写真・映像コース

続けることは、思考し続けること 美工教員展に寄せた、髙橋耕平さんの「声」【文芸表現 学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の授業に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。

 

文芸表現学科・3年生の出射優希です。美工教員展『逸脱する声』についての特集、今回は髙橋耕平さんの「声」をご紹介していきます。会場の生命力を受け取ると、いつもより息を深く吸えるような気がします。外にある緑も、飛んでいるツバメも、ひとつずつの生きているものに、嬉しくなるのです。

 

教員展についてはこちらから

https://www.kyoto-art.ac.jp/production/?p=147939

 

(なお、美工教員展にまつわる一連のレポートでは、一人ずつの教員のみなさんの「つくる人」としての姿をおもに捉えたいので、あえて「〇〇さん」と伝えさせてもらっています)

 


 

作品を解釈する環境への興味は、版画を学んだことから

 

今回ご紹介するのは、髙橋耕平さんの「声」です。

 

髙橋さんは、主にインスタレーション作品を制作。

取り扱ってきたモチーフについて、「今まで明るみになってこなかったような部分が世界を構成していると思うし、個人的なことと、公に開かれたものが起こすせめぎ合いや摩擦に関心がある」と語ります。

 

 

 

そしてインスタレーションを行う作家として、展示空間、鑑賞環境そのものも、髙橋さんにとっては重要なのだそうです。

 

 

  “やっぱりぼくは、作品を解釈する環境に興味があると思うんです。
なんでこうなったかっていうのは、これは版画でした。大学では版画を学んでいたんですが、版画はいろんなものが隣接する領域なんです。版画は、強い伝統を持った絵画なんかの複製物として、そしてそれを自立させようとしてきたひとつの芸術としても、何かと何かの要請物であるとか、何かと何かの子どもでしかない”

 

 

  “だから、そう考えると、作品だけを考えることができなくなってくるんです。この隣接するものによって見え方が変わるなとか、この価値が変わってしまうな、とか。
一個物体をつくって、これ見てよって提示するときに、見る環境、どこで見るの、いつの時代で見るの、どの横で見るの、とかで、作品そのものが全然違ってしまうんですよね。ずっとそういう部分を考えてしまう。だから、空間であるとか、キャプションとか、あらゆるものにだんだん目がいくようになったんだと思います”

 

 

版画を学んだ経験が、自分自身の現在の関心に繋がっていると気がついたのは、実は最近のことだったそうです。

 

 

表現を続ける以外の人生を考えられなかった

 

今回のインタビューをさせて頂いて感じるのは、ひとつずつの領域、それぞれの作家のルーツが、どこかで必ず重なっているということ。

そうした、考えの道筋や痕跡を追えることも、『逸脱する声』の特徴かもしれません。

 

 

 

髙橋さんは、作家活動をしながらも、あらゆる面できついと感じていた時期があったのだといいます。それでも表現を続けてきたのは、どうしてだったでしょうか。

 

  “あんまり他のことはできないんですよ。この言い方はカッコ良すぎるかな。でもやっぱり、おもしろくなかったんやろうね。この道(芸術)にきたんだし、自分が時間を費やすことが、社会的に成功したんだとしても、しなかったとしても、違う人生を考えることができなかったっていうのは結構大きかったと思います”

 

また、作家であり教員であることを、こう語ります。

 

  “非常勤講師は色々してきたんですけど、専任になったのもたまたまで。でも、仮に先生になったとして、経済的には安定するかもしれない。アーティストにとってそれはある種羨ましいことではあるっていうふうにも思うんです。けど、安定することがアーティストとして成功していることかというと、それは別の話なんですよね”

 

 

芸術や表現を、精神的に、金銭的に「糧」にすること。

それは私たち学生にとっての悩みの種でもあります。

しかし、答えもない正解もない、自分の進む道を探すとき、私たちのずっと前を歩く「作家」の背中を見つめると、自然と視界がひらけていくように思うのです。

 

 

もし制作時間が作れなくても、自分が脱落したと思わない

 

芸術を続けていくこともそうですが、そもそも何かを続けるというのは、誰にとっても難しいことですよね。

 

  “学生にいつも伝えるのは、もし時間が作れなかったときも、自分が脱落したと思うのはやめて欲しいってことです。平気で戻ってきたらいい。会社員をしていたのなら、それも制作にフィードバックできる経験ですからね。続けるっていうのは思考し続けることが大事で、手が動けばなおよしです。
作家として、学生とやりとりしながら、続けていくための道筋を見つけていけないかと思いますけど、独立独歩でやっていかないと道は切り開けないなと思ってます。”

 

立ち止まることも制作に繋げていけると思うような、勇気の出る言葉ですね。

 

会場でお手にとって頂けるインタビューには、髙橋さんが制作を続けていくための転機になった作品についても触れられています。

ぜひ、そちらもあわせてお読みください。

 

 

展覧会は、一般の方もご予約なしでご覧いただけることになりました。

学外の方や高校生の皆さんも、この機会にぜひ、足を運んでみてくださいね。

 

 

▼ 髙橋 耕平先生(美術家)

https://www.kyoto-art.ac.jp/info/teacher/detail.php?memberId=00504

 

▼瓜生通信記事

現役アーティスト22名が集結。「逸脱する声 ― 京都芸術大学 美術工芸学科 専任教員展」

https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/1002

 

逸脱する声―京都芸術大学 美術工芸学科 専任教員展

会期 第1期 2022年6月9日(木)〜16日(木)、第2期 2022年6月22日(水)〜28日(火)
時間 10:00-18:00 会期中無休
場所 京都芸術大学 ギャルリ・オーブ
出展者 〈第1期〉池田光弘、神谷徹、川上幸子、河野愛、柴田純生、清水博文、髙橋耕平、仁尾敬二、東島毅、山田伸、〈第2期〉出口雄樹、岩泉慧、金澤一水、菅原健彦、多和田有希、椿昇、福本双紅、ミヤケマイ、森本玄、矢津吉隆(副産物産店)、ヤノベケンジ、山元桂子
入場料 入場無料(予約不要になりました)
主催 京都芸術大学 美術工芸学科
企画 竹内万里子(美術工芸学科 学科長)
協力 京都芸術大学 文芸表現学科木村俊介ゼミ、情報デザイン学科見増勇介特別ゼミ

 

展覧会詳細

https://www.kyoto-art.ac.jp/events/2297

関連イベント

美術工芸学科インスタグラム(https://www.instagram.com/kua_biko/)にて随時お知らせいたします。

 

※6月1日付の新型コロナウイルス感染防止対策の一部緩和により、本展覧会はご予約なしで展覧会をご覧いただけることになりました(これまで一般の方は要予約とご案内しておりましたが、政府方針の改定を受けて変更になりました)。引き続き学内でのマスク着用や入口での検温などの対策にご協力をお願いいたします。

 

 

取材記事の執筆者

文芸表現学科3年生

出射優希(いでい・ゆうき)

兵庫県立西宮北高校出身

 

大学2年生のときから書きはじめた、この「KUA BLOG」での美術工芸学科に関する取材記事のシリーズが、学内外で人気を博してきた。
個人で記すノンフィクション作品も含めて、地に足をつけ、ゆっくり呼吸しながら取材対象を受けとめ、言葉を深く彫り込んでいくプロセスの切実さに定評がある。
「逸脱する声 京都芸術大学美術工芸学科教員展」(2022年6月に開催)では、文芸表現学科の学生たちが23人の専任教員にインタビューした声の数々も作品として発表されたが、そのうち最多の8人へのインタビューとそのまとめを担当した。

 

 

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