キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズVol.70 賈佳恵と「煩梵BON」について語るの巻

 

※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

村上

前回の伊藤風薫さんと同じく、京都芸術大学キャラクターデザイン学科と立命館大学映像学部、京都市立芸術大学の合同試遊会に出品した作品を紹介したいと思います。

ゲームゼミとしてはこのイベントに3作品を出品していて、今回はその中の一つを企画制作した賈 佳恵(か よしえ)さんの話を聞きたいと思います。

 

賈佳恵(以下賈)

ゲームゼミ2年生の賈です。今回制作した作品「煩梵BON(ぼんぼんぼん)」ではリーダーとプランナー、エフェクトデザイナーを担当しました。3Dモデリングやプログラミングも勉強中です。

 

 

村上

今回制作したのはどんな作品?

 

一言で言うと、木魚とDJのターンテーブルみたいなディスクを動かしながら煩悩を払うアクションゲーム✕診断ゲームです。

ゲームというより8割方現代アートですが…。パッと見た感じとしてはリズムゲームのようにも見えるんですけど、画面内に次々に現れる煩悩の象徴を、木魚を叩いたりディスクを回すことで消していくというイメージです。

京都の近代化と伝統の融合の是非を問うことをテーマとして、それをプレイヤーに体感していただく作品になっています。斬新なコントローラーと目を引くビジュアルで構成されていて、でも実際に遊んでみたら深いテーマを感じることができる、そんな作品です。

 

ゼミの課題として提示されたのが「京都」で、それに対して「シリアスゲーム」か「現代アート」のどちらかの要素を使ってゲームを作るということでした。

京都と聞いてまず「現代と伝統の融合」を考えていて、その中で「テクノ法要」を思い出したんです。テクノ法要っていうのは、お坊さんがお寺でDJをやりながら説法するもので、派手なプロジェクションマッピングを使ったりと今風の演出で盛り上げるものです。

この融合を見た時に、制作チーム内でも、「伝統文化の新しい進歩」だったり「仏教に対する冒涜」とか、「古きものを失っていく後退」だみたいな感じで賛否両論あって、この議論自体が既に現代アートなんじゃないかって思ったんです。

踊念仏ってあるじゃないですか。今となっては伝統文化の一種になってますけど、昔はこれも「なんやこれ!?」みたいな、多分現代でいうテクノ法要と似た扱いだったと思うんですよ。だからテクノ法要も今後は浸透してきて文化になっていくんじゃないかっていう。テセウスの船みたいに文化として新しいものが流れ込むにつれてどんどん文化も考え方も作り変えられていく。それが後世に残る新しい文化となるから結構賛否両論だったんですよ。

 

村上

良いとか悪いと言うよりも、もうそれが当たり前のことなんだけども、賛否両論あることに対してはどう感じたの?

 

私は賛成派でも反対派でもなかったんですよ。こういうものだとしか見てなかったので。

 

村上

どんな世界でも何かが新しくなると必ず反発の声は上がるものだけど、例えば学校の教育も、図書館で調べるところからネット検索が当たり前になって、今ではAIを使うのが当たり前になってる。でもそれは悪いことじゃなくて単に社会に適応しているだけだし。

 

でもその進歩に比例して知能が後退していくというか、便利になればなるほど人間として落ちていくみたいな、そんなジレンマは常にありますね。多分そのどっちの方面から見るかによるんでしょうけど。

 

村上

その見方と問いかけが現代アートだよね。

 

私はもう完全に中立だったので、だからこそ一歩引いてプレイヤーに対して問いかけたかったんです。

 

村上

「新しい」のメタファーとしてディスクを回す行為があって、「古い」のメタファーとして木魚を叩くっていうことね。

 

結局は煩悩を払うという遊び方には違いはないので、操作はどちらを選んでもいいんですよ。全部木魚だけを叩いてもいいし、ディスクを回すだけでも。最後に木魚を叩いた数とディスクを回した割合が表示されて、結果としてプレイヤーがどんな人間だったのかを判定します。あなたは現代寄りだとか伝統寄りだとか。それを見てプレイヤーの心が現れると思ってます。

どちらが良いという話ではなくて、どっちを操作しても良いので、ただ心の向くままに煩悩を払ってくださいっていう説明だけをしていて、最後に割合や判定が出ることは何も伝えずにプレイしていただきました。

あと、プレイ中に木魚とディスクを操作した割合に応じて、リアルタイムでエフェクトやBGMが変化します。ディスクばかり操作していると現代風のカラフルなレーザーエフェクトが出現したり、BGMもDJのビートに変わってどんどん現代パリピ寄りになったりします。まさにテクノ法要を実際に行っている感じですね。逆に木魚ばかりを操作しているとBGMとエフェクトがどんどん伝統寄りになり、全部木魚だけで煩悩を消しているとBGMもエフェクトも消えます。仏教でいう【無の境地】のメタファーですね。

 

村上

コントローラーの目新しさとか派手な演出に引かれがちだけども、プレイヤーとしてはただ楽しくて気持ち良くてつい木魚を叩いてしまって、結果として提示されたものを見て何を感じさせたかったのかっていう。狙いはそこにあったということね?

 

そうです。このゲームを通して現代と伝統が融合しているこの現状を感じてほしくて、京都の文化の流動の是非について考えてもらいたくてそのような仕様にしました。

 

村上

技術的な面や表現の面で工夫したポイントとか苦労したポイントはある?

 

今回はアナログとデジタルの融合だったので、みんな初めての挑戦だったから最初は何もかもが手探りで…。実装できるのか実装できないのかも何も分からないから、色んな人に相談しながら進めていて、とにかく最初が大変でした。

 

村上

キャラデの場合は2年生になってからUnityの授業が始まるから、ツールの基本操作を学ぶのと同時並行で、しかもいきなり特殊なデバイスを作るところからスタートするという、かなり過酷な挑戦になったね。

 

そうですね。今回作ったデバイスは木魚とディスクの2種類でした。まず木魚にはM5Stackっていう加速度センサーを取り付けて、叩いた時の衝撃度合いを検知してそれを小中大の三段階で判定するようにしました。

ディスクの方は裏面にNintendo SwitchのJoy-Conを付けました。ディスクを回すことによって回転センサーが反応する仕様です。

 

村上

木魚のM5StackとディスクのJoy-Conの信号をそれぞれUnityに読み込んで、それをゲーム画面に反映させたということね。

 

なんか木魚とディスクを無心に動かしてるのが楽しいといった反応が多かったですね。木魚を叩いてる時は無心だけど、でもゲームで遊んでること自体が煩悩だったり、最終的には払い切れないくらいの煩悩にまみれるような難易度設定にしてるので、結局煩悩から逃れることは出来ないんです。

ゲームというよりは現代アートとして作っているので、そもそもそこには答えがないし、勝ち負けが重要なわけでもなくて、プレイ体験から何かを考えていただくということをやりたかったんです。

 

村上

初見プレイヤーは、出てくる煩悩を全て消すことができればゲームクリアだと思ってたみたいだね。

 

そうですね、それはちょっと違うんだよと思いつつ。「どうしたら勝ちなの?」「次どうしたら勝てるの?」とか聞かれて、いや、そういうゲームじゃないんですよと。

 

村上

「ゲームって普通こういうものだ」っていう固定観念によるものだろうね。リズムを刻む木魚があって、DJのターンテーブルがあって、画面には怖い顔をした敵のようなキャラクターが登場する。そりゃプレイヤーはリズムゲームだと勘違いするわけで、敵っぽい見た目のキャラが出てきたら攻略対象かノーツだと感じて、当然プレイヤーはコンプリートを目指して頑張ろうとする。

なので、遊んだ後でゲームの主旨を理解して驚いてくれればそれでオッケー。

 

そうです、そういうことです。

 

村上

どっちかというと、ゲームゼミって、今どんどんそういう方向に向かってるからね。キャラクターデザイン学科なんて名前がついてるのにキャラクターやストーリーに頼るゲームは許さん!みたいな傾向があるでしょう。

キャラデのゲームって、どうせゲームキャラクターの描き方を教えてるんだろう?って思われてるから、せめてうちの大学内の人にこの記事をちゃんと読んで理解していただきたいところなんだけど(笑)

 

うーん、確かに。

 

村上

まずは遊びの体験としての新しさを生み出していって、世の中にどういう問題を提起できるのかっていうことをちゃんと考えて、その下地があった上でキャラクターとかストーリーが実装できたらOK。文字を読むだけならゲームである必要もないわけで。

今回の作品では、それをストーリーで説明するんじゃなくて、ゲーム体験として味わうナラティブの演出が素晴らしいね。ゲームとしての価値って、言葉で語らずにインタラクティブ性を通して、それをプレイヤーが実際に汗を流すことによって体感するところだからね。

 

ブロックキューブだけで構成しても面白いと思ってもらえるようなもの作らないといけないですよね。

今回の作品は見た目のインパクトが大きいからどうしてもそこに惑わされるというところはあったんですけど、「遊んでみたい」と思わせることができたし、実際に遊んで深いテーマを感じていただけたので、新しい価値を提供できたんじゃないかなと思ってます。

 

<1234>