- 2021年2月21日
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ゼミ通ヒーローズvol.31 「杉本駿太と卒業制作作品『A LIVE』について語る」の巻 Part1
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
今回のゼミ通ヒーローズは、ゲームゼミ十二期生で現4年生の杉本駿太さんと、卒業制作作品「A LIVE」ともとにリアルゲームについて語っていきます。
杉本駿太さん
村上
お約束の質問として、まずこの学科に来た理由を教えてくれる?
杉本
はい、私がこの学科を志望した理由はですね。
村上
いや、面接じゃないから普通にして(笑)。
杉本
はい、元々岐阜県の学校で林業を専攻してたんですよ。一応美術部にも入ってましたけど、林業だとその知識が物を創るのに役立てると思ってたし、何か活躍の場がないかと考えたんですね。それで、この学科を調べて、イラストもゲームもアニメも幅広く学べると思ったので志望しました。
村上
なんで面接みたいになっちゃうかな…。ま、いいか。
杉本
入試のとき、僕の面接を担当してくれたのが村上先生だったんですけど、覚えてますか?
村上
え…あ…、えーと…どんな作品描いてたっけ?
(入試のときの思い出話が続くので中略)
で、ゲームの領域を志望したのはどうして?
杉本
ゲームというよりは玩具に興味がありまして。玩具でいうと、それこそ一号ライダーの変身ベルトとかあるじゃないですか、風車みたいな柄の。「これ、きっと回るんだろうな」って予想できる分かりやすいデザインになってますよね。仕組みを予想させて引き込むデザインが魅力的だなって思ったんです。
デジタルゲームだと、例えばマリオみたいに見ただけで遊び方が理解できるようなものとか。ゲームってそういう機能やデザインの集合体じゃないですか。だからゲームのことを学んだら色んな分野で活用できるんじゃないかと思ったんです。
村上
授業の中でも触れたアフォーダンスとかシグニファイアの要素ね。
杉本
そうです。言葉で説明しなくても動かし方や機能が理解できるものが理想です。
村上
なるほど、では本題となっている杉本の卒業制作作品「A LIVE」の話を聞いていこうかな。元々は「杉本大脱出」ってタイトルで、その名の通り脱出ゲームを卒業制作でやってしまうという企画だったね。
杉本
はい。脱出ゲームは脱出ゲームでも「他人を脱出させるゲーム」です。僕が閉じ込められているゲーム会場と、プレイヤーである卒展来場者の場所をZOOMで繋いで、お客さんが身振り手振りを駆使して僕に指令を与えて、その部屋から脱出させてもらうっていう流れになります。
ゲームのプレイ風景
村上
脱出ゲームのオンライン版ってことね。通常はプレイヤーが部屋から脱出するけど、この作品では逆になっていると。
杉本
そういうことです。お客さんは、画面の向こうで指をさして僕を移動させたり、「拾え」とか指示を出します。言葉が通じないので、ジェスチャーの方法はお客さんに自由にやってもらってます。
村上
言葉が通じない設定というのは?
杉本
世界中の言語が翻訳できる「BABEL」という名の薬を杉本が作ったっていう設定になっています。それは実験段階だったために副作用があって、それによって僕が全ての言語を理解できなくなってしまうっていうストーリー設定です。
村上
え…?そんな設定だったっけ?初耳なんだけど。
杉本
うふふふふふ。
村上
うふふふふふじゃねーよ!それ、最終合評の後から決まった設定なの?
杉本
そうですね。何度もテストプレイをしてるうちに段々固まっていきました。バベルの塔にした理由としては、初めは全ての人間は同じ言語で話していたけど、神が言葉をバラバラにしたという設定が面白いし作品のテーマにも合致したので、それでバベルの要素を加えてストーリーを練っていきました。
村上
なるほど、そのアイデアは面白いね。ゼミ担当なのに今頃になって初めてストーリーを知るのもいかがなものかと思うけど…。で、そもそもこの企画にしようとした意図は?
杉本
はじめの頃は、音声も言語も全て排除した状態でゲームを楽しむことはできないかって考えてたんです。そもそもこの企画に踏み切った理由というのが、普段僕らが使ってる言語って一体何なんだろうって疑問に思ったからなんですね。言葉がなくても気持ちは通じるんじゃないかって。であれば何らかの理由で言語が消し去られた世界を創って、話せるようになるまでをゲームにする、とするとテーマ的にもしっくりくるかなって思いました。
村上
うん、企画のプロセスはすごく良いよ。
杉本
あと、この企画にした理由が他にも大きく二つあります。
一つは、前期がコロナの影響でオンライン授業になったじゃないですか。ZOOMで会話をすることが増えて、そこでたまに音声をつけ忘れて無音のまましゃべり続けるようなことがあったんですね。でも割とジェスチャーだけでも伝わることがあったりして、「今から酒持ってくるわ」っていうメッセージがあった場合に、
村上
ん?授業中に酒飲んでんのか?
杉本
あ、いや、友達同士のやりとりで、です。で、酒を飲むジェスチャーをすると皆から「よし、冷蔵庫から取ってこい」ってリアクションがあったり。そのとき、動きだけで言語の壁は超えられると思ったのが大きな切っ掛けですね。
あと、僕はしゃべるのがあまり得意じゃないので、昔から誤解されることもありました。この間も焼肉屋さんでミルクを頼もうとしたんですよ。そしたら店員さんがミルクを聞き間違えてビールを運んできたりとか。
村上
…てゆーか、焼肉屋さんでミルク頼んだの(笑)?そりゃビールって思うだろうよ。
杉本
いや、メニューにあったもんで…。というように言語の不確かさというものを感じたんですね。こっちはこう思ってるのに言葉があるせいで逆に伝わってないなっていう。だったら言語がなかったらどんな世界になるんだろうって思って、この企画が固まりました。
村上
なるほど。部屋に閉じ込められてる杉本自身は言葉を失った世界を一人で体験してるわけだけど、そこで得られたものってあった?
杉本
当たり前かも知れないんですけど、モニターの向こうにいる他人をよく見るようになりましたね。それこそ、犬とか猫って話せないじゃないですか。でもじっくり見て「こういう気分なんじゃないかな」って考えるのと似たような感覚が人間同士で起こってるなって感じることがあります。でもそれは向こう(プレイヤー)も同じだと思うんですよね。言葉が通じないからジェスチャーで何とかしなきゃいけないって。
ジェスチャーをしている来場者
杉本
心なしかお客さんも笑ってくれてるように感じるんですよね。言葉があるのに通じないと普通はイラっとするじゃないですか。でもジェスチャーで通じてなかったら「あ、違う違う!」ってなってそこで笑顔が生まれるんですよ。そういった意味で、僕が間違って動いたとしても逆に面白くなったりする場合もあるので、そこは興味深いなって思いますね。
村上
笑ってるのって、まず単純に杉本の動きが面白いっていうのがあるんじゃないかな。ジェスチャーだけのやりとりだから、当然杉本としても大袈裟に動いて見せなきゃいけないし。慌てふためいた演技がコミカルに映って、そこがウケてるんだと思う。
杉本
ありがたいっすね。
村上
先日赤津先生(キャラクタ―デザイン学科のイラストの先生)が挑戦してくれてて、その様子を見てたらやっぱり大爆笑してたもんね。杉本が狙った通りの笑いなのかどうかは分からないけど。
いずれにしてもかなり実験的な作品だと思う。今までゲームゼミが作ってきた作品って、アナログゲームかデジタルゲームの二種類しかなくて、過去にも「脱出ゲームを作りたいという声はあったんだけど運営のことを考えると現実的ではないので悉くボツにしてきた。でも今回は実際に無理だと言われたものをやり切ったことで、ゲームゼミとして一つ壁を越えた感じがする。
杉本
すごいハードでしたけど、後輩にもこんなの作ってほしいですね。
村上
時代性も反映されてて面白いよね。コロナ禍でZOOMに馴染んだ今だからこそ生まれた企画とも言えるし。
では中身の話に移ろう。何がこのゲームの面白さのポイントだと思う?
杉本
プレイヤーが覗き込んでるノートPCの下にもギミックが隠されてるっていうところですかね。それまでは映像の向こう側の出来事を眺めながらゲームを進めてきたのに、まさかモニターの手前にもギミックが仕込まれてるとは!というサプライズとして成功したと思います。
村上
なるほど、他に面白い仕掛けはある?
杉本
その他には「LIVE」のギミックが結構大変でしたね。よくニュースの中でも出てくる「LIVE」のテロップがあるじゃないですか。実はこれが映像の効果ではなくて実際に触れることのできるギミックだったっていう展開ですね。だからいかに自然に見えるかが重要なんです。クォリティの問題で、すぐにバレちゃうんですけど…。
村上
画面を飛び越えた仕掛けはインパクトがあるよね。確かにほとんどのプレイヤーは皆ここで驚いてた。
Part2に続く