文芸表現学科

コラボレーター 仲西森奈より

 
 先月末に出版された『VEGESUSHI パリが恋した、野菜を使ったケーキのようなお寿司』という、レシピ本とビジュアルブックを兼ねたような書籍に、Collaborator(協力者)という肩書きで参加させていただきました。
 

『VEGESUSHI』hoxai kitchen著

『VEGESUSHI』hoxai kitchen著


 大学三回生の冬に百万遍の飲み屋で知り合ったウェブデザイナー兼DJ兼料理人兼占い師……(まだあるけど割愛。以下、Kei)の方に、「文章書いてくれない?」とかなりラフな雰囲気で仕事を持ちかけられたのは去年末のこと。
Vegan(ヴィーガン。絶対菜食主義者のこと)の食生活を取り入れているKei(髪がとても長くて背格好が女っぽいからいつも女に間違えられているけど、中身は案外イイ男)は、デザイナー、占い師の友人二人と「hoxai kitchen(ホクサイキッチン)」というトリオを組んで、ベジタリアンの人も食べられる、美味しい(ここ大事!)押し寿司「VEGESUSHI(ベジスシ)」を考案し、パリ、ベルリン、東京、京都など、世界各地でフードイベントを開催していました。そのイベント、そしてVEGESUSHIという料理自体に興味を持った日本の出版社や米穀メーカーの後押しで産まれたのが、この書籍です。()が多くてごめんなさい。
 
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 野菜と酢飯のみで彩られたアーティスティックな押し寿司の写真とそのレシピ、参加者全員がしあわせそうなフードイベントのアーカイブに挟まれるような形で割り振られた4つのコラムのうちの一つ、「パリでの暮らし by Kei」を、私は担当しました。
 
 いろいろな事情が重なって、ミシュラン一つ星のシェフの元で働いていたKeiの身辺雑記を、あたかもKei本人が書いて、話しているように書いて欲しい。というのが最初の依頼でした。Keiの各SNSアカウントの投稿を読み漁り、Kei本人から送られてくる「こんな感じの写真と一緒に文章が載るよ〜」というデータに目を通し、Keiがどういう人物で、どういうものに興味を持って、どんな口調で、何を語るのか、ということを連日考えながら文章を書いていました。役者の稽古や、小説家が登場人物を考える作業とほとんど同じですね。「気軽に、自由にやっていいよ」というKeiの言葉通り、Keiという人物を私の中で解体し、再構築して、掌編小説のような身辺雑記を書き上げました。そしてその原稿をKeiに手渡し、本人にしかわからない情報を入れて文章が組み直され、仕上がったものが、写真も含めて6ページに渡って載っています。だから、ライターではなく、コラボレーター。おそらく日本にコラボレーターという職業は存在しないでしょう。私も見本を見せてもらったとき、ネーミングのうさんくささに笑ってしまいました。
 
「パリでの暮らし by Kei」を担当

「パリでの暮らし by Kei」を担当


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 もう一つ。去年末から年始にかけて、コラボレーターの仕事と並行して「ブックカバーマンション」という企画に参加していました。
 
 大学時代の友人二人が組んだデザインユニット「ふたり」によるこの企画は、イラストレーターのITSUMOさんがマンションのイラストを、そして私が、そのマンションに住んでいる(かもしれない)人物を描いた掌編小説を書き、イラストが刷られた布地のブックカバーと掌編小説をセットで売る、というもの。〈208号室のヴィクトル〉〈612号室のホギ子〉の2種類をそれぞれ100部限定でネット販売し、無事に200部が完売しました。
 時期は未定ですが、京都の恵文社、東京は下北沢のB&B、という2箇所の書店で少部数ながら店頭販売も行うらしいです。もし見かけたら、ぜひ手にとってみてください。手にとったら買わずにはいられなくなるはずです。
ブックカバーマンション

ブックカバーマンション


掌編小説〈208号室のヴィクトル〉と〈612号室のホギ子〉

掌編小説〈208号室のヴィクトル〉と〈612号室のホギ子〉


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 今年の3月で、大学から卒業して1年が経ちました。大学時代のさまざまな貯金を切り崩してなんとか生きている日々です。あまり褒められた卒業生ではない私から、後輩や受験生に言えることがあるとすれば、それは「選択肢は無限にある」ということです。ありふれた言葉かもしれませんが、私は毎日のようにこの言葉を身体でひしひしと実感しています。選択肢を少なくしているのは、いつだって自分自身の怖れや、羞恥心や、自己憐憫のような感情です。世界は(あえて大きな言葉を使いますが)どのように見つめることも可能で、どんな場所にも開かれています。近所の美味しそうな飲み屋に一人で入ってみよう。このバス乗ったことないけど乗ってみよう。授業中に立ち上がって教授と口論してみよう。整形してみよう。ラザニアを作ってみよう。海釣り楽しそう。外国に移住するにはどうすればいいのかな。どんな事柄も、自分の中のブレーキを壊した瞬間から始まっていきます。そしてそのブレーキを壊す練習をするのが大学だと、私は思っています。就職活動をするか、しないか、しないとしたらどうするか、ということだって、自分次第、ブレーキの壊し方次第です。
 みんなのことを応援しています。わたしもがんばりますので。
 
 
 
VEGESUSHI HPhttp://vegesushi.eu/jp/
ブックカバーマンション受注サイト(受注自体は終了しています):
http://bookcovermansion.wixsite.com/bookcover-mansion
デザインユニット「ふたり」Twitterアカウント:@futari_925
 
 
文・仲西森奈(2015年度卒業)
 
 
 
 
 

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