- 2021年2月17日
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ゼミ通ヒーローズvol.30 「田邉正太とレベルデザインについて語る」の巻 Part2
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
今回のゼミ通ヒーローズは、ゲームゼミ十二期生で現4年生の田邊正太さんと、卒業制作作品「このボス強くしすぎた」」ともとにゲームのレベルデザインについて語っていきます。
田邉正太さん(今の写真は恥ずかしいので飼い犬の写真を使ってほしいとのこと)
村上
卒業制作作品「このボス強くしすぎた」の概要紹介に続いて、企画の中身の話を入ろうかな。
そもそもこのゲームの発想の原点とは?
田邉正太(以下田邉)
ゲームの何が面白いかということももちろん考えてたんですけど、結局は自分が好きなことをしたかったんです。ゲーム制作って期間も長いししんどいし、卒制の期間中ずっとモチベーションを保ち続けなきゃいけない。そこで僕が好きなことって何だ!?と考えたときに、やたらと数字が出てくるゲームだったんですね。
一年の頃から企画書を書いては先生にも見てもらいましたけど。そういうのをちゃんと形にしたかったんです。当然ながら数値が多ければ多いほど複雑になっていって、入口も狭くなっていきますよね。でも、それをちゃんと面白い形にできたら凄いなと思ったというか。
アクションゲームを批判するわけではないんですけど、アクションゲームって、そりゃ確かに面白いじゃないですか。実際にキャラクターを動かしたり敵を倒したり。見た目にも豪華だったり。でもそういうビジュアルとか動きに逃げたくないって気持ちがあって、数字のやりとりとか頭を動かすことで、ちゃんとバランス調整したらそれだけでも絶対面白くなるっていうのを証明したかったんです。
村上
誰しも最初はこういう複雑なゲームを考えがちなんだよね。ただこれだけ複雑で膨大な仕様を実装するのは心身共に大変だし相当な執念深さがないと形にできないから、それをやり抜いた点は高く評価できるね。切っ掛けもシンプルでいいよね。「誰もが考えるけど実際に形にした人っていないじゃん」っていう。
田邉
そうです。そのポイントを理解していただけるととても嬉しいです。
村上
このゲームの中心軸はレベルデザイン…えーと、レベルデザインって言葉って、業界内部ではすっかり浸透してるけど一般の人は分かりにくいかな。
田邉
レベルデザインの定義自体も曖昧ですよね。
村上
一時はゲーム会社によって意味合いが違ったりしたから。ステージのレイアウトのことを指す場合もあるし、難易度調整という意味合いで使う場合もある。でも今回のゲームの場合はトレードオフとか難易度の意味合いだね。
田邉
プレイヤーが自分で難易度を調整するゲームなので、そうですね。
村上
主人公のパラメータを上げるために、どの敵を何体配置すべきかを考えるのは楽しいんだけど、その経験から徐々に単純作業化してくるんじゃないかっていう懸念もあるよね。その作業に陥りがちな部分をどうやって面白くしようとした?
田邉
そもそもこのゲームは「ゲームを作るのを手伝ってもらってる」っていう設定なんですね。ゲームクリエーターがボスを強く設定し過ぎたから、プレイヤーが神となってゲームバランスを調整するゲーム。でもそれは建前であって、本当はこのゲームを作る時点で難易度は調整済みなんです。プレイヤーが面白いと感じるポイントも全て最初から仕込まれてるし。
だからプレイヤーは自分で考えて自分で行動してるように見えて、実は、僕の設計の上で動いてるにすぎないんです。「考えてる風」っていうのが一番楽しいんですよね。自力で考えてちゃんとできたときにモチベーションが上るから。
村上
オープンワールドのゲームで遊ぶときに、例えば「ゼルダの伝説」みたいに「次の行き先は自由に決めてもらって良いですよ」と言いながら、実はもう行き先は決められていて、まるで自分の意思でそこに向かったかのように演出されてる。それをいかにプレイヤーに気付かせないかがゲームクリエーターとしての演出力といえるよね。
田邉
ゼルダほどうまく作れてはいないですけど、気持ち的にはそこを目指して作ってました。
村上
一時期、「ドラクエは自由度が高いからゲーム性に優れてるけど、FFはストーリー重視だからゲーム性が低い」って批判された時期があって。
田邉
よく聞く話ですね。
村上
だけどドラクエも自由に動けるように見えて実は全部行動の順番が決められていて、イベントフラグを立てる順番も決められてるからドラクエもFFも全く同じなんだけどね。一本道のゲームだと感じさせないように堀井さん(ドラゴンクエストのクリエーター)の掌で見事に踊らされてるっていうか、その演出力がドラクエの凄いところなんだろうね。
田邉
僕は「アトリエ」シリーズが好きなんですよ。昔から続いてるゲームですごく奥が深くて。錬金術を駆使して色んなアイテムを作っていくんですけど、まず素晴らしいのは採取と錬金術と戦闘の三竦みによるプレイサイクルがすごくバランス良く出来てることなんです。アイテムを使って戦っていくんですけど、そのアイテムを作るのに1時間も2時間も考えるんですよ。で、それは自分で考え抜いて自力でアイテムを生成してるように見えて、本当は誘導されて完成してるだけなんですよね。そうと分かっていながらも、何時間も考えてアイテムを作って、「こんなの作ったー!!」とか言って誰も興味ないのにSNSに投稿したりしてます。
村上
作業を作業と感じさせず、遊びだと捉えられるような演出なのか、それとも数値の調整なのか。そこがうまくいってるから病みつきになるんだね。
田邉
今回の「このボス強くしすぎた」でいうと、予測してその結果がすぐに返って来るのが楽しいんですよね。小さなクイズを続けてる感じで。自分の予測が合ってたら嬉しいですよね。この時点で面白ポイント+1です。そこに付随して勇者の強化とやる気の上げ下げという遊びが入ります。
魔物と戦わせたくてもポイントを貯めないと魔物を召喚できないんですよ。だから勇者のやる気が下がってギリギリの状態になってることが多いんです。なのでこのギリギリの状態で一発逆転を狙うのか、それはプレイヤーによって魔物の配置の仕方も変わってくるんですけど、その時結構賭けに出るんですよ。これくらい強い魔物を配置しないと逆転できないんじゃないかって。ギリギリの状態での駆け引きのスリルは面白いですよね。
単に難易度を調整する作業だけだったら面白くも何ともないんですけど、やっぱりちゃんとゲームとして盛り上げる要素を組み込んでるので、それが面白さを倍増させてるんだと思います。
村上
そういう「効率予測」の妙によってゲームの良し悪しが変わってくるよね。慣れてくると、そろそろ一旦回復すべきか?それとも無理してでももう一戦するべきか?
と考えるようになる。きわどいけど、きっといける!よし、行っちゃえ!ってアドレナリンが出るような状況になるよね。
田邉
でも、そのアドレナリンがずっと出続ける状態、つまりフロー状態が続き過ぎるのも良くないと思うんですよね。だからやる気が一気に上がったり緩やかに上がったりっていう感情曲線の波の演出を意識して作ってます。
村上
フロー状態になると能動性が高まる反面、この状態が維持されると段々飽きてくるから、意図的にそのバランスを壊すように刺激を与えて、また何とかフロー状態に戻そうとする、というイメージね。
田邉
そうです。勇者をフロー状態にするために必死になるプレイヤー自身がフロー状態になるように調整してるんです。それがこのゲーム企画の軸ですね。
村上
プロなら毎日こういうことをするんだけど、学生でこの視点からゲームを作れるのは大したもんだなと思ったね。
田邉
このイメージを実現するために今までプログラミングの勉強とかゲームデザインの勉強をしてきたんですよ。プログラミングを学び始めたのは2年生からですけど、自由自在にゲームを作れるようになったのは3年生になってからなので、ここで実験的なゲームを作ってみて、数値の調整によってどんな風に感情が動くのかを検証してきました。
村上
その段階で今回のゲーム企画の構想というのは見えていた?
田邉
ここまで具体的なものではなかったですけど、やっぱり細かい数値の調整によってどこまで人の感情を動かせるかっていうのは常に企画の根っこにありました。
前回はアナログゲームの「アリクイ―ター」っていうのを作ったんですけど、そこでも数値のバランス調整を重点的にやってました。「アリクイーター」の完成によって「結構イケるぞ!」と思って、今回はもう少しハードルを上げてこのゲームを作ろうと決心しました。
村上
アリクイーターについては前回のゼミ通ヒーローズの時に話したね。
田邉
ですね。あのゲーム結構面白く出来たと思います。
村上
ゲーム開発の仕事をしてるときも、どこでどんな風にプレイヤーの感情を動かそうかと予想しながら仕様書を書いたりパラメータを調整するのが一番楽しい。
田邉
でしょうね。仕事するのめっちゃ楽しみです。
村上
システムの基盤が出来たら、プレイヤーが次のステップへ向かいやすくするためにストーリーとかギミックを作っていく。考えてたシステムとストーリーが融合した瞬間に鳥肌が立つような喜びが得られてめっちゃ自画自賛するよ(笑)。
田邉
あー、わかります。
村上
でも実装した後で大体ガッカリするんだけどね。「思ってたんと違う!どーしよー!」ってのたうち回る(笑)。昔いた会社では、プログラマーが「面白くしときました!」とか言って勝手にうまく調整してくれて助かったことがあるよ。
田邉
え?プログラマーが調整することがあるんですか?
村上
そこは関係性次第だけど、よくあるよ。例えばアクションゲームを作ってて、動きとかダメージ値の設計はプランナー側でやって、パンチを繰り出した後の硬直時間のフレーム数なんかはプログラマーが適当な数値を入れてテストプレイをしながら話し合って決めていくこともあるし。予め「硬直は6フレームでお願いします」と指示を出すこともあれば、他の仕様作りで忙しいときなんかは「良き形で調整をお願いします」と投げてお任せする場合もある。
田邉
そのやりとり、めっちゃ楽しそうですね。それ以前に、まず皆で一丸となって一つのものを作るっていうのが楽しいんですよね。
村上
でも田邉の卒制は一人…。
田邉
あ、これは実験でもあるし、自分の実力を見極めたかったっていう目的もあるから、それは良いんですよ。今回は企画とプログラミングだけじゃなくて、初めてBLENDERを触ってCGのモデリングもしました。過去に3dsMaxの使い方は授業で習ったんですけど、ぶっちゃけCGツールは何でも良くて、調べたらBLENDERの方が関連記事が多かったから。無料だし、UNITYとの相性も良いし。
村上
今BLENDER人気が高まってきてるからね。ゲームゼミの3年生でも二人BLENDERを覚えてゲームを作ってる。
田邉
へー、後輩もそんなことやってるんですね。
村上
去年の今頃ゲームゼミ卒業制作の最初のキックオフミーティングをやったよね。そこで田邉の企画書を見たときに、「やってもいいけど…本当にできるの?」って思った。仕様が膨大すぎて無理じゃないかと思ったから、一度大雑把にガントチャートを作ってスケジュールと工数計算をしてみたよね。そしたら完全にスケジュールが破綻してたから企画をボツにさせようと思った。グループワークじゃなくて一人で作るって言うし。でも見事にやってのけたね。
田邉
先生はああやってチャートを作ってくれましたけど、僕はやる気さえあれば何でもできると思ってるので、いくらでもやりようはあるなと思ってました。結果的にモチベーションが保てたので完成しました。まあ、実際にはかなりギリギリの状態での完成でしたけど。
村上
制作だけじゃなくて就活も同時進行だから、こっちはかなりヒヤヒヤしながら見てたな。
田邉
就活、ツラかったですねー…。最初のうちあんまり動いてなかったですしね。正直就活のことを少しナメてました…。「俺ならイケるやろ」っていう自負があったからエントリーシートも企画書もナメたこと書いて…。で、落ちまくったから先生に添削してもらったら、その内容見ていきなり説教されて(笑)。
村上
完全にナメてたね。こんなモン通るわけないだろ!って叱りまくったのが懐かしい。
田邉
たった一年前の話なのに、ほんまに自分アホやったなって思います。
村上
面談するたびに説教してたもんな。結果的には良い会社に内定も決まって、卒制も仕上がって、これは大きな自信になるんじゃないかな。
というわけで、この春からプロのゲームクリエーターになるので、自信をもってどんどん面白いものを作っていって下さい。
田邉
はい、ありがとうございました。