キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズVol.63 水野優とゲーム作品『サーモン・スクリプト』について語るの巻

 


※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

 

村上

では今回は、絶対位置センサーのtoioを使ったゲーム「サーモン・スクリプト」を制作した水野優(以下水野)さんと、ゲームの制作秘話について話していこうと思います。

 

水野

キャラクターデザイン学科ゲームゼミ三年の水野です。よろしくお願いします。

 

村上

はい、お願いします。まずは作品の紹介をお願いします。

 

 

水野

単純に言うと、魔法使いをゴールに導くゲームです。一見昔ながらの2D横スクロールアクションみたいに見えてるんですけど、実はゲームのコントローラーを使うんじゃなくて、toioっていうキューブ型の小さなロボットを使って遊びます。

 

 

水野

魔法陣が描かれたマットがあって、ここに魔法石(toio)を置くとそれがゲームの中に反映されて、キャラクターが魔法を使うんです。キャラクターはオートで移動するので、穴に落ちたり敵に当たらないように魔法を使ってキャラクターをゴールまで導いていくという遊び方になります。現実世界の魔法陣に魔法石を置くとゲーム世界で魔法が発動するので、現実とゲーム世界のリンク感を味わえます。「ゲームは既存のコントローラーで遊ぶもの」という固定概念を一度捨てて、未知のデバイスの可能性を探った実験的な作品になっています。

 

村上

スーパーマリオみたいにプレイヤーがコントローラーの右を押したら右へ移動するんじゃなくて、キャラクターは自動で歩いてるんだけど、その先にある障害物を魔法石を使って回避していくってことね。

 

 

水野

上下左右に魔法石を置く場所があって、上と右にそれぞれキューブの色が分けられていて、上に黄色、右にオレンジを置くとゲームの中で橋が召喚されます。この橋はプレイヤーの足元に召喚されるので、例えば落とし穴の上を落ちずに歩くことができます。

 

村上

魔法にはどんな種類がある?

 

水野

基本的に四つの魔法で構成されています。移動用魔法の「橋」と「エレベーター」、そしてバトル用の「砲弾」と「盾」です。橋で落とし穴や下の方にいる敵を回避したり、エレベーターを使って高い所に登ったりできます。「砲弾」を使うと前方の敵を倒すことができるし、「盾」は敵の攻撃を弾くことができます。この基本の四つの魔法を組み合わせて進んでいきます。

 

村上

操作方法をコントローラーじゃなくて魔法石にしようとした理由って何?

 

水野

辻子先輩(21年度卒業生の辻村奈々子さん)が卒業制作で「ハコニワ」というゲームを作っていて、これがデジタルゲームと現実世界が連動する仕掛けになっていてカッコいいなぁって思って。先輩もtoioを使われたということで機能を調べたら位置センサーとして使えると分かったので、マットと連動した遊びが実現できるゲームを考えてみようということになりました。

 

村上

ゲームをバーチャルの世界だと割り切るんじゃなくて、本当に自分が魔法を使ってるような錯覚を得ることを楽しんでもらいたかったということね。

 

 

水野

toioは、簡単に言うといろんなセンサーが組み込まれたキューブ型の小さなロボットです。3㎤くらいのキューブで、子供がビジュアルプログラムを学ぶためのプログラム教材ですね。中にジャイロや位置センサーが入ってて、今toioがどの方向を向いているのか、今どの座標にいるのかを読み取ることができます。あとは、今回のゲームでは使ってないんですけど、toioにはタイヤもついてて、走らせることもできたりと、とにかくいろんなことができる小さなロボットになっています。

 

村上

今回メインで使ったのはいわゆる絶対位置センサーだね。魔法陣の描かれたマット上での座標を取得して、それに見合った魔法が発動されるっていう。

 

水野

そうですね。コマンド入力とかじゃなくて、直感的に手で魔法陣に触れて本当に魔法が発動するぞっていうっていうことをやりたかったんです。

ゲームとしては、ただ単に決められた位置に魔法石を置くだけなので、すごい操作が簡単なんですね。でもタイミングをうまく見計らって発動させないといけないし、魔法は連続では出せなくて十秒ぐらい待たないと次の魔法が使えないのでタイミングがすごく難しいんです。脳みそがこんがらがるみたいなのが面白いなぁと思ってて、これを遊びのメインにして作りました。

 

村上

遊んだ感覚としては、昔のおもちゃの「チクタクバンバン」に似てるなって思った。

 

水野

…知らない。

 

村上

15パズルみたいな盤面に線路が敷かれていて、そこを電車型のロボットが移動していくから、電車が脱線しないようにパズルを動かして線路を繋げていくっていう遊び方の…

 

水野

知らない。

 

村上

 

水野

確かに、進ませるっていうゲームデザインとしてはすごく似てますね。遊びのテンションも似てると思います。

 

村上

よく授業の中で、脱出ゲームと宝探しゲームのモチベーションは全然違うよね、みたいな話をしたことがあるよね。脱出ゲームの場合、時間内に脱出しないと殺されるから、絶対に何とかしなきゃいけない。で、宝探しのゲームっていうのは、別に宝を探さなくても死ぬわけじゃないし、見つけられたらラッキーという程度。脱出ゲームは後ろから追われて、宝探しは前に進む。ネガティブなんだけど後ろから追われるような強制力が働く方が遊ぶ側は必死になれるし、プレイヤーを動かす動機付けとしては凄く強い。

 

水野

そうですね。やるしかないって感じになりますよね。

今回のゲームの場合、そこに解き方のバリエーションを設けたので、それで更に能動的になります。いつもレベルデザインで意識してることなんですけど、例えば敵がいた場合、複数の解決方法を作るようにデザインしました。これがワンパターンだと決められた答えをなぞってしまうだけなので。

 

村上

そうだね、答えが決まってると、遊ぶというよりも作業になっちゃうね。

実際に学科展でプレーしてもらって、来場者の反応はどうだった?

 

水野

お客さんの反応はめちゃめちゃ良かったです。特に子供が夢中になって何回も繰り返して遊んでいきましたね。

 

村上

先日PLAYROOM KYOTOの方でもプロに混じってゲーム作品のプレゼンをしてたね。

 

水野

発表したときに場が静まり返ったのでヤバいって思いましたね。

 

村上

通常のコントローラーで操作するゲームじゃないから、初めて見た人からすると何をやってるのかよく分からなかったんだろうね。

 

水野

でもその後の試遊時間に大勢の人が集まってたくさん質問を受けたりしました。どういう仕組みになってるのか興味を示されたみたいで。

 

村上

質疑応答も試遊も白熱したからインパクトはあったんだと思う。手を動かしてるところを見ると誰でも興味が湧くようなものになってるからね。

 

水野

ボードゲーム開発の方が結構食いつきが良かったですね。この仕組みはボードゲームにも応用できるみたいな感じで話を聞いてくれました。

 

村上

もうアナログとデジタルの垣根を作ること自体がナンセンスというか、どうやって融合して新しい価値を生み出すかが問われる時代だから、こういう作品をどんどん作っていかなきゃいけないなって感じたね。

このゲームはいわゆるデジタルゲームなんだけど、半分はアナログゲームであり、そのアナログの中にもtoioというコンピューターの媒体を使ってるからデジタルゲームと言い切っていいだろうっていうところもあるややこしい作品になってるね。でも動かすことで先を読んで知恵を絞ってリズムよく操作する。てことはもしかしたらゲームの枠を飛び出して知育玩具かもしれないしリハビリ用の医療器具と呼べるかもしれないよね。

 

水野

いわゆるゲームって、一般的にはNintendo SwitchのJoy-Conだったり、PlayStationのデュアルショックで動かすものという印象がありますよね。ゲームと人間を繋ぐインターフェースがコントローラーってことになりますけど、システム本体と手をつなげるわけでもない…となるとコントローラーの意味合いみたいなのがカテゴリーの分類分けに使われてるのかもなと思いました。

今回の作品は魔法石を魔法陣の上に置いたらデジタルゲームの中身が動いたっていうことなので、やってることはデジタルゲームですけど、なんかそれを繋ぐものはまた違った体験というかアナログ媒体を使って新しいエンターテイメントを作ったっていうイメージですね。

 

村上

これから卒業制作の企画にも入っていくので、「普通はこうだろう」っていう常識をブチ壊して、大学生でしか作れない実験的で野心的な作品をどんどん残していってほしいですね。

 

水野

はーい、頑張ります。

 

 

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