- 2021年2月11日
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ゼミ通ヒーローズvol.30 「田邉正太とレベルデザインについて語る」の巻 Part1
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
今回のゼミ通ヒーローズは、ゲームゼミ十二期生で現4年生の田邊正太さんと、卒業制作作品「このボス強くしすぎた」」ともとにゲームのレベルデザインについて語っていきます。
田邉正太さん(今の写真は恥ずかしいので高校時代の写真を使ってほしいとのこと。恐らくこっちの写真の方が恥ずかしいことに本人は気付いていない)
村上
田邉はこのゼミ通ヒーローズに登場するのは二回目だね。改めて自己紹介をお願いします。
詳細は以前の記事を参照。
ゼミ通ヒーローズvol.19「田邊正太と発想法について語るの巻」Part1
https://www.kyoto-art.ac.jp/production/?p=109426
ゼミ通ヒーローズvol.19「田邊正太と発想法について語るの巻」Part2
https://www.kyoto-art.ac.jp/production/?p=109428
田邉正太(以下田邉)
ゲームゼミ4年生の田邊正太です。まあ、ゼミの中ではいいやつ担当をしています。
村上
…今、ウケようと思った?
田邉
はい、ウケようとしました。
僕は卒業研究用のゲーム「このボス強くしすぎた」の企画をやるにあたって、ゲームの何が面白いのかっていうのを紐解いていって、そこから学んでいきました。またそれを形にするためにプログラミングを学んで、自分一人でデジタルゲームを作ってきました。
村上
今回の卒業制作においては、企画、デザイン、プログラムの全部を一人で担当してたね。その苦労の甲斐あって、見事奨励賞を獲得!
田邉
あ、はい。ありがとうございます。
村上
今回かなり複雑な仕様のゲームになっていて、一人でこれらを全部こなしたことや、かなりチャレンジングなプログラミングを盛り込んだことなどなど、色んな面が評価されての受賞になったね。
田邉
ありがとうございます。卒展期間中にゲームの開発者を名乗るおじさんが来てくれて、色々お話を聞かせてくれたんですけど「これは面白いねー」って興味を持っていただきました。
村上
なるほど。ではゲームの内容について説明して。
田邉
これは、分かりやすい言い方をすると「主人公である勇者を楽しませてやるゲーム」です。
村上
「楽しませてやる」…?
「このボス強くしすぎた」のゲーム画面
田邉
そうです。プレイヤーが楽しむんじゃなくて主人公を楽しませるんです。RPGの世界をベースに、プレイヤーは神の視点となって勇者の「やる気」を高く保っていきます。
プレイヤーは魔物を召喚して勇者と戦わせます。その時、戦闘が終わったときに勇者の残り体力が少なければ少ないほど色んなボーナスが付与されて、勇者がどんどん成長していきます。要は難易度を調整して勇者を楽しませてやるという開発者目線のゲームとなります。
村上
ここでいう「神」というのは「開発者」という意味でもあるわけね?プレイヤーが勇者を操作するゲームではなくて、プレイヤーは神なので、魔物を配置するのが仕事であると。
魔物召喚のシーン
田邉
はい。でもこの時弱い魔物だけを配置してもダメです。そうすると勇者は余裕で勝ってしまって、「やる気」が全然貯まらなくなってしまいます。「やる気」は時間経過によって自動的に下がっていくんですけど、ボス戦で負けたりすると大幅に下がってしまいます。
ザコ戦では勇者が瀕死になるように敵を配置すると良いです。瀕死であればあるほど復活した時に強くなるので。
村上
分かりやすく言うと、ドラゴンボールのスーパーサイヤ人のイメージね。瀕死になるほど復活したときの成長が大きくなるっていう。
田邉
それ、来場者からも同じこと言われましたよ。ドラゴンボールが共通言語だと認識してるのは多分おっさんだけですよ。
村上
おっさん…
田邉
でまあ、勇者の気分を上げて成長させて、最終目標としてはこの世界のボスを倒すことになります。
村上
ある程度勇者を強くして、そろそろいけるかな?て思ったところでボス戦に挑戦させると。
田邉
このゲームはリアルタイムで時間が経過するんですけど、昼の間に魔物を召喚して勇者を強化していって、夜になると自動的に勇者はボスと戦います。その時に、自分がどれくらいボスに通用するのかが分かります。何回もボスと戦うことになるんですけど、やる気を高く保っていないとどんどん厳しい状況になっていって、日数が経てば経つほどやる気の下がり幅が大きくなっていきます。なので早めにボスを仕留めるようにした方が良いですね。
村上
そろそろボスを倒せるぞ!って見極めるのが楽しいということね?
田邉
そういうことです。勇者が色んなスキルを覚えて、AIが強化されていって性格が変化したり、それによって使用するスキルが変わっていったりします。そういうスキルを駆使して戦っていくのが終盤になるので、勝てるか勝てないかの瀬戸際のタイミングが一番楽しくなります。
村上
修得したスキルはプレイヤーが任意に使うことが出来る?
田邉
いえ、勇者が勝手に使います。
村上
じゃあ、とにかくザコ戦で経験を積んで、たくさんスキルを修得させて、勇者がそれを勝手に使って勝手に気分が上がって…、というのを楽しむ。
田邉
はい、基本のゲームサイクルはそんな感じです。
その他にも「建設」という要素があります。例えば「民家」を建てると、村人が生まれるんですけど、村人が増えれば増えるほど間接的に勇者の育成に関与したり、ゲームが有利に運ぶように手伝ってくれるようになります。
建設の様子
村上
そこややこしいからもう少し分かりやすく説明して。
田邉
村人それぞれに役割が与えられるんですよ。例えば「話が得意な村人」を作ると、勇者と村人が接触したときに勝手に会話をして勇者の気分が上がったり。あと、火の属性が得意な村人を作ったとしたら、その村人と会話をした勇者は火の属性が上がったり。
村上
これに対してプレイヤーはある程度関与というか操作はできる?
田邉
村人を作った時、その役割というのがランダムで決まるんです。火の属性を上げたいと思ったら火属性の村人を増やすことになります。ただし、村人の数には上限が決まっているので村の定員が圧迫してしまうんですね。なので、火の属性の村人を三人揃えて合体させて一人の強力な「火の村人」を作り出します。
村上
村人が…合体するの?
田邉
そうです。そこが面白ポイントなんです。その合体によって村人が強化されます。村のスロット、つまり人口の上限とガチャとの相談ですね。これ、意味わかりますか?
村上
つまり村には人数制限があって、火の村人が3人いるとそれだけで3人分の枠を埋めてしまうから、こいつらを合体させて1人にすれば二人分の枠が空く。だから効率良く隙間を埋めていきましょうと。そういうことでしょ?
田邉
そうです。同じ属性の村人を三人集めるのは大変なんですけど、その分のリターンが大きいので気持ちが良いんです。緊張と緩和のバランスを演出してるということです。
村上
なるほどね。そこは割と今風の王道路線の仕様だね。
田邉
村人のことをもう少し説明してもいいですか?
村人の属性を作って勇者と会話をさせる以外にも、お店を建てたとき、例えば酒場とか鍛冶屋なんですけど、そこでは村人に指示を出してアイテムを作ってもらえるんです。その時の属性によってアイテムの質が変わって来るんですよ。だから村ぐるみでアイテムを作って、村人全員で勇者を支援するということもできます。
村人を増やすことや村人を強化すること、そして建物を作ってアイテムをつくること、これらの要素が全て勇者の支援につながっていくというゲームになっています。
村上
見た感じ、「ウィザードリィ」とか「ウルティマ」みたいな初期のRPG黄金時代に戻ったような印象だね。
田邉
そうです、そこ狙いました。
村上
でもRPGの基本は「プレイヤー=主人公」なのに対して、今回は同じように見えながらもプレイヤーは神の視点で間接的に勇者を支援していくという、早い話がRPGではなくシミュレーションゲームってことだよね。
田邉
正確にいうと、RPGの考え方を利用したシミュレーションゲーム、というジャンルで考えました。
村上
その考え方は面白いよね。ただこれ、ゲームに詳しくない先生にもプレゼンで魅力を伝えなきゃいけないわけで、そこはかなり苦労してたね。完全に玄人ウケする内容なので。
田邉
うーん、難し過ぎて僕の実力ではなかなかうまく伝えられなかったですね。
Part2に続く