- 2024年9月7日
- イベント
ゼミ通ヒーローズVol.71 田之上花音と「操獣士」について語るの巻
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
村上
ゲームゼミ2年生の前期制作物3連発として紹介していますが、今回はその最後の作品ということで、田之上花音さんのグループで制作されたゲーム作品「操獣士」を紹介したいと思います。
ではまず簡単に自己紹介と作品の紹介からいってみようかな。
田之上花音(以下田之上)
京都芸術大学キャラクターデザインコース2年生、ゲームゼミ所属の田之上花音です。よろしくお願いします。
田之上
私たちが制作したのは『操獣士(そうじゅうし)』というタイトルで、ざっくり言うとテトリスに見た目の似た対戦型アナログゲームです。コンピューター上ではなく実際にブロックを落下させて自分の役(特定の形)をつくるというものです。
田之上
ブロックは、四神獣のイメージカラーとなる赤(朱雀)、青(青龍)、黄(玄武)、白(白虎)の4色があって、4人のプレイヤーそれぞれが使役する神獣の色のブロックを落下させてポイントを競い合っていきます。
村上
「京都」をモチーフに企画を立てるということだったんだけど、それについてはどう捉えた?
田之上
私たちは京都にある花折断層という活断層をメタファーとして捉え、制作しました。 最初に、京都の特徴的な地形である盆地ってどうやって出来たんだろう?という疑問が生まれ、色々調べていきました。そうしたら大昔に花折断層が動いたことで地面が隆起して吉田山などが生まれ、今の地形になったことが分かったんです。じゃあ、そんな目に見えない地面の中に着目したらどうかなと。
そうしてモチーフを決めて、デザインを固めていくうちに京都の「碁盤の目」が思い浮かびました。断層と組み合わせて碁盤の目のようなデザインにしたら、「真上から見た碁盤の目」ではなく「真横から見た碁盤の目」という新しい視点が生まれ、面白いのではないかと思ったんです。真上から見た碁盤の目…例えば双六や陣取りゲームなどはすぐに思い浮かぶんですけど、真横からの視点を捉えたゲームは見たことないなと。
村上
その発想はいいね。盤面も縦置きだから地層のようにも見えるし。京都の地中で何が起きてるのかをイメージしながら遊ぶのはすごく面白いと思う。
田之上
で、こんな地形を作るほど大きな力を持つ存在が京都にはあるのに、南海トラフとかの話しかしないのもどうかと思うし、京都は災害とは無縁の地と言われてるけど、もし今花折断層たちが動いたら大変なことになるよ気をつけて、という断層への危機感を促すようなゲームになりました。
村上
花折断層といえばちょうどうちの大学の真下を走ってるから危機意識は持っておいた方が良いよね。地震が来るのが明日なのか100年後なのか分からないけど。
村上
ゲームとして面白くしていくためにどんな工夫をした?
田之上
これはブロックを落として役となる形を作るのが基本的な遊び方になるんです。で、それを盛り上げるための仕様をいくつか盛り込みました。
役には二種類あって、一つは四神獣固有のもの。これは情報が開示されるのでどの形を狙っているかがバレやすく他のプレイヤーからも邪魔されやすいので、その分ポイントが高く設定されています。
もう一つはカードに描かれている隠された役です。これは自分しか見ることができず、誰が何を狙っているのかが分からないし役を作りやすいのでポイントは低めです。
リスクが低くてポイントも少ない役をたくさん作るか、リスクが高くてポイントも大きい役をドーンと作るか、そこはプレイヤーごとの戦術ですね。
村上
ちゃんとゲームとしての駆け引きがデザインされてたから、1ターンごとの緊張感も高くて常に面白いと感じられるゲームになってたね。
役が揃いかけたと思ったら誰かに邪魔されたり、ある時は他のプレイヤーが落としたブロックに弾かれて偶然役が完成してしまったり。
田之上
そうですね、アナログゲームならでは盛り上がりが実現できたなって思います。私がブロックを落とした瞬間に隣の白虎が「うわーっ!」って叫び声を上げたりすると、「なんか私今いい感じに邪魔できたんだな」ってなったり。
村上
結構盛り上がってたね。よく授業でも「プレイヤーにどんな声を出させたいかをちゃんとデザインしてね」って言ってるように、つい大声が出てしまうゲームって理想的だと思う。
田之上
多分、盛り上がりのポイントとして、静と動のバランスというか緊張と緩和のバランスが表現できてたからだと思います。
クレーンゲームの要領で、ブロックを置きたい場所を慎重に狙って、位置だけではなくて落ちた先でどっちにどのくらいバウンドするかも想定するわけですよ。落とす方は高得点を狙いたいし、他のプレイヤーは自分が邪魔されないかどうかを息を殺して見守るんです。
それで手離した瞬間に一気に状況が動くというか。バーンと弾かれたりして、うまくいったか失敗したかの判定があって。そして次の人のターンが来る…っていう緊張と緩和の連続がこのゲームの最大の魅力でもあります。
田之上
あと、イベントカードっていう仕様もあります。一人二回引けるカードで、そこには「箱を二秒間揺らす」とか結構大きな動きもあります。イベントカード入れたことによって、いい具合に緊張感を演出することができたかなと。
村上
イベントカードを追加しますって言われた時に、実はちょっと不安があってね…。
田之上
あー、不安そうにしてましたよね。
村上
例えば、すごろくゲームを作ったとしよう。ゲームに含まれる作用と反作用と、それを引っ掻き回すジョーカー的要素の組み合わせだけで面白くなればいいんだけど、よくやりがちなのは作用と反作用の仕組みが弱いまま「イベント頼り」になってしまうこと。とんでもなく理不尽な罰ゲームがあったら面白いよね、ってついネタの方に走る傾向があって。そうなると結局「運ゲー」になってしまうから。でもゲームのコンセプトを強いものにしたから結果的に盛り上がる形になってて良かった。
村上
早い段階でネタはできてたんだけど、途中から企画が難航してたよね。
田之上
そうなんですよね。断層をゲームにするっていうのが、他に見たことなくて、チームの皆もいまいちビジョンが見えてなくて…。
テトリスみたいにするにしても、上から落として自由落下に任せるか。下から積み上げていくかみたいな話で二転三転しましたね。
村上
企画がある程度まとまってきた段階で、今度はまた難しい問題にぶち当たったね。
そもそも誰目線で遊ぶの?って。地形を動かすわけだから人間が主人公ではないっていうのは最初からわかっていて、じゃあ地球が主人公なの?とか突っ込みだしたら皆黙り込むっていう(笑)
田之上
はじめは、「ストレス」をテーマにしてたんですよね。何年も地中で力が蓄積されるっていうのが人間のストレスにも似てるよねっていう。そして自由落下という遊びを「思い通りに行かないイライラ」に例えて、ストレスを重ねていくことでお互いいつ爆発するか分からないよ、っていう形でテーマを絞っていきました。
村上
でもやっぱりそれが神の目線だったとしても、大地震を起こすということは当然大勢の人が被害に遭うわけだから、災害を起こすメリットって何なんだろう?みたいなところに戻って、そこを埋めるために設定が必要だって話になったね。
田之上
そうですね。結果的にプレイヤーは神様ではなくなって、四神獣を使役する巫女のような設定になりました。大地震が起きないように四神獣の力を使って断層の負荷を回復していくというストーリー設定です。
村上
ぐちゃぐちゃになった断層を整理整頓していくプロセスとして、テトリス的なブロックを並べる遊びに置き換えたってことね。無理感は否めないけど面白くまとまってると思うよ。
試遊の反応はどうだった?
田之上
レジン液で作ったブロックが透明ケースに並べられていくのが綺麗で、ビジュアル的に人を引き寄せるような感じでしたね。
実際に遊んだ感じでは、最初のうちは何もない場所にコマを落とすだけなので、大きくバウンドしてしまって思ったところに行かなくて運要素が強いと感じてしまいます。でも積み上げていくごとに狙ったところに置けるようになってきて、狙えるからこそ邪魔し合う遊び方に発展していきます。徐々にうまくなっていくことを実感できるゲームデザインになってるから、プレイヤーの方からは結構評判が良かったですね。
村上
なるほど、最初は落下距離が長いからバウンドしてしまうけど、積み重なっていくことで落下距離が短くなるから思ったところに狙いやすくなるってことね。
そのバランスは狙いで作ったの?それとも偶然?
田之上
ぶっちゃけ偶然です(笑)
レジンのコマが完成したのが締め切りギリギリだったので、それまではスプレッドシート上で役の設定とか難易度調整をして脳内でテストプレイを繰り返してたんですけど、レジン製のコマがどのくらいバウンドするのかまでは想定できておらず…。
村上
実際こういうゲームってなかなか企画の通りにはいかなくて、人間同士の会話の盛り上がりも含めて、色んなことを想定しながらテストプレイを繰り返した結果、ある時急にゲームになる瞬間が訪れる。お!今面白かったぞ!みたいな感じで。ここで1のカードが出たらワクワクするか、2が出たら怖いと感じるか、そういうことまで想定してゲームが作れるようになるのは経験でしかないからね。
田之上
本当に痛感しました。でもゲームとしてできたのが本当に展示直前だったので、一般のお客さんを使ってデバッグしたみたいな感じでした(笑)
村上
今回モチーフとして「京都」という縛りがあって、それに加えて現代アートかシリアスゲームか、というお題もあり、また試遊会場がartbit展を開催しているホテルアンテルーム京都ということで、単なる娯楽ゲームではなく遊びとしての新しい形を模索してきたよね。
田之上
私たちは最初花折断層を理解するためのシリアスゲームとして考えてはいたんですけど、企画を進めるうえでどうしてもゲームとして面白くする方向にいってしまって、シリアスゲーム要素を強めたらゲームとしてつまらなくなっていくし、そのバランスを取るのに苦労しましたね。
村上
このゲームは娯楽に振り切っていながら、その根底にあるものが京都の内部構造で、ちょっと視点を変えて見たらこんなのが出ましたよっていう。シリアスゲーム的な概念が若干入っていながら、問いかけとしての現代アートの要素もあって、もうゲームのカテゴリーは無視して、新しい遊びを作ったってことで良いんじゃないかな。
アクションゲームやシミュレーションゲームといったジャンルにも当てはまらないし、味わたことのない体験を提供できたからそれでOK。
このテーマだからこそ生み出された全く新しいゲーム性とか。もっと言うと、それは果たしてゲームと呼べるのか?いやいやゲームって一体何?みたいな感じで。
そもそもゲームを学ぶ大学としてやるべきことは「遊びの再定義」だし、今までになかったものを生み出すのが我々の存在価値だと思うしね。
田之上
これからのゲームがどうなっていくのかさっぱり分からないですよね。「枯れた技術の水平思考」の考え方もそうですけど、時代やテクノロジーによって遊びや人間関係が変化していくわけだから、これからも人間が生まれてくる限りゲームはひたすら進化していくんでしょうね。
枯れた技術の水平思考がひたすら繰り返されて、煮詰められていって、また他の枯れた技術の水平思考と合体して全く新しいアイデアが生まれて、って感じで。
村上
勉強すること自体が実はゲームともいえるし、歌を唄うことも、人に気持ちを伝えることもゲームだし。もうどこからどこまでがゲームかわかんない。従来の娯楽ゲームに加えてゲーミフィケーションとかシリアスゲームなんてものもあって、ゲームの概念そのものが増えたり変わったりして、それでまた社会の流れも変わっていくんだろうね。
田之上
いやー、どうなっていくんでしょうね。面白い時代が来てほしいですね。
村上
「来てほしいですね」じゃなくて、それを作るのが大学生の使命なの。
田之上
む、確かに。なんか人任せにしてた(笑)
どんどん脳味噌が固くなってる気がするんで柔らかくしたいですね。