本文へ移動

(大学院)写真・映像領域 ノートン 晶

『呼吸』

デジタル・フィルム/サイアノタイププリント

精神性を示すサイアノタイプの青は、私たち本来の身体そのものに内包されている精神、神聖さの存在を、思い出させてくれる。

ダンスセラピーのように創作的に⾃分⾃⾝を表現するということは、個⼈の感情や⾝体の統合を促し、⾃⾝の神聖さを取り戻す⼿法の⼀つと考えられると言われる。そうであれば、撮影において、被写体となるモデルが自由に、創造的に動いて表現できる心理的安全性や、環境、信頼関係を築けたら、それを実現できるのではないだろうか。そういった思いのもと、モデルとの協働を続けてきた。本作品で協働したモデルとは最長で8年、最短で1年弱であり、基本的に長く互いの表現に関わり続けてきた。本作品の制作において、モデルがポーズを決めており、無意識と意識の間から生じる瞬間を切り取ろうとしたものである。

社会的な規範や、常識、文化や、国境に限定されるだけでない自己とはどのようなものか?「自己」の心身へ問いかけ、拡張を試み、自分の存在そのものに立ち戻ろうとする、「呼吸」の制作へと繋がった。多様な国籍を持つモデルたちは、それぞれのバックグラウンドを超えて、彼ら・彼女らの存在そのものから表現があふれでていた。

ありのままの身体感覚を捉えたものは、鑑賞者の身体感覚に働きかける機能を持つ。それは、「快」か「居心地の悪い」感覚か、見る人それぞれだ。だが、鑑賞者自らの無意識的な身体感覚に気づかせ、本当は、自分はどうありたいのか?と問いかけることこそが本作品が持つ役割の一つでもある。鑑賞者にとっても、自己のありのままの心身のつながりや状態に思いを馳せるきっかけになれば、幸いである。



「今、私たちは⾝体とどのように向き合うか?」
ポスト・フェミニズムと言われる時代に生きる現代の女性にとってはとても難しい質問だ。1985年の男⼥雇⽤機会均等法制定後、ネオ・リベラリズムの下、⼥⼦⼒を発揮しながらも「男並み」に働くことが求められる環境は、⼥性の⼼⾝にも多⼤なる影響を与えてきた。そういった社会背景下で、⾝体感覚が希薄化し、感情を認知しづらい⼼⾝乖離傾向が進んでいることが、臨床心理学の現場から指摘されている。私たちは今、文化や社会の規範に縛られない心身のあり方を、女性自身が自ら再定義をする必要があるのではないだろうか?

筆者自身の経験としても心身の乖離を経験した経緯から、抑圧された⼥性性、⾝体性の希薄化からの回復を作品制作における問題意識とし、人物デッサンの共同主宰や、モデルとの作品制作、発表を2017年から継続してきた。その分裂していたと感じていた心身、そして内面的な女性性や男性性の統合として制作したのが、本作品「呼吸」である。全体性を持った個人としての表現は、社会通念や文化や国籍などに限定されるものではなく、多様性を持ちながらも、静かで、力強いあり方そのものであった。


https://akiandcolenorton.art/photos

ノートン 晶

(大学院)写真・映像領域

このコースのその他作品