キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズVol.51 水野優とゲームジャム優勝作品『バタフライ・ループ・ナイト』について語るの巻 Part2

 

 

※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

 

水野優とゲームジャム優勝作品『バタフライ・ループ・ナイト』について語るの巻 Part1の続き

 

水野優さん(左)

 

村上

じゃ今度は制作の裏話とか苦労話を聞いていこうかな。

水野はデジタルゲームを作るのが初めて…だよね?しかも他の教育機関との共同作業。

 

水野

教育機関によってゲームに対する考え方も制作プロセスも違うから、色んな考え方を知ることができたっていうのが一番良かった点ですね。

 

村上

例えば?

 

水野

今回のゲームの中には色んなギミックがあって、そもそも主人公はなぜその部屋にいるのか、とか、そのキャラデザで本当に良いの?とか、色々言っちゃったんですけど、

メインでビルドするのはプログラマーなので、技術面はそちらに合わせて、ゲームの流れとか見た目とか、面白くすることを私が指摘する形で役割が出来ていきましたね。

 

村上

お互いの得意不得意を補い合う形で話ができたから、価値観の押し付け合いみたいになることもなくスムーズにいったのかもね。

 

水野

元々、全員がそれぞれの役割とか得意分野を分かってたんですね。デザイナー寄りのプランナーとか、プランナー寄りのプログラマーとか。精華大学の学生はデザイナーに徹して頑張ってくれたので、イメージを伝えたら完璧にこなしてくれました。

 

村上

プランナーとプランナーはよくぶつかり合うよね(笑)うちはディレクター寄りのプランナーで、専門学校生はプログラマー寄りのプランナーが多い印象だったね。

専門学校の方が場数をこなしてる分、ゲーム作りの経験値は圧倒的。うちの大学はコンセプトとかスケジューリングとかワークフローを考えるのは慣れてるけど、数をこなしてないから机上の空論っぽく思われがち(苦笑)

 

水野

チーム全体が各々の特性・考え方を理解してたのはもちろんなんですけど、私がいわゆる「絵の描けるプランナー」の立ち位置にいることができたので、デザイナー陣のタスク量を調節できたこともスムーズに進んだ理由の一つかと思います。

恐らく他校のプランナー・プログラマーさんは、絵にかかる時間や労力が理解・把握し切れてないと思いますし、うちの班も最初の方はそうでした。

ゲームエンジンで作れそうなところは指摘するとか、無駄なマップ差分を減らすとか、そんな感じで適切なタスク量に変えることで、両者の摩擦が生まれなかったのかと思います。

あと、完了タスクと未完了タスクを適宜Discordに流してたことも円滑に進めることができた要因かもしれません。

大学で日々学んでいる「どの役職の人が見てもわかるようにする」というある種のデザインが役立ったと思います。

 

村上

なるほどね。グループワークでリーダーシップを磨いてきたことが良い形で表れたね。

 

水野

制作自体はそれで良かったんですけど、ビットサミットの会場で展示するときに、展示用のパネルとか誰も用意してないことに気付いて、一日目が終わってから慌てて作ったんです。ちなみに一日目は段ボールに書いたマニュアルがそのまま展示されました(笑)

 

村上

段ボール…やっぱり、人様に遊んでいただくものだから、「魅せる」ってことは徹底しないとね。

ゲームの中身の話でいうと、正直な所このゲームって、何が面白さの中心軸に来るのかが分かりにくかったから、初回のプレゼンの時はそれほど高く評価してなかったんだよね。

 

水野

確かに、一言で言うと〇〇タイプです、みたいな簡潔な説明が出来てなかったですね。

 

村上

何というか、やりたいことは分かるんだけど、頭の中で考えてる通りにはできないだろうなって。恐らく企画が破綻するなって思ってた(笑)

「ゲームの駆け引き」を考える上で、それが作業化して「駆け引きをさせられてる」っていう感じがした。それが最初の個人的な印象。

 

水野

あ、そうだったんですね…

 

ペラコンの画像

 

村上

でも二回目のプレゼンの時はかなりブラッシュアップされて、「お!面白くなった。…かなー」みたいな。根本の「作業感」は変わってなくて、アクションの制度が少し上がっただけって感じ。

 

水野

なんと、そんな評価だったんだ(笑)

 

村上

死にゲー、覚えゲーってたくさん世に出てるけど、それはプロが作るから耐えられるわけで、学生が作る覚えゲーって、正直苦行にしか感じないんじゃないかって(笑)

でも企画書の段階では凄く面白く見えるし、書いた本人もテンションが上がってたのも想像がつく。でもゲーム作りはそんな甘いモンじゃないぞと(笑)

 

水野

あ、え、そう。そうです、その通りです。

 

村上

でもビットサミットの会場に展示されてるところを見て、絵のクォリティも上がって、演出もしっかりと盛り込まれてたし、「ついに化けたぞ!」って思ったね。

 

水野

やったー!

 

村上

一つ一つのギミックの動作が丁寧に作り込まれてて、「何をしてるのかが分かる」ようになってた。そんなの当たり前じゃん、って思うかも知れないんだけど、実はそれって凄いこと。言っちゃ悪いけど学生が作るゲームって、絵は綺麗だったとしても何をしてるのかが分からないものが多い。例えば、画面が切り替わるにしても、フェードも挟まずにパッと変わるとか、「間」の演出がないとか、動きが繋がっていないとか、視線の誘導が出来ていないとか。

その点このチームの作品は、一つ一つの動作がちゃんと繋がっていて、プレイヤーが操作に迷うことなくちゃんとゲームの中に入り込んで目標を達成させることができてる。

面白いとか面白くないの前に、何をしてるのかが分かることの方がゲームでは大事。

そんな最低限の問題をクリアできていた点がこのチームの最大の評価どころじゃないかな。

 

水野

ありがとうございます。実は、ゲームジャム本番の試遊会のときに、実際に自分でプレイしてみても正直分かりにくい所が多かったんです。

お世辞かも知れないけど他の人は面白いって言ってくれてて、私から見るとちょっと分かりにく過ぎて…。

例えば、鉄柱を地球儀にぶつけると地球儀がズレて落ちるんですけど、落下してもスイッチの上に落ちない…みたいなギミックがあって、どこの鉄柱がどう動いて地球儀が動いたのか、カメラワーク的にもそのプロセスが表現されなかったから分からなくて、そういう分かりにくい表現に対して「多分分かるだろう」って作り手の頭の中で完結してしまってるような項目を全部書き出して、一つ一つ修正指示を出していきました。

専門学校の学生が「ゲームを作る人」だったので、私はクリエーターよりも「プレイヤー目線」で指示を出した方が良いのかなと思って、なぜ分かりにくいのかが説明できたのが良かったのかなって思います。

 

村上

なるほど、そのポジションあってこそのクォリティだったのかもね。

ゲームにとっての「当たり前」が徹底できるって凄いことだよね。「当たり前」っていうのは、言うまでもなく「面白い」であって、面白くしようと思うと、まず「理解ができる」ってことになって。理不尽だと思った瞬間にプレイヤーはコントローラーを投げる。

 

開発用の仕様書

 

村上

で、実際に初めて作ったゲームがビットサミットという大きな会場で出品されることになって、どんな気持ちだった?

 

水野

私事になるんですけど、第一希望だった大学の模試がビットサミットと同じみやこメッセだったんですよ。高校3年間バチボコに言われてきたんでみやこメッセ嫌いなんですよ(笑)でも今回こんな楽しいお祭りに参加させていただけて、しかも優勝までできたのでプラマイゼロです。

で、ゲームが並んだ感想なんですけど、ここって普通に企業の商品もたくさん並んでるじゃないですか。だから自分もゲームクリエーターの一員として何となく認められた感があって、「ゲーム、作ればええやん」って思えるようになりました。

2年生になってゼミも始まって、ずっと忙しくて何も出来てなくて、でもビットサミットに参加してから「とにかく作ればいいんだ」っていう前向きな気持ちになりました。

 

村上

「ゲームクリエーターになりたいです」っていう人が結構いるんだけど、それを聞くたびに少しイラっとすることがあって(笑)

 

水野

なんでですか(笑)

 

村上

四の五の言う前に作りゃいいじゃん。作って、ネットで配信するとか、誰かに遊んでもらうとか、世に出した瞬間にその人はゲームクリエーターになるわけで。映画監督になりたいです、て人も多いけど、今やスマホでも映画が撮れる時代なんだし、撮って編集してYouTubeで流すだけでもう立派な映画監督でしょ。それで仕事として成立するかは別として、クリエーターになるという夢はその時点で達成できてるよね。だから、「なりたいです」って言われたら「じゃ、やれば?」としか言いようがない。

 

水野

それは今回物凄く実感できました。

 

村上

今回ゲームジャムに参加した学生全員がそれに気づいてくれてたら嬉しいな。

プロもアマも関係なく、皆が面白いものを作って場を盛り上げるっていうのがビットサミットの楽しいところだよね。

何年か前に、『ファイナルファンタジー』の坂口博信さんとか『悪魔城ドラキュラ』の五十嵐さんみたいな業界の大御所が自分のブースで物販したりお客さんと写真撮ったり(笑)。もうそうなると大御所だろうが素人だろうが関係なくて、このカオスな状況が面白い。

 

ビットサミット会場内の写真

 

村上

じゃ最後に、水野の将来の夢を聞いて締めくくりにしようかな。「ゲームクリエーターになりたい」はナシね(笑)

 

水野

自分にとって最高に面白いと思えるゲームを作ることですね。今はねぶた制作で死んでるんですけど、自分の考えは全部出力する方向で、企画書はどんどん書き溜めていってます。

 

村上

そうだね。学生の間にネタを大量にストックしておいて、いつでも出力できるように備えておかないとね。

 

水野

このあとboothで配信予定なのでみなさまお楽しみにー。

あと、東京ゲームショーでも出品予定です。詳細はまたお知らせしますー。

 

村上

というわけで、引き続き大変だけどぜひ頑張ってください。

 

水野

はい、ありがとうございました。

 

 

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