- 2024年8月28日
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ゼミ通ヒーローズVol.69 伊藤風薫と「LuupでGO」について語るの巻
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
村上
ゲームゼミでは「京都」をキーワードとしたゲーム作品を制作し、同じくゲーム研究を行う立命館大学映像学部と、京都市立芸術大学の学生と合同での発表会を行いました。そこで、ゲームゼミのリーダーを務める伊藤風薫さんのチームが手掛けたゲーム作品「LuupでGO」の内容とその制作に関する話を聞いていきたいと思います。
伊藤風薫(以下伊藤)
京都芸術大学2年生の伊藤風薫です。ゲームゼミのゼミリーダーをやっております。宜しくお願いします。
村上
では早速、今回制作したゲームの紹介からいってみようか。
キーワードとなっている「京都」からこのゲームを企画したわけだけど、そもそものモチーフは何?
伊藤
まず「京都」と聞いて、周囲を見渡した時にLuup(シェア型の電動キックボード)に乗っている人が多いことに気が付いたので、Luupをモチーフにしたアナログゲームにしようと決まりました。
ゲームとしては、京都の街を模した迷路を傾けてボールを転がすという昔ながらのシンプルなアナログゲームです。従来のものと違うところは、一人で遊ぶのではなくて、4人で一つのボードを傾け合って自分のコマをゴールまで運ぶルールになっているところです。
村上
4人で動かすと何が面白い?
伊藤
一人で遊ぶ場合、自分の行きたい方向に盤面を傾けるとボールが転がっていくので、うまく転がしながら目的地を目指すことができますけど、これを4人で遊ぶとなると、一人が順調に転がるときは別の人にとっては行きたくない方向に転がってしまうというような状況が発生します。ということは結果的に力業で無理やり自分の生きたい方向に傾ける必要があるので、かなり乱暴なバトルが繰り広げられるというわけです。
村上
試遊の段階では、壊れるんじゃないかって思うくらい皆力を入れて大声を出しながら遊んでたね。
伊藤
はい、そこが狙いになってます。
で、このゲームは2ラウンド制になっています。1ラウンド目は、先にゴールした人が勝利。2ラウンド目は皆で協力して全員のコマをゴールへ運んだら終了、というルールです。
村上
2ラウンド制にした理由は?
伊藤
まず、1ラウンド目の勝利条件は、誰よりも早くゴールに到達することで、より必死というか、力づくで勝利を掴み取る遊び方になります。「うまく転がんねーよ、くそっ!」っていう気持ちになってもらいます。要するにとにかく自分中心に考えるゲーム展開ですね。
村上
結構大声も出るし白熱するゲーム展開にはなってたね。じゃあこの2ラウンド目は?
伊藤
2ラウンド目は、全員のコマをいかに早くゴールに到達させるかっていうルールになっていて、1ラウンド目みたいに自己中心的な遊び方だとタイムが縮まらないから、どうすれば全員で早く持っていけるのかっていう風に自然と考えさせるみたいな感じになってますね。
村上
そこは奪い合うんじゃなくて、互いにコミュニケーションを取りながら効率よく全員のボールをゴールへ運ぶために工夫しましょうっていうことね。
伊藤
はい、一つのゲームの中でルールの違いを適用させることで起こる変化を楽しんでもらいたくて2ラウンド制にしました。
村上
作者として想定してた変化っていうのはどんなもの?
伊藤
めっちゃ平たく言うと、やっぱり奪い合うより協調した方がいい感じの結果になるんだ、ということに気が付いてもらいたくて。「いい感じ」っていうのは具体的には時間のことです。
1ラウンド目は平均1分から1分半ぐらいでゴールされた方が多かったんですけど、2ラウンド目は40秒から1分ぐらいでゴールされる方が多かったんです。
1ラウンド目っていうのは、全員ゴールさせるわけじゃなくて、どれか一つがゴールした時点で終わりです。一個ゴールすればいいだけなのに1分以上かかっていて、これに対して2ラウンド目は4つのボールをゴールまで導かなきゃいけないにもかかわらず、コミュニケーションを取るっていう行為が入ったことによって、たった40秒でクリアできるようになりました。
伊藤
チームの中にLuupを使っている子がいて、班の中でそれを「めっちゃ良い!」て言ってる子と、乗ったことないけどあんまり良い印象を抱いてないっていう二派があったんですね。
で、ループによく乗る派の意見としては、この乗り物がもっと京都の中で広まったら観光の活性化とか、シンプルに街自体の移動の利便性が上がるなっていう話になって。
逆に、乗ったことがない人の意見としては、「なんか危なくない?乗ったことないけど」とか「ダサくない?乗ったことないけど」みたいな意見があって、よく知らんのにマイナスなイメージを持ってるっていう問題点があることに気がつきました。
村上
なんか関西人特有の「知らんけど」を掘り下げたらこうなったみたいな?
伊藤
あ、そうです。そうです。「知らんけど」じゃなくて「知れよ」って思ったんです。もう一つ、「知ってるけど乗ってない」人も多いっていう点にも気がついたので、一番最初はLuupをもっと知ってもらおうみたいな感じの企画になってました。
最初のモックアップとしては、Luupに乗る体験を再現するようなものにできないかと思って試行錯誤しました。おはじきみたいにコマを指で弾いて滑らせるみたいなものとか。
村上
物理的に真似はしてみたけども本質が追いついてないというか、結局「だから何?」みたいな話になって、もっと問題の本質部分を体験として深めるように何回もダメ出ししたね。
伊藤
そうですね。Luupのことよくわからんみたいな人たちにアンケートを取ってみたら「なんか事故りそうで怖い」っていう意見が結構多くて。でも結局事故が起きるのって、実際乗った人が周りをちゃんと見ずに自分勝手に運転をするからであって、結局大事なのは、ちゃんと周りを見ること、という点を企画の軸に置きました。
村上
そこからは結構良いテンポで制作が進んでいったね。
伊藤
そうですね。企画ができてからは遊びながら形を考えていったので、実際に遊ぶ人の目線になってゲームのルールとかバランスを調整していけるようになって、そこからはチームの皆からも意見がたくさん出るようになってきました。
Luupならではのバッテリーの概念だったり、距離と課金の関係性だったりを戦略的に盛り込んでいけたらもっと面白くなったかなとも思ったんですが、企画を詰めるにうちにだんだん堅苦しくなってきたので、もっと直感的に楽しめるようなものの方がいいんじゃないかっていうことで、結構締め切りギリギリまでコンセプトが二転三転四転五転して今の企画に落ち着きました。
村上
最近のゲームゼミの制作するゲームの特徴として、キャラクターやストーリーに頼ったものじゃなくて、こういう仕組みとコンセプトの面白さを推すものがどんどん増えてきてるよね。
まぁ学科名が「キャラクターデザイン」だから、そこでゲームを作るとなると、やっぱりみんなキャラクターが活躍するゲームを作りたがるんだろうなと思ったけど、今回は全チーム一切そういう要素はなくて、面白い体験をデザインするところと、作品のテーマ、コンセプトを掘り下げていくところにすごく時間をかけたので、面白い作品がたくさん出来たなって個人的には思ってる。
伊藤
1年生のときから散々「ゲームのキャラクターは記号や」って言われて育ってきたので、ここで大事にするべきはキャラクタービジュアルじゃなくて体験デザインとしての仕組みだっていう共通認識はゼミ生全員が持ってると思います。
村上
キャラクターデザインとして考えるべきことは、「今あなたは何を動かしてるんですか?」っていう点ね。
例えば「LuupでGO」の主人公は誰ですか?と聞くと大抵の人は「コマです」って答えるんだろうけど、じゃあ果たして本当にコマを動かしてるのかと問われると、そうじゃないよね。
プレイヤーは直接コマに触れてるわけじゃなくて、動かしているのは地面だから。ってことは主人公は地面ですか?ってなってくる。でも別に地面になりきって遊んでいるわけでもない。
伊藤
そうですね。
村上
その場合プレイヤーは何になりきってるんだろうか?どこに感情移入してるんだろうか?これを考えるのがキャラデとしてのゲームキャラクターのデザインというわけよ。
インタビューのつもりが授業みたいになっちゃった(笑)
伊藤
キャラクターデザイン学科と聞いて、ゲームキャラクターの作り方を教えてくれるんかなみたいな感じで入学したので、実際に授業を受けてみて、なんかいい意味で裏切られたなっていうのはありますね。
村上
今回は、artbit展(現代アートのゲーム性とゲームのアート性に着目した展示イベント)が開催されている会場を使ってゲームの試遊会を行ったわけだけど、実際にartbit展の作品も見てみて、ゲームの可能性が広がった?
伊藤
ゲームって、自分が思ってたよりもっといけるっていうか、ちゃんと人の心の中に疑問を投げかけることができる媒体なんやなって思いましたね。
artbit展で展示されてた作品の中で、すごい抽象的な世界に行くのがあったんですよ。最初、なにこれ?ゲームや!ちょっと触ってみよう!みたいな感じの軽い気持ちでプレイしたら、最後に輪廻転生について語りかけるみたいな演出があったんですね。
普通のゲームだったら敵キャラがいて、それを攻撃して勝敗を判定するようなものが多いじゃないですか。でもここで展示されるものは全くそういう発想ではないものばかりで、しかもプレイを通して最終的に作者の問いかけを感じて衝撃を受けたというか。ただコントローラーを触って画面を見てるだけなのに、終わった後に自分の中で「何これ」っていう疑問が生まれるのがすごいなと思いました。
村上
まさにそれが現代アートね。問いかけるものであるっていう。鑑賞するだけじゃなくて、実際に何らかのデバイスに触れて体験するからこそ余計にその突き刺さり方が深いよね。それで自分が主役として中に入って体験するわけだから、そういう点でゲームと現代アートの親和性は高いんだと思う。
伊藤
「LuupでGO」の場合、現代アートとしての問いかけの部分もあるんですけど、どっちかというとシリアスゲーム的な意味合いも盛り込んだアクションゲームになってますね。2ラウンド目が終わって状況を俯瞰で見たときに、自分の行いを振り返って反省するというか、社会ってそういうもんなんだっていうのを理解して終わるみたいなところがあるので、勝ったかどうか、ゴールしたかどうかは問題ではなくて、引っかかりを与えるという点が出来たんじゃないかと思います。
村上
3年になったら自由創作になるから思う存分王道のゲームも作れるけど、まずは色んな遊びの可能性を研究しておきたいので、こういう経験も今後に生きてくるんじゃないかな。
じゃあちょっと後期からまた忙しくなりますが、まずはしばしの夏休みを堪能してください。