宝暦年間における歌舞伎女形役者の東西往来について
和の伝統文化コース 伊藤和美
江戸中期・宝暦年間に焦点をあて、幕末まで刊行された歌舞伎役者の技芸評価の書『役者評判記』を用い、女形役者が三都(京、江戸、大坂)を往来していた姿を追いました。立役の芸は「上方の和事、江戸の荒事」と語られることがありますが、女形にも同様の地域差が認められたのか、また当時の役者が往来する意義を明らかにすることを目的としました。
『役者評判記』には、役者の評価や芸の描写、見物(観客)の評判が記されており、称賛だけでなく辛辣な批評も見られます。見物の熱狂ぶりが生き生きと伝わり、まるでその場に居合わせたような臨場感を味わえる魅力的な史料でした。
検討の結果、芸の混交や役者の演じ分けなど複合的な要因が考えられ、明確な地域差を見出すことは困難でした。一方で、地域文化の懸け橋となった役者の存在や、往来が新しい趣向を取り入れる契機となっていた点を示すことができました。女形の東西往来は単なる移動ではなく、各地で得た経験を通じて芸の幅を広げ、自らの女形像を再構築する重要な契機であったと捉えています。
こうした検討を通じ、この時代の女形役者と見物双方の思いが交錯する舞台文化の豊かさを改めて実感する研究となりました。
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