- 2022年4月22日
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ゼミ通ヒーローズVol.47「辻村奈菜子と卒制作品『ハコニワ』について語るの巻」Part4
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
ゼミ通ヒーローズVol.47「辻村奈菜子を卒制作品『ハコニワ』について語るの巻」
Part3からの続き
辻村奈菜子さん
ゲーム授業の集大成の話
村上
今度は制作工程に触れていこうかな。
卒業制作が開始される去年の4月頭にはもうプリミティブな素材だったとはいえCGのマップが全部出来上がってて、エンディングまでの道のりもほぼ完成してたね。
辻村奈菜子(以下辻村)
そうですね、去年の4月の段階から特に何も変わってないですね。制作一カ月目で3dsMax上でボックスのオブジェクトを積み重ねていって、その段階でユーザーストーリーも見えてきました。
村上
辻子に限らず、この代の卒業制作は皆4年生に進級したタイミングで既にゲームとしての基本形が完成していて驚いたな。仕様をガチガチに固めてから作るんじゃなくて、とにかく春休みの間にたくさん落書きをして、イメージボードから構想をまとめて、同時にそれがゲームデザインとして成立していくというね。
辻村
最初は私も落書きから始めて、そこである程度世界観が決まってきたら3Dモデルに起こしていきましたね。立体的に観察するゲームなので、平面のイラストでは限界があるんです。
村上
昔ゲーム開発をしてたときは、大量のレゴブロックを買ってきて、机の上に立体で組み立てて、それを皆で囲みながら議論をしたことがある。
辻村
トンネルをくぐり抜けたらこんな世界が広がって、みたいなワクワク感を作りたかったので、そういう作り方は理想的ですね。とにかく観察と発見は楽しいんやぞ、っていうのを全面に押し出したかったですね。レゴ買うお金ないですけど(笑)。
4年間の総まとめ
村上
授業の中では「人を夢中にさせる7つのゲーム要素」にも触れていて、この『ハコニワ』の中にはほぼ全ての要素が詰まってる。あとは雑談で話したと思うんだけど、自分が子供の頃に遊んだ『ドラゴンクエスト2』のラストダンジョンの話とか。長くて苦しいダンジョンを攻略して、体力もアイテムも尽きかけたときに突然目の前が開けて、しかもそこが一面の銀世界っていう。あのときの鳥肌が立つような感動が…みたいな細かい雑談も辻子は全部覚えてくれていて、その中で面白いと思った要素は余すところなく作品に盛り込んでいく貪欲な姿勢が素晴らしいと思ったね。
辻村
確か「マップを散策していてどういうときに楽しいと感じますか」って先生に質問したときに、狭い所から急に視界が広がる瞬間とか、何もなかったところに何かが出現するとか、色んな話をしてたんですよね。
今回、クライマックスの場所へ向かう時には、周りの景色が遮断された狭い道を不安を抱えながら進んで、最後に一気に視界が広がる演出になっています。そこには、最後になって最初の場所に戻ることで成長を実感できるような神話のシナリオの構造とか、最後の場所に立った時に、自分が冒険してきたマップを俯瞰で見渡せるようになるのでゲームの展開を振り返ることができるとか、今まで大きく見えていたものが小さく見えることで優越感と達成感が得られるとか、そういうことを全部表現したかったんです。
村上
確かに、実際にそこにあるジオラマと同じ視点で見ることができて、メタ的な表現にもなっててうまかったね。
辻村
教えてもらったことでいうと、「ツァイガルニク効果」はかなり意識しましたね。
「届きそうで届かない」「チラっと見せられたから行きたくなる」とか。これも先生がドラクエとかゼルダのゲームデザインの話をして、そこで「確かに!」って思ったので盛り込みました。
村上
王道のゲームでは当たり前になってるゲームデザインだけど、やっぱりプレイヤー自身に目標設定を意識させることはモチベーションにもつながるからね。
辻村
そうですね、観察と冒険と発見を繰り返すことによって成長を実感できるゲームデザインになってますね。その辺りをおさらいしながらもっと詳しく知りたかったから授業のLA(アシスタント)を担当させてもらったんですよ。一度受けた授業でもLAの立場で再確認できたことで完全に納得できたって感じですね。
村上
知識を詰め込む講義系の授業が多いから、実際の所話を聞いてる時って、理解はできてたとしても腹に落ちていないというか、耳から脳に届いただけで終わる人が多いんじゃないかなって思う。つまり心にまでは響いていない。でもいざ自分で作るぞとなったときに同じ授業を受けると初めてそこで「そういう事だったのかっ!」ってなって、そこでやっと心に響く。
辻村
そうなんですよ。他人ごとが自分ごとになるんですよね。この先生、実はええ授業してるやぁん、って思いました(笑)。
村上
授業では何かと任天堂的な発想を中心に進めてたから、「観察、試行、歓喜」のサイクルを意識することは皆自然にできるようになってきたんじゃないかな。
辻村
それは意識しましたね。あとは「作用・反作用の法則」も。新しくできることが増えてモチベーションが上がってきた時にまた新しい壁が見えてきて、さっきと同じ攻略法で進もうと思ったら進めなくて少し発想を変えなきゃいけなくなってたり。
村上
壁が高いと嫌になるし、低いと退屈するから、常にプレイヤーのフロー状態を保てるデザインを考えないといけないね。壁が高かったとしても、乗り越えたくなるような設計になっていればモチベーションは上がるしね。ペナルティのデザインも凄く大事。
辻村
現代人にとっての一番のペナルティって、時間を奪うことですよね。
村上
そう。プレイヤーキャラクターって、敵に攻撃されるとダメージを受けるけど、プレイヤーはコントローラーを持ってるだけだから実際にケガをするわけじゃないよね。なのに「いてっ!」って叫んでしまうのはなぜかというと、ゲームオーバーになったときに、ロード時間を含めてセーブポイントからの原状復帰に現実の時間を奪われるからなんだよね。
辻村
今回でいうと、例えば、一つ目の宝石を取得するために、二階の窓から出て庭にブロックを配置して、そのブロックに乗って移動しようって考えるんですけど、足場までの距離がギリギリ足りなくて進めないんです。で、ブロックを取り除くと下に落ちるからまた回り道して二階まで上ってきます。その時間はそんなに長くはないんですけど、実際には時間をロスしてしまうので、より効率良く進めるために試行錯誤するって感じです。
辻村
トライ&エラーで学ぶこともできるんですけど、実はちゃんと観察していればそういうペナルティを受けることもないようにデザインしてるんです。二階に上がるために予め坂道のブロックを配置しておけば回り道のリスクも最小限で済むんです。ということに気づけるかどうかがポイントですね。観察力が足りないと何度も何度も往復することになるっていう。
卒展のときには、常にプレイヤーの横に立って、困ってるようであれば助言をしようと待機してたんですけど。でも遊んでる様子を見て、回り道することも一つのゲーム性だということもあるので、そこについては放置して「何度でもやり直してください」って言ってましたね。
村上
そんな中でも子供たちは何度も失敗してやり直してるのに、違う形のブロックをはめて試すことそのものを楽しんでたから、回り道することをロスとも何とも感じてなかったね。
昔ファミコンの『Drマリオ』で遊んだときに効率の鬼になった。一切の無駄なく、同時に複数のカプセルを消せるように計画を立てていくのが物凄く楽しすぎて中毒になった(笑)。
辻村
あれは分かりやすいですね。ペナルティはほんの1秒とか2秒なのに、それでも無駄にしたくないからめちゃくちゃ試行錯誤しますもんね。
村上
何度か例で挙げてる『ドラゴンクエスト2』で、初めて複数の敵と戦う仕様が実装されて、その時もいかに少ないターン数で敵を倒せるかを考えて、攻撃する順番をミスって3ターンかかったときなんかはかなり悔しい思いをする。ターンが増えるということはつまり時間のロスが大きくなって、同時にこちらも受けるダメージが増えるってことだから悔しさも倍増するわけで。
『ハコニワ』は、そんな「ゲームデザインとはこうだ」っていう見本のような作品に仕上がっていて、今回のインタビューも単なるメイキングじゃなくて普通に授業内容の総まとめ的な感じになってるね。
まとめ
辻村
プログラミングも大変でしたね。でもプログラミングがどれだけ大変だったかは誰にも伝わらへんっていう(笑)。
村上
良く出来てて当たり前だから誰にも気付かれなくて、バグが出たときだけ「わ!バグったー!」って叩かれる(笑)。
辻村
プログラミングの奥出先生には感謝してもしきれないですね。
SONY製の「toio(トイオ)※1」ていう絶対位置センサーの公式サイトでもこの作品が紹介されました。しかもその中にUNITYJAPANの方がいらっしゃって、この方からも制作中は色々アドバイスをいただきました。toioとUNITYを連携するためのアプリケーションを提供してもらったりして、作業がうまくいかなくなったらすぐ質問してました。
そこからまた別のUNITYJAPANの方にこの作品の情報が回って、そこから今年の夏に開催するゲームと現代アートの展示会のお誘いを受けたりと、どんどん話が繋がっていきました。
村上
夢物語というか、頭の中では想像できても、これだけの機能を実際に組み込む実行力は本当に凄いと思うよ。CGでモデルとアニメーションを作ってUNITY上で動作させるだけでも重労働なのに、本物のジオラマを作ってそれがゲーム進行に合わせてモーターで動くなんて、少なくとも過去の学生作品でここまでやったものは見たことがない。
辻村
何でもやりたがる性格がモロに出てますね(笑)。後輩をお手伝いで集めようか?って先生から何回か提案されましたけど、なんか一人で全部やりたかったんですよね。
でも最終合評の段階でジオラマの仕上がりが満足いってなかったので、そこが今思い出しても悔しいですね。
村上
悔しいと思えるならまだまだこれからも大丈夫。悔しさをなくした時点でクリエーターをやめた方が良いんじゃないかなって思うし。
辻村
悔しさがなくなることを望んで毎回作品を作るんですけど、でもそうなったら精進することはないっていうジレンマもありますね。
村上
悔しさはなくならないと思うよ。大抵は「一体いつになったらマトモなものが作れるんだ」、って悔しい想いをしながら制作するものだから。
黒澤明監督のインタビューで「自信作はどれですか?」の問いに対して毎回「次回作!」って答えるような向上心が大事。それと同じで、辻子は一生苦労し続ける宿命にあるんだと思うよ。
辻村
あぁ~、ラクになりてぇ~(笑)。
終わり
※1 toio™は、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です。