相国寺における掛幅様相の変遷
―機能と価値の多様化―
和の伝統文化コース 藤谷克己
「なぜ禅宗は日本文化にこれほど強く影響を与え続けているのか」という疑問が本研究の起点である。本論では、室町幕府と密接に関わり臨済宗寺院を統括した相国寺を対象に、同寺が受容した掛幅の変遷を考察した。掛幅は収納や携帯に優れ、画題の組み合わせで空間を自在に演出できる高い柔軟性を持つ。
研究にあたっては、相国寺関連の一次史料から掛幅に関する記載を抽出し、用途等を分析した。その結果、中世の掛幅は、室礼を彩る鑑賞物として機能するだけでなく、時の権力者である室町殿への献上品として高度な政治的価値を帯びていた実態が浮き彫りとなった。
しかし近世に入り、将軍の江戸在府や金地院への僧録権限移譲により相国寺を取り巻く環境は激変する。これに伴い、掛幅は仏具として機能しつつ仏事を荘厳する信仰の対象として宗教的価値を強め、さらには火災や飢饉による寺院経営の窮乏を救う換価機能をも発揮し、金融資産としての価値も獲得するに至った。
掛幅という形態自体は不変ながら、相国寺を取り巻く環境の変化に応じてその機能と価値は多様化した。掛幅は常に相国寺の存在意義を形作る不可欠な要素として、その存立基盤を支え続けてきたのである。
藤谷克己
和の伝統文化コース
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