに「奏多はもっとヤバいキャラにした方が面白いんじゃないか」って。短い時間で仕上げたので地獄の日々だったんですけど、それ以上に楽しく書くことができましたね。
村上
今回の作品だと、謎解き要素や収集要素があって、ゲームである必然性を感じるんだけど、もしそれがただ読ませるだけのものになるなら、評価が難しいよね。ストーリーの良し悪しだけで判断するべきなのかどうか。
熊澤
アドベンチャーゲームって特にプレゼンがしにくいんですよね。あらすじを説明したところで伝わりにくいし。なので私の場合は物量アピールでいきました。文字数は修士課程論文の二倍になりました!とか、1300枚絵を描きました!とか、何処どこへロケハンに行きました!とか(笑)。
村上
結果的にはあれで良かったと思うよ。3分の合評でストーリーを説明されても正直頭に入ってこないからね。
でも熊澤の場合、中間合評以前に、色んなゲーム会社のポートフォリオの講評会に参加して、そこでアドベンチャーゲームの効率の良いプレゼン方法を学べたのが大きかったと思うよ。
熊澤
それは大きいですよね。あの時自分で説明してるのに自分でよく分からなくなってきてたので(笑)。このキャラクターとこのキャラクターはどういう関係で…とか話し出したらワケが分からなくなって、緊張でどんどん話も長くなっていくし、明らかに聞き手が飽きた表情をしているのが分かってまた緊張して…。
村上
ストーリーがメインとなる場合、ゲームである以上は遊びの部分の面白さをどう伝えるかが重要だから、そのポイントだけ押さえた上で「要は〇〇さんが〇〇をする話で、最後はこうなります。その上でこんな遊びをデザインしました」くらいでニュアンスを伝える程度にとどめないと、まず誰も聞いてくれないよね。
熊澤
ノベルの要素に重点を置いてる商品って多いじゃないですか。『****(自粛)』とか。カードを集めるにしても強いキャラを集めるんじゃなくて、このキャラクターのパーソナルストーリーを読みたくて課金してるんじゃないかって思うところがあって、そうなるとゲーム性ってどうなるんだろうって思うんですよね。私の場合はストーリーも楽しみたいしそれ以上にゲームを楽しみたいので。
村上
最近のユーザーはどうなんだろう。ストーリー展開そのものを楽しんでるのか、ガチャを引くために「ストーリーを読むという処理」をしているだけなのか。…そういうことを言うと老害って言われるんだろうけど(笑)。
熊澤
ですね(笑)。
村上
いずれにしても、今回は熊澤ワールドを全力で表現した作品になっていて、ストーリーとゲーム性の両方がバランス良く盛り込まれた大作になってるので、早くたくさんの人にプレイしてもらいたいね。
熊澤
はい、頑張ります。
村上
では展示に向けての追い込み作業もあってまだまだ大変な状況は続くけど、ぜひ頑張ってください。
熊澤
はい、ありがとうございました。