本文へ移動

文芸コース 星幸恵

 母の遺品を整理するとたくさんの糸、ボタン、端切れなどが、いくつもの洋服屋の箱の中に残されていた。押し入れからはデパートの古い包装紙の裏側を使った型紙が残されていて、測ったサイズや名前が書きこまれていた。母も祖母も洋裁が得意で、私が子どもの頃は自分の服はもちろん、着せ替え人形の服まで手製だった。
 こうした裁縫にまつわる物たちに触れていると、時間の層からもれだした無名の女性たちの声が聞こえてくるようで、とてもざわざわするのを感じた。糸は、内包した縫い人の声や記憶を仕立てる服に移し替えていくような気がする。
 服を仕立てるのに身体のサイズを測ることに加えて、人の心の履歴も図ることができれば、仕上げる服に何か心象を纏わせることができるのではないか。その服は主が着ることで一緒に記憶を育てていく……どこかにある、記憶の糸で服を作る洋裁店を想定して物語を書きたかった。
 見える糸と見えない糸が絡まり合い、時空をこえて人の記憶が綴られていく様子を表現するのは難しかったが、他の生徒たちとの合評や先生からのご指導で小説という一つの形にできたことに感謝している。


東京都

履歴書洋裁店

星幸恵

文芸コース

このコースのその他作品